 | | 全日本柔道連盟強化副委員長・上村春樹氏 |
上村春樹・全日本柔道連盟強化副委員長 20日は大変だった。90キロ級の吉田秀彦が3回戦で負傷。腕の形が反対の方向を向いてしまうほどの完全脱きゅうだった。相手がすくい投げをかけてくるのを予測しながら様子を見て技をかけようとしてとどまった、そのすきを突いてたまたまかけた技が100パーセント決まって投げられてしまった。吉田が悪いのではないし、決して失敗ではない。
3回戦では普通の吉田ならかける技のタイミングでも、確実に勝ちたい気持ちから慎重になっていた。これが五輪だ。その瞬間、相手は確実につかんできた。この相手はバーミンガムで一本勝ちしている。手ごわい相手ではなかった。偶発的にかかった技に軍配が上がったのであり、何1000分の1の確率の結果が今回の試合だ。
吉田は初戦が左の相手だったので力は吉田が上でもスタミナを消耗するので苦戦になり不安材料であることは指摘していた。試合後はかなり元気だったが、次の2回戦では技が出なかった。吉田が世界チャンピオンであり、出場選手は皆、王者の技を研究してくる。相手もよく研究してきたし、反則勝ちだったので吹っ切れた気持ちでの勝利だったとは言い難い。自分のリズムを出しにくい感じの中で迎えた3回戦、そして負傷だっただけに悔しいはず。ぜひ勝たせたかった。この大会では世界チャンピオンの金メダルは田村亮子とキューバの選手を除き、男子ではだれもいない。吉田なら、と思っていた。
年齢が30歳を超えているので試合の組み立ては自分で決める。最高のリズムに持っていくため、勝つためのことは確実にやって、その最高潮で世界の頂点に立てる。運を呼び込むリズムを作ることも必要だ。これが分かっていて、3回戦ではっとする技に出会ってしまったというのがシドニー五輪の吉田だった。
私は吉田が金メダルを取ったら一区切りをつけさせたかった。ただ本人はケガしたばかりで進退は何とも言えない。自分の中で決着が付けられなかったら辞める気にはならないもの。自分の心の中で、負けたことに対する悔いが残るし悩むはず。もしかしたら選手生活を辞めてしまうかもしれない。あるいはアテネ五輪ではなく全日本選手権に照準を定めるかもしれない。本人が決断を言ってくるまでこちらは待つ。心で決着をつけないと良い指導者にもなれない。ただ指導者は正直言って裏方の仕事だ。相当の覚悟が必要で、やるならば目標がいる。選手生活は十分だ、という気持ちならそれはそれでいいと思う。
心のかっとうは自分で乗り越えないといけない。勝負に対する執念を持ち五輪でその集大成をして結論をつけたかった吉田だから、まだ中途半端に終わっている気分だと思う。自分で目指してきた五輪がこの形で阻まれたわけだが、現役復帰か完全に指導者に専念するかは本人次第だ。
女子70キロ級の上野雅恵(住友海上)は正直言ってよくやったと思う。攻めて攻めて攻めまくるということを目指していたが、五輪で自分の気持ちに焦りが出た。先に主導権を取ろうとしていたのだが自分に適したリズムはあるもので、2回戦は後半で疲れていた。攻めすぎはスタミナを消耗する。オーバーペースになると必ず自分に跳ね返ってくる。ただ喜ばしいのは攻める気持ちを持ってくれたことだ。成長の余地はある。体力をつけ攻めのパターンを多く持つこと。攻め投げなどにとどまらず多くのパターンの勉強が欠かせない。
技をかけるというのは危険を伴うしこわいもの。普通の選手は攻撃パターンを作って気持ちを追いつかせる。ただ上野は心から始まった。まだ21歳、この気持ちを持ち続けられるならアテネ五輪では金を狙える。まだまだ時間のかかる距離にいるが努力は決して無駄ではない。
21日はいよいよ井上康生(東海大)が男子100キロ級で登場する。彼は調子が良い。この階級は体の大きい選手が多いので油断できない。それから吉田のようなアクシデントには気を付けることだ。男子100キロ超級の篠原信一(旭化成)と並んで大黒柱なので是非勝って欲しい。阿武教子(警視庁)は女子78キロ級に出場するが右手首をケガしており調子はそんなに良くない。調整はどうにかやっている。オリンピックのチャンピオンになりたいという勝ちに対する執念がどこまで出るか。これは試合でしか分からない。だれでも勝ちたい気持ちは持てるが持続できない。最後の1秒まで持てるかが見どころだ。(シドニーで21日未明、聞き手は遠藤繁)
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