 | | 日本水泳連盟競泳委員、武蔵野音楽大学講師・野口智博氏 |
野口智博・日本水泳連盟競泳委員・武蔵野音楽大学講師 女子100メートル背泳決勝での中村真衣(中大)は相手が強すぎた。前半は彼女のベスト記録と同じペースで泳いでいたので、自分のレースは予想通りだったのだと思う。前日は眠れなかったと本人は言っていたようで、相当プレッシャーはかかっていたのだろう。モカヌ(ルーマニア)の勝因は中村が前に出ていってもあわてず、じわじわと追いついていった。中村をとらえたのは最後の5メートルあたりだった。中村の場合は追いかけてきた選手がいたので何とか粘ってそこが自己ベスト記録の更新につながったと思う。今の段階ではこれで勝負がついたということで銀メダルの結果には満足だ。
稲田法子(早大)は前半15メートルがいつもより早いペースで泳いでいたし、モカヌに並んでいく積極的なレースに出ていた。それが影響したのか75メートル以降、体が動かなかった。準決勝での記録よりは下回っていたが今の自分の力は出し切ったということだろう。自分で立てた作戦をやろうとして勝負に出て、その結果が5位なので仕方ない。
山本貴司(近大)の200メートルバタフライ準決勝止まりは予想外で痛い。間違いなく決勝に残ると思っていたので私もこの結果には絶句した。本人もぼう然とした様子に見えた。思うように前半出ることができず乱されたレースになった印象だ。原因は調整にあるのではないか。8月にカナダで好記録を出しており、この時点でトレーニングはうまくいっていたのだと思う。ただその後の調整が早過ぎたのかもしれない。調整とは練習量を落として疲れをためないようにすることだが、100メートルバタフライにチャンスが残っている。今回のことは早く気持ちを切り替えて欲しい。田中久喜(明大)は合宿から状態が悪く立て直しの段階だったのでこれは仕方ない。現段階で出せる者を出していた。本来は後半から追い上げるタイプの選手だが攻めのレースをしかけていた。
女子平泳ぎ100メートル決勝の田中雅美(中大)は今回よくやったと思う。入場の時、「不安」と顔に書いてあると感じるような状態だったし、スタートを含め迷いがあったのではないか。調子の良くないヘインズ(南アフリカ)は前半から頑張り、勝ちに出てきたので75メートル以降から動けなくなっていた。そこにクアン(米国)らが出てきたが、田中は自爆していくヘインズを横に感じ取った時、「捕らえなければ」という意識が芽生えたと思う。予選や準決勝よりも記録は良いので、得るものがあったレースだったと思う。次へのヒントを得て、気持ちは吹っ切れたのではないか。ペースを取り戻したというよりレースに向かう前の闘志や覚悟が芽生えたようだ。それがレースでの決断力やパワーの発揮につながる。
萩原智子(山梨学院大)がちょっと心配だ。200メートル個人メドレーではバタフライと背泳がもう少しのびなかった。特に背泳に力点を置いている選手なので、今回の背泳は次への不安材料になった。この種目で背泳は32秒、と考えていたようだが実際は33秒かかっている。個人メドレーの成績で一喜一憂しないで気分良く決勝に臨んでほしい。
男子200メートル自由形は戦術を度外視しためったに見ることが出来ない見ごたえ十分のレースだった。先行でまずデービス(米国)が脱落し、最後はソープ(オーストラリア)も振り落とされた。通常50メートルのレーンなら1往復終了後、2往復めの往路でタイムが落ちて最後に追い上げるというパターンがある。今回のレースでこのパターンだったのはファンデンホーヘンバンド(米国)、ハケット(オーストラリア)だけ。あとは皆エネルギーを使い果たすという無鉄砲なレースだった。
競泳は3日間を終えたが、この冒頭がチームの流れを決める非常に大事な期間だった。日本を評価するならば「5分5分」。メダル数は上出来と言っていい数で自己ベスト更新もあるが、一方でメダル有力候補による取りこぼしもある。19日のレースはまず萩原が200メートル背泳につながるレースをするかどうか、だ。バタフライの上下の動きが大きかったのでもう少し楽な感じで入っていけばいい。専門外の種目経験を増やし楽しみながら自己ベスト更新を目指して欲しい。また女子200メートルバタフライでは三田真希(須磨学園高)と中西悠子(近大)が登場する。中西は予選・準決勝共にいけそうだが、三田が心配だ。100メートルバタフライの不調を吹っ切れるかどうか。予選突破は2分12秒台が目安。予選は午前中に開かれ思ったほどレベルは高くないので三田にはチャンスだ。
男子200メートル平泳ぎは林亨(中京大)と北島康介(本郷高)が出る。林は100の方が得意だと思うが、その種目では不本意に終わり体力を消耗していないはず。レース展開は上手な選手だから力を出し切るつもりで予選を通過し準決勝に残って欲しい。(シドニーで18日、聞き手は遠藤繁)
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