 | | 全日本柔道連盟強化副委員長・上村春樹氏 |
上村春樹・全日本柔道連盟強化副委員長 柔道の女子52キロ級で銀メダルになった楢崎教子(ダイコロ)の敗因は「ほんの一瞬」にある。平常心を失った時に、普段なら余裕でかわしている技をかけられてしまった。審判がベルデシア(キューバ)の「かけ逃げ」を指摘せず、むしろ楢崎に指導を与えたことは「これで審判はそう取るのか」という不安を呼び起こし本人の気持ちに影響を及ぼしてしまう。いつもと違う気持ちが出て、日ごろ自分で組み立てた取り組みの手順を間違え、そしてそれが動揺につながってしまった。その一瞬で決まってしまったのが今日の決勝だった。これが五輪、という感じだ。見えていたメダルは確実に金色だったが、一瞬の出来事で銀色になってしまった。個人的には決勝戦の最初、楢崎がかけた技の方がいい内容だった。楢崎を投げたベルデシアも驚いたのではないか。この選手も転んだかと思えば必死に技を決めてきたあたり、ただ者ではない。
終了後、声をかけたが楢崎は泣きじゃくっていた。もう一回やるか、と聞くと「はい」と答えていた。日本選手団の中でも楢崎は一番安定しており、練習の組み立ても全部自分で決めることができるしっかりとした選手として、柔道関係者の信頼も厚い。それだけに金メダルを期待できたし、本人も取るつもりで決勝戦に臨んだと思う。
一方、66キロ級の中村行成(旭化成)は減量も調整もうまくいっていたが、今日の試合はすべて集中力に欠けていた。いつもなら技をかけていくところを、場外に出て反則を取られるなど悪いパターンの試合運びだった。初戦、2回戦などは自分よりも実力が劣る選手だが、そこですでに面食らった部分があった。意外に対戦相手が前に出てくるのであわてたら場外に出てしまった、というのは自分の思うような柔道ができていないということ。1つの動揺が悪い方へ、悪い方へ向かっていった。指のテーピングははげただけだったが今回は心の問題の方が大きい。
柔道は短期間の勝負で、気持ちを高めて気力を持たなければなかなかつかめない。中村は2回戦でもう息が上がってしまっていて、その後の休憩も気持ちが切り替わらないまま進んでしまった。技の切れはあるのだが、気迫や体の底からわき出てくるものというのが薄らいできた。決しておろそかな練習をしていたわけではないが、自分の思いとは違う方向に試合が流れていき元に戻していけない精神的な負担があったのだろう。迷えば難しい方へ物事を考えてしまうものだ。
18日は女子57キロ級に日下部基栄(福岡県警)、73キロ級に中村兼三(旭化成)が登場する。中村はアトランタ五輪金メダルで。パリ世界選手権も制したが、五輪出場権を取るまでの道は険しくはい上がってきた。今、ちょっと迷いはあるようだがこの種目では世界1、2位の力がある。相手と組み技を出せるか期待したい。日下部は21歳の新鋭で最近ぐんぐん伸びている。思い切って攻めていけばいい。練習でこなしたことを使いこなせば面白い試合をしてくれそうだし、表彰台に立てる。メダルも近い。いかに自分に自信を持たせる練習をしたのか、いかに勝つための試合を積み重ね経験してきたか、その中から自分がどういう意味を見いだしてくるのか、ということが大事だ。それで初めて自信を持つことが出来る。(シドニーで、聞き手は遠藤繁)
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