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「主役は選手」流れ加速
 1日閉幕したシドニー五輪は、今世紀最後の大会にふさわしく、21世紀に向かう五輪の姿を随所にのぞかせながら、いくつかの課題も提示した。4年後に五輪は再び発祥の地アテネに戻る。大きな節目の大会となったミレニアム五輪を振り返ってみた。

・ヒロイン続々

 「あなたの勝利は日本社会の女性の地位向上にインパクトを与えますか」。閉会式前日の記者会見。高橋尚子(積水化学)は外国人記者に問われた。

 「そうですね、自分自身は男女関係なく精いっぱいやってきた結果が(勝利に)つながったのだと思う。女性も男性と同じことができる。日本の社会自体、女性が自立してきたことの反映だと思います」

 女子マラソンでの高橋の優勝に、地元の新聞には「日本社会で抑圧されてきた女性たちの解放を促すだろう」といった論調すらあった。史上最難関といわれたコースで達成した五輪最高記録の優勝は、女性の秘めたパワーに驚嘆した海外マスコミに、勝利の意味さえ増幅してとらえられた。

 日本選手団は268人の40%強に相当する110人を女子が占めた。数では男子に劣ったが、成績では圧倒、18個のメダルのうち13個は女子だった。

 日本に限らず、主役は陸上史上初の五冠に挑んだジョーンズ(米国)や、オーストラリアの先住民アボリジニ出身で「融和」をキーワードにした大会の象徴的存在となったフリーマンら女性アスリートだった。

 ジョーンズの夢の五冠を阻んだドレクスラー(ドイツ)も、女性のたくましさを見せつけた。1992年バルセロナ五輪以来の金メダルに、「カムバックなんて言わないでよ」。

 83年世界選手権を18歳で制し、88年ソウル五輪は100,200メートルと合わせた3種目でメダルを獲得。故障続きでこの5年間、不振が続いていた。

 劇的な復活に、10歳になる一児の母は、ダンスステップを踏みながら勝利に酔った。円盤投げ優勝のズベレワ(ベラルーシ)は39歳。「きょうは若い子たちの元気がなかったみたい」。息の長い女性たちの競技生活が生むドラマは、人生経験豊かな人間の戦いを映し出す。

・ドーピングの陰

 開会式の選手宣誓に、前例のない言葉があった。「ドーピング(禁止薬物使用)と薬物のない競技に専心します」。五輪で初めて薬物使用反対を誓ったのが今大会だ。だが、5人がドーピング違反でメダルをはく奪された。連日のように新たな摘発者が発表され、地元の新聞は「薬物汚染五輪」と書き立てた。

 「違反者が出ないより、出た方が薬物と戦う姿勢をアピールできる」。国際オリンピック委員会(IOC)のホドラー理事は強気に言い放った。医師の処方ミスで風邪薬が引っ掛かったとされる女子体操のラドゥカン(ルーマニア)にも容赦しないIOCの厳しい態度は、確かにドーピング常習者に脅威となるだろう。

 しかし、選手をさらし者にしかねないパフォーマンス先行型のIOCの姿勢には批判もある。大会中に明らかになった米国陸連のドーピング隠しは不公平感を募らせた。5冠を目指したジョーンズの夫、砲丸投げのハンター(米国)が、今季4度もドーピング違反が判明しながら、公表されていなかったからだ。

 薬物違反者はシドニーから追い出されるのに、彼はコーチ資格こそ奪われたものの競技場内で妻を応援した。スター優遇と非難されても仕方ない。

 陸上競技では世界新記録が一つも樹立されなかった。「厳しくなったドーピング検査も影響しているのだろう」。国際陸連のディアク会長の発言は意味深長だ。

・国に縛られず

 世界のアスリートたちはすでに国・地域や所属する団体の枠を超えて動き出している。

 陸上の女子棒高跳びで銀メダルを獲得したグリゴリエワは、1996年に祖国のロシアを離れ、99年にオーストラリアの国籍を取得した。ロシアでは400メートル選手。種目転向にあたり、世界記録保持者のエマ・ジョージがいるオーストラリアへ移住した。

 棒高跳びを始めた3年半前は、「3メートルくらいしか飛べなかった」。だが、ジョージという練習パートナーの助力で力をつけた。五輪でのメダル獲得に「この国に来た私の選択は正しかった」。地元ファンも違和感なく受け入れ、スタンドも喝さいした。

 卓球は中国から海外に散った有力選手たちが、シドニーに集結した。ソウル大会のダブルスを中国選手として制した偉関晴光(ラララ)は、日本選手として3大会ぶりに出場。女子シングルスのソウル大会覇者の陳静(台湾)は、今回も銅メダルを獲得した。

 生まれた国や地域に縛られず、何よりも最適な練習環境や五輪への出場チャンスを求めて所属国を選ぶ選手たち。これも商業路線がもたらした。競技で稼がなければならないアスリートたちが、明確な自己主張を始めるのは当然だ。

 来年7月に勇退するIOCのサマランチ会長は「五輪の主役は選手」と言い続けた。そんなスローガン以上に「個の時代」への流れは加速している。(五輪取材班)

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