NIKKEI NET
シドニー五輪2000
最新ニュース
new競技別
new解説者の目
五輪ビジネス
豪SMH紙から
みどころ・コラム
from シドニー支局
競技日程
選手紹介
競技会場
フォトギャラリー
国別メダル数
みどころ・コラム
野心燃やす指導者、規律と個性で選手導く・日本サッカーの野望(下)
トルシエ監督にとって、五輪は野心の発露の場〔共同〕
 眼鏡をかけ、ぱりっとしたスーツ姿は、いかにも理知的なフランス紳士。その実、口を開けば炎のように攻撃的だ。

 「周囲が全面的に私を支えているという確信が抱けない。五輪に希望を見ているのは私だけ?」「どの国でもクラブは代表に協力する義務がある。なのにJリーグときたら……」。歯に衣(きぬ)着せぬ言葉は日本サッカーの旧弊を切り捨てる英知の剣か、過剰な防衛本能の表れか。

 「私には野心がある」がフィリップ・トルシエ日本代表監督の口癖だ。2年後のワールドカップで日本を高みへと導く使命感。シドニー五輪はそのステップと考える。同時に日本で自身の名声も確立し、「いずれは欧州へ」との思いもあるだろう。

 「指導者トルシエ」は規律の人。「フラット3」「オートマティズム」といった、人とボールを秩序正しく動かす戦術にそれは端的に表れる。日本代表の勤勉な“家風”と折り合いは良く、吸収の早い五輪世代には素直に受け入れられた。

 解任騒動のさなかにも、孝行息子たちからは「監督はトルシエで」と相次ぐ支持の声。強烈なリーダーシップがこの紳士のいいところで、取り扱いに苦労する協会や報道陣などもその点は評価する。

 一方でトルシエはチームの外の人間とは距離を置く。例えば、五輪で対戦する相手の情報収集。前回アトランタ大会では強化委員会がち密な偵察を行い、ブラジルを倒すのに一役買った。が、トルシエは仕事の外注を嫌い、自分と3人のコーチ(山本昌邦、サミア、望月一頼)で全作業を請け負う。

 監督の評価から支援に職務が変わった強化推進本部に対しても、不信感をぬぐいさっていない。「解任騒動で負った傷がいえていない」と某幹部。記者会見の拒否、コーチ陣の口にはチャックを施し、機密漏れはないかと新聞・雑誌はすべて目を通させる。

 シドニー五輪で頼みは戦況を読む己の眼力のみか。予選リーグで南アフリカ、スロバキア、ブラジルと難敵が待ち受ける。「目標は表彰台。結果を出さないと日本は私を優秀な監督と認めないようだから」。手柄の拡散を嫌い、独断専行が目立つ分、負ければ「2002年は別の人で」と手のひらを返されよう。

 昨年4月のワールドユース前に、合宿を張ったブルキナファソで、選手が乗ったバスを鈴なりに取り囲んだ子供たちに札束をばらまいて、同乗した面々を仰天させた。トルシエは「笛吹き男」か。遠巻きに見守る大人たちをよそに、従順な若者たちを連れ、どこまで遠くへ行くのだろう。=敬称略

 この連載は阿刀田寛が担当した。

[2000年8月31日/日本経済新聞 朝刊]

Copyright 2000 Nihon Keizai Shimbun, Inc., all rights reserved.