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「勝てる心」築く一言・メダルつかむ科学(1)
 シドニー五輪では選手強化をサポートする科学の力もメダル争いを左右する。心理学を応用したメンタルケア、パソコンを駆使したフォームの解析、次々と登場する新しいウエア――。五輪戦士を舞台裏で支える最新の理論、技術を紹介しよう。

 「柔道の代表は人柄分類で自己内閉(分裂)型が圧倒的に多いんです」。船越正康・大阪教育大教授は、金メダル量産が期待される柔道で、選手の精神面のサポートを担当している。

 柔道チームは五輪、世界選手権の1カ月前、代表選手に対して心理テストのクレペリン作業検査法を実施する。単純作業の一ケタの足し算を連続して行い、その作業効率が示すグラフの形状から、情緒の安定性や仕事への適応力を判定。被験者をおだやか型、じっくり型、内的安定型など十タイプに分ける。

 その結果、柔道の代表選手は、人との交わりを好まず自然や芸術などに興味を持つ、とされる自己内閉型に集中する。1987年以降の世界選手権と五輪の男子代表計26人のうち古賀稔彦、吉田秀彦、小川直也ら18人がこのタイプ。シドニーの代表でも篠原信1,田村亮子ら有力金メダル候補が当てはまる。

 「職人肌といってもいい。こういうタイプが、柔道で代表になるほど上達するということでしょう」と同教授。同様の偏りは他競技でもみられ、例えばアメリカンフットボールのクオーターバックは、適応性、確実性、粘り強さなどを適度に併せ持ち、何でもほどほどにできる内的安定型が目立つという。

 クレペリン検査のグラフを分析すれば、人柄だけでなく、精神の健康状態や成熟度なども判断できる。五輪や世界選手権の前に実施するのはそのため。各選手の精神状態を把握し、そこから戦うためのベストの心理状態に導くカウンセリングをするのだ。

 具体的に難しいことをするわけではない。例えば、田村が「体の状態は悪くないのに思った通りに動いてくれない」と相談にきたことがある。検査結果でも精神状態が不安定なことが示されていた。

 そこで「体が動かないなら心から動かそう。道場で自分がほれぼれするような声で気合を入れてみたら」とアドバイス。翌日、コーチから「田村の動きが戻りました」と報告を受けた。四連覇した昨年の世界選手権前のことである。

 田村は五輪で連続して決勝で惜敗した。「なぜ決勝で2回とも同じような負け方をしたのか。もう本人もつかんでいると思うけど、(決勝を迎えた時の心理状態に)その理由はあります」と船越教授。悲願の金メダル獲得には、戦いに臨む心作りも重要なカギを握っている。(北川和徳)

[2000年8月8日/日本経済新聞 朝刊]

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