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高橋尚子、天性の走り開花・女子マラソン物語(19)
名古屋国際女子マラソンでスパートをかける高橋(右)=3月
 「有森2世」。高橋尚子のことを小出監督はかつてこう呼んだ。

 高橋は大阪学院大4年でインカレ1500メートル2位、3000メートル3位の成績が目立つものの県岐阜商高時代はインターハイ800メートル予選落ちと、傑出したランナーではない。大学卒業を控え、同監督のいたリクルートの北海道合宿に自費参加、“押し掛け”入社を果たした。

 有森裕子も同じように監督に直談判して入社。プロ野球ならドラフト指名には遠く、テスト入団といったところである。

 「将来は体育の先生になって陸上を指導したい、といっていたんですよ」。高校時代の高橋を指導した永井寛・岐阜県体協専務理事は話す。

 「女子駅伝も始まったし、これからは女性指導者が必要になる。いいことだな、と大学へ送り出したが、競技への欲が出たんでしょう。実業団へ行くと聞いた時には、ご両親の思いも察して慌てました」。小学校校長を務める父良明さんの反対を振り切って、走る道を選んだ。

 もっと速く走りたいと渇望する高橋は、小出監督の教えをすべてのみ込んだ。入社2年目の6月、先輩の鈴木博美が日本新記録を樹立した日本選手権1万メートルのレースで、高橋も日本歴代10位に今も残る31分48秒23をマークしている。

 「いいフォームだ。マラソンに向いてる。きっと世界一になれる」。小出監督は最初から、こう言い続けたという。

 高橋のフォームは独特だ。普通は走りながら腕を振るときにひじを後ろに引いて体の推進力をつけるが、彼女はひじを深く曲げて、体の前で振るだけ。この小さな腕振りが脚の高速ピッチのリズムを生み出す。

 ただ、入社当時は左肩が下がり左に傾いていた。これを直すのに同監督は、道路の右側を多く走らせた。道は右へ向いて下がっているから、自然と体の左側が上がってくる。そして口では「いい走りだねえ」。ほめて矯正した。

 「自分は中距離までの選手。長く走るのは好きだけど、速く走る才能はない」と思っていた高橋に、名伯楽はマラソンという適所を与えた。天性のフォームが自在なレース運びを可能にする。

 マラソンで最初に日本最高を樹立した1998年名古屋は30キロから飛び出し、同年12月のバンコク・アジア大会は号砲と同時に独走。シドニー切符を手に入れた今年3月の名古屋は中間点あたりから加速した。体の前で振る、目に見えない「指揮棒」のリズムが、自在なスピードアップを生む。走りの個性が強力な武器になっている。

[2000年6月29日/日本経済新聞 朝刊]

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