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(10/1)<解説者の目>「マラソン、世界との壁予想以上」・解説 伊藤国光氏
鐘紡陸上競技部監督・伊藤国光氏
 伊藤国光・鐘紡陸上競技部監督 男子マラソンは考えていた以上に日本と世界との差が大きいことを痛感した。惨敗と言わざるを得ないし、力がない結果だ。世界のいろいろな大会で優勝して来た強豪たちがそろったシドニー五輪だったので、そういう大会で勝てない日本選手はシドニー五輪でもやはり勝てなかった。金メダルのアベラ(エチオピア)は昨年12月、福岡で優勝しており、その時すでに日本選手は歯が立たなかった。それが今回も繰り返された。3人共世界のレベルを肌で感じたはずだし、この経験は次に生かすべきだ。

 実際日本の選手に力がない。世界の選手と比べて過保護な面があって、受け身の戦いをしている。競り合いをしていない弱さが露呈した。負けてもいいからいろいろな競技会に出て、選手の癖や感覚をつかむことが重要だ。

 犬伏孝行(大塚製薬)は脱水症状で棄権したようだが、完走して欲しかった。五輪のレースはこれまで練習してきたことの証(あかし)でもある。理由はどうであれ棄権したことは、これも本人の力ということだ。走るのをやめてしまった、ということがその実力を語る上でのすべて。シドニー五輪のレースは二度と経験できないものだったし、棄権は残念な結果だと思う。五輪代表の陰には出たくても出ることができなかった選手が少なくない。そういう人が代表には期待して応援している。2時間でも3時間でもかかって良いし、歩いてでもいいからゴールして欲しかった。皆が後押ししていることを分かって欲しかったし、棄権はある意味で裏切り行為だったと感じる。

 佐藤信之(旭化成)は見せ場を作ることができなかった。仮に飛び出したとしても、シドニー五輪のレースならすぐに集団に追いつかれていただろう。そうなっていたら佐藤は精根尽き果てていたに違いない。去年の世界選手権はシドニー五輪に出てきた強豪が出場しなかったレースだった。本当の力がないと世界では通用しない、ということを改めて感じた。自分の場合もそうだったのだが、レースの流れを読み間違えたのだろう。風の要因も大きかった。

 川島伸次(旭化成)は21位で日本選手のトップだったが、別にレースで競り勝ったわけでもなく、勝ちに行ったわけでもない。走ったら21位だった、というだけのことだ。例えば女子マラソンの市橋有里のように、途中までは先頭集団についていた、というような次につながる何かが欲しかった。

 惨敗の一因は選手のメンタリティーが変わってきている点が随分大きい。日本という小さい中で戦って評価を受けるだけなので、悪い言い方をすればひ弱。どんどん世界に出て行くべきだ。日本の男子マラソンの現状が変わってしまったのは、予選会が1つにまとまっていない陸上界の現状があるように思う。選考会がばらばらなので、あの競技会は風が弱かった、この時は気温が低かった、などと言って強い選手の基準も分散している。統一した選考会をやれば、代表3人の中でだれが強いのかはっきりするし、それは五輪での活躍にもつながる。選手が自分の課題を克服することに神経を集中させることもできる。

 五輪に出場するまでの選手とコーチ、陸上関係者の関係のあり方にも惨敗の一因があると思う。周囲はどうしても結果について辛くなりがちで、もっと選手にあたたかくなってもいい。例えば弘山晴美(資生堂)は女子1万メートル決勝を受けてマラソンに打ち込む考えを示したが、陸上関係者が「1万メートルは残念だったからマラソンでばん回しよう」と応援してあげる姿勢が大切ではないだろうか。

 1万メートルからマラソンへ転校する背景には、スピード勝負の傾向が強くなっていることが大きい。女子で言えばロルーペ(ケニア)が本気を出せば怖いし、1万メートルのラドクリフ(英国)やワミ(エチオピア)がマラソンに転向してきたらやはりスピードの面で勝てないと感じてしまう。金メダルの高橋尚子(積水化学)だって10キロを30分台で走る練習をしていたという。スピードを高めることが重要になる。3000メートルの競技がなくなってしまったが、1500メートルのタイムを高める練習を取り入れるなど速度を上げていかなければならない。

 今後は日本のエースを育成する必要がある。自分の場合を言えば、どうやったら瀬古利彦や宗猛、宗茂らに勝つことができるのかということを日々一生懸命考えていた。いまはターゲットになる選手すらいない。まず日本できちんと戦う選手を育てることだろう。

 2―3年後を見据えた練習も求められる。自分の場合は2時間10分を切る選手の育成、という目標だったが、世界と戦うには優勝タイムが2時間5分、6分の時代になっているとの考えで練習しなければいけない。そして国際経験を多く積むことも重要だ。日本の中に閉じこもっているのではなく、外国の選手の中に交じっていかに戦っていくか考えていく必要がある。

 シドニー五輪を見て、力のある選手は大会の記録もやはり充実していた。日本の現状の力を思い知らされた気がしている。(シドニーで1日夜、聞き手は遠藤繁)

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