2−3:哺乳類は生き延びた――進化のカギは小さな体に

 2億2500万年前。夜のとばりが降りた森の中、樹の上で耳をそばだてる小さな生き物がいた。最古の哺乳類(ほにゅうるい)、アデロバシレウスだ。

 頭は人間のつめほどしかなく、尾までの長さは約10センチとハツカネズミくらいの大きさだ。目が大きく、夜行性だったと推定されている。発達した聴覚で、昆虫のかすかな動きをとらえて捕まえ、鋭い歯でかみ砕いていたという。

米ニューメキシコ州自然史科学博物館のスペンサー・ルーカス博士

 アデロバシレウスの化石が発見されたのは、1989年。米ニューメキシコ州自然史科学博物館のスペンサー・ルーカス博士らが、テキサス州西部の小さな丘に小さな骨がたくさんあるのを見つけた。

 骨と土をバックに入れて博物館に持ち帰ったルーカス博士は、骨を洗って顕微鏡で調べ始めた。その中に頭蓋骨(ずがいこつ)らしき骨と、1ミリ以下の歯の化石が20本ほど見つかった。頭蓋骨や耳の構造を詳しく調べた結果、「哺乳類に違いない」と確信した。

 「初期の哺乳類は恐竜に比べてはるかに小さいので化石を探し出すのは至難の業だが、運良く見つけることができた」とルーカス博士は振り返る。

 それまで、最も古い哺乳類は英国で見つかったモルガヌコドンだったが、アデロバシレウスの発見は哺乳類の歴史を1500万年さかのぼることになった。ルーカス博士らは最古の哺乳類の化石にギリシャ語で「隠れた王」を意味するアデロバシレウスと名付けた。

 化石が見つかったテキサス州は当時、赤道のやや北にあった。今よりずっと温暖で湿度も高く、広大な亜熱帯の森が広がっていた。その森には初期の恐竜やワニ、カメもすんでいた。

 哺乳類は恐竜とほぼ同じころに地球上に現れたが、その進化の歴史の3分の2に相当する約1億6000万年もの間、恐竜の陰に隠れるように生きてきた。

 恐竜はいち早くサバンナのような広大な平原に進出して巨大化できた。これに対し、平原に進出する機会を失った哺乳類はほとんどが小さく、森の中で昆虫などを捕まえて生きていたとみられている。

アデロバシレウスの頭部の化石

 6500万年前、隕石(いんせき)が地球に衝突すると環境が激変して大部分の恐竜は絶滅したが、哺乳類は生き延びて恐竜が生息していた場所に進出。新生代に入ると、サイの仲間をはじめとする大型の哺乳類が現れ、爆発的に進化していった。

 ルーカス博士は「哺乳類は温血動物で体が小さかったので、環境が激変しても木や土の中に隠れて生き延びることができた」と分析。「胎盤を持ったことが、哺乳類繁栄の鍵になった」と指摘する。

 人類を含む有胎盤類は胎盤を通じて母体から栄養を取り込むので、赤ちゃんは完全に発育した状態で生まれる。このため、卵から生まれるよりも厳しい環境に適応しやすい。

 有胎盤類が出現した時期を特定するのは難しいが、中国遼寧省で有胎盤類の祖先とみられる真獣類、エオマイアの化石が約1億2500万年前の地層から見つかった。頭から尾までの長さは14センチで体重は200―250グラム。大きなネズミのようだった。

 これ以前に発見された最も古い真獣類の化石は約1億1500万年前なので、有胎盤類の起源は約1000万年さかのぼった。

 酸素濃度の上昇も哺乳類の進化を加速させるのに関係したという。深海の地層を分析した結果、約2億年前に10―13%だった酸素濃度が、1000万年前には23%に増え、サイの8倍もある大型哺乳類が現れていたからだ。

 日本で恐竜と同じ時代に生きた哺乳類の化石が初めて発見されたのは1992年。熊本県御船町で約9000万年前の地層から食虫性の小型哺乳類の下あごの化石が見つかった。

 その後、福井県勝山市や石川県白山市にある約1億2000万―1億3000万年前の白亜紀前期の「手取層群」と呼ばれる地層から小型哺乳類の化石が発掘され、研究者の間では哺乳類への関心も高まっている。福井県は来年から手取層群で発掘調査を再開する計画だ。

 今後、恐竜と同時代に生きていた哺乳類の進化の謎を解き明かす重要な化石も見つかるのではないかと期待されている。








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◇会期 2006年7月15日(土)〜9月10日(日) 会期中無休
◇会場 幕張メッセ 国際展示場(千葉県美浜区)
◇主催 日本経済新聞社、NHK、NHKプロモーション、日経ナショナル ジオグラフィック社
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