外部の圧力排除に不可欠
日本経済新聞社は株主を役員や社員、退任した役員、一部の退職社員らの事業関係者に限定した社員株主制度を採用しています。言論報道機関として中正公平な報道を続けていくために編集、経営の独立を守る根幹となる制度です。
制度は日経の前身の中外商業新報社が財閥の三井合名から全株式を譲渡されて以来、60年余にわたり続いています。昭和26年に施行された日刊新聞法が制度を法的に支えています。同法は新聞社が株式の譲渡を制限し株主を事業関係者に限定することを認めています。
現在、世界的な規模でメディア企業の再編が加速しており、そうした中で編集権の独立をどう守るかが最大の課題となっています。日本新聞協会に加盟する新聞社の9割以上が日経と同じく日刊新聞法に基づき株式譲渡を事業関係者に限定、外部資本による干渉・圧力を排除し、編集、経営の独立を保持する重要な基盤としています。
言論報道機関は権力と距離を保ち、監視する立場にあります。特に日経は様々な利害が絡む経済ニュースを中核とする紙面を編集することから、紙面の公平性と客観性を保つために細心の配慮が求められます。
日経は株式譲渡制限を定款に定め外部資本の介入を防ぐとともに、株式の流通機構である日本経済新聞共栄会を設置、特定大株主の発生を排除しています。
株式の分譲・譲渡はすべて共栄会を通して行い、価格は一律1株100円とするルールになっています。
価格を100円に固定し、同会を通して売買するのは、株式保有を希望する社員らに職位職歴に応じて幅広く分譲するためです。株主同士の直接取引を認めず、特定の役員、社員、退職者らに株式が集中しないようにしています。
死亡、退職時、または個人的な理由で売却する必要が生じた時は、株式は共栄会が買い戻し、再び同会が現役の役員、社員に分譲します。ルールは昭和30年ごろには確立し、先輩社員から後輩社員へ株式を引き継ぎ会社を継承させる形で今日に至っています。
今回の訴訟は平成17年9月、日経の株式を所有する退職社員が株式400株を1株1000円で別の退職社員の株主に直接譲渡しようとしたことが発端です。
もし、この譲渡を認めれば株式の取引価格の上昇に歯止めがなくなり、多くの社員には株式購入が不可能になります。資金力のある社員が大株主となり経営支配も可能になるほか、外部資本が特定の株主を操り実質的に経営を支配する事態が生じる恐れもあります。幅広く社員らで株式を保有するという制度の崩壊を招きかねません。
日経の社員株主制度を根底から覆そうとする株式譲渡は、中正公平な報道を生命線とする言論報道機関として到底受け入れることのできないものと考えます。