第2部 会社を撃つ

「日本経済新聞1面企画」

(4)渡り鳥管理職・人材生かす多様な契約

 サンフランシスコ郊外、ミルバレイに複数の名刺を使い分けている女性がいる。

期限付きポスト

 妊娠を機に、正社員の経営コンサルタントとして勤めていたマッキンゼー&カンパニーを退職、92年春に自営のコンサルティング会社を設立して、“仕事請負人”に転身したスーザン・H・マレー(44)だ。複数の名刺のうち一つは自分の会社のもので、残りはすべて期限付きで請け負った臨時管理職の肩書が印刷されている。

 その一つ、カリフォルニア州の有力地銀の「法人向け小口貸付担当部長」に就いたのは昨年8月。銀行が2000万ドル以下の貸付市場に進出するのに備えて、企業の分析や市場調査をし、独自の戦略を立てるのが仕事だ。週20-30時間のパートタイム勤務で、契約期間は7カ月。月にこの仕事だけで約4000ドル(約49万円)稼ぐ。

 この地銀は初め、社内で人を探したが見つからず、期間限定の管理職をあっせんするエム・スクエアード社(サンフランシスコ)に人探しを頼んだ。同社には中高年の脱サラ独立組が4100人登録しており、紹介されたのがスーザンだった。

 昨年末まで三つの会社をかけ持ちしていたスーザンは地銀の仕事の合間に、情報サービスなど2社のオフィスにも顔を出した。昨年の年収は合わせて約6万ドル(約740万円)。年に13万ドル稼いでいたマッキンゼー時代に比べ、半分以下になったうえ、医療保険などには個人で加入している。

 それでも「自分のキャリアを生かせ、勤務条件が選べる方が、いつ解雇されるか分からない正社員よりむしろ安定している」。これからも“渡り鳥管理職”を続ける考えだ。情報サービスなど2社での仕事は昨年末で終わり、地銀との7カ月の契約期間も今月で終わる。スーザンは、新たに3社と交渉中だ。

優遇税制を拡充

 米国ではスーザンのような「インデペンデント・コントラクター(独立契約労働者)」が急増している。個人の自営業者が企業との間で、特定の仕事に限って契約を結んで働く新しい雇用の形だ。全米で850万人(97年)に達し、このうち女性は282万人。男性の倍の勢いで増加している。自分の生活に合わせて、仕事ができる利点に注目する女性が多い。

 競争激化に伴うリストラで、工場や事務系職種だけでなく、管理職の業務まで外注する企業が増えてきた。米政府もこうした動きに対応、働き手を支援する狙いも込め、独立契約労働者向けの優遇税制を拡充し、昨年10月から実施した。社会保険料や在宅事業経費に対する大幅な所得控除が柱で、2007年までに約58億ドル減税する。

 英国の大手小売業、マークス&スペンサーの人事部につとめるジェーン・アーキデコンとヘレン・フォレスはともに30歳代前半で、「雇用担当課長」の肩書を持つ。毎週月曜から水曜まではジェーンが働き、ヘレンは水曜に引き継ぎをして週後半を受け持つ。週3日間のパートタイム管理職として「ワークシェアリング」をする2人は互いに“影武者”の関係だ。

 5万人に上る全従業員のうち女性が8割で、管理職の過半数を占める同社は、出産などで退社されると業務に支障がでると判断して2年前、人事制度を改革、パートとフルタイムの従業員の処遇格差をなくした。社会保険なども働いた時間に応じて受けられるように改めた。それまでフルタイムで働いていたが2人目の子供を産んだジェーンとヘレンは、新制度を使ってパート勤務で職場復帰した。同様にパート勤務に切り替える従業員が増え、管理職でも8%がパートとなった。

「日本の先行指標」

 日本企業は年功序列型の人事を基軸にしてきただけに、人材の流動化が管理職の分野で一気に広がるとは考えにくいし、管理職の分業ができる分野は限られるとの見方も多い。ただ、欧米企業が組織と人事の多様化を通じて、女性という経営資源を生かし、競争力向上につなげているのは確かだ。

 ヘッドハンティングの東京エグゼクティブ・サーチの江島優社長は、「自分のライフスタイルに合わせて仕事を選ぶ動きが管理職の分野にも広がり、それが企業のニーズにも合う時代。欧米の姿は日本の雇用の先行指標かもしれない」と語る。

=敬称略


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