第3部 家族を問う

「日本経済新聞1面企画」

(1)妻の熟考・長き老後へ離別選択

 3月8日の昼下がり、東京・新宿のレストランに、髪に白いものの交じった男女が80人以上集まった。中高年の結婚を支援するボランティア組織、太陽の会(東京・中野、北川安彦会長)が毎月1度開くお見合いパーティーだ。胸に名札を着けた参加者は、「これは」と思う異性に声をかける。話がはずみ、途中で抜け出すカップルもいる。

夫の定年を機に

 柏木幸枝(仮名、60)も、この日参加した47人の女性の1人。参加は5回目だ。東大卒の官僚だった夫とは「気持ちが通い合うことはなく」、定年間近の4年前に別れた。再婚で安定した生活を手に入れたいが、「これからの長い人生を思うと、考え方や感じ方を分かり合えることが再婚の絶対条件」と言う。

 小野江美子(同、55)も、3年前に定年を機にエリート官僚だった夫と離婚した。社会人の娘からは「今のお母さんが一番幸せそう」と言われる。でも、「新しい人生を前向きに生きたい」。こんな思いから、娘には内証でパーティーに参加する。

 太陽の会でこの15年間に誕生したカップルは1500組を超える。北川会長は「東京では会員の6割が女性。女性の方がパートナー探しに積極的」と言う。

 「銀婚」とも言われる熟年結婚市場は急成長している。結婚情報サービスのサンマーク・ライフクリエーション(東京・新宿)が中高年層に的を絞った部門を新設するなど各社とも力を入れている。

 石田由利子(同、42)は貴金属会社部長である夫(52)と20年間の結婚生活に終止符を打った。離婚調停の席で夫は、「一緒にスポーツクラブに通い、世間には仲の良い夫婦に映ったはず」と強調したが、結婚15年を過ぎたころから夫は深夜帰宅が目立つようになった。妻の寂しさを「夫は何も分かっていない」。心の問題を素通りする夫に石田はこう痛感した。

会社優先に反発

 離婚はほぼ4件に3件が妻からの申し立てによる。熟年離婚をみると、20年以上同居した夫婦の離婚は96年に3万2000件と過去最高になった。離婚全体の16%に達し、75年の6%に比べ20年余りで10ポイントも上昇した。

 家族には生活を守る経済機能、育児・保護機能、そして愛情の3つの機能があるといわれる。離婚の理由は単純に図式化できないが、生活水準が向上し、子育ても終わった中高年の妻たちは、会社や組織優先で、心の充足という家族機能の重要な側面をおろそかにし続ける夫への不満を隠そうとしなくなった。

 「さよなら、あなた。妻は一度は口に出してみたいせりふを胸にしまっています」。三井物産は90年夏、熟年離婚を新聞の意見広告で取り上げた。子育ての間も家庭には心が向かない夫。「妻だけが分かってあげる側なんて、貿易不均衡ですわよ」と結んだ。高度成長期、猛烈社員集団の象徴でもあった大手商社からの警告に、「女性を中心に200通を超す共感の手紙が寄せられた」(広報室)。

子育て後の30年

 ただ、最近の離婚急増には別の背景もある。「ライフサイクル革命」とも呼べる女の一生の変化である。

 いま50歳代の妻が結婚した1970年ごろ、50歳女性の平均余命は28年だったが、今や34年。少子化もあり、子育て後の人生は30年近くに及ぶ。女性の平均寿命が83歳を超え、夫の定年という節目から数えても、夫と向かい合う生活は介護の可能性を含め20年以上になる勘定だ。社会保障・人口問題研究所によると結婚した女性の寿命は平均よりも長く、夫の死後も平均15年余りを1人で生きることになる。

 「自分を犠牲にしても家族のために尽くす」と考える50代の女性の割合は96年には49%。85年に比べて17ポイントも低下した(生命保険文化センター調べ)。生活の安定が結婚の大きな動機だった時代から、彼女たちの結婚・家庭観も変わった。子育て後、定年後、夫の死後、どこから数えても、かつてなく長くなった「第二の人生」を前に、妻たちは結婚や家庭の意味を熟考し始めた。=敬称略

 女性の価値観、生き方の多様化は結婚、夫婦の役割分担など伝統的な家庭観を根元から問い直しつつある。第三部では家族のいまを追う。

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