旭化成工業 自由な発想「門」で磨く

 「今までのやり方のどこがいけないのか」「研究テーマを切り捨てる道具ではないのか」――。

研究テーマ検証

 旭化成工業の研究者の間で今、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が沸き起こっている。論争の火元は、研究の加速と効率の向上を狙って導入した研究管理ツール「ステージ・ゲート手法」だ。

 ステージ・ゲート手法は、米化学大手のダウ・ケミカルから取り入れた手法だ。旭化成では事業化するまでの過程に通常4つのゲートを設けている。テーマ探索と実際にテーマ研究に移る間、次に少人数でチームを編成する前、さらに工場を建てるための研究に入る前、最後に企業化する手前に、ゲートはある。最大の特徴は、研究テーマと事業戦略とが合致するか、テーマに事業性があるかどうかを各ゲートできめ細かく検討していくところだ。

 ゲート管理には研究所長や研究開発副本部長などの研究開発責任者のほか、事業部長や販売部長らも参画、「他社との差別化はできるのか」「競合に勝てるのか」といった議論を展開する。「事業性なし」と判断されると、そこから先に進むことは許されない。

 研究者にとってはゲート通過のための書類作りも負担となり、この仕組みを受け入れるには抵抗もある。さらに、厳しいゲートでの議論はスピードアップとは逆行するようにも見える。

 しかし、研究開発本部長を務める瀬田重敏専務は、「最終段階まで行ってダメだったとなる方が問題は大きい。そういうことがないようにするため、(研究開発を阻害する)ボトルネックを早めに見通して集中的に手を打つ手法」と、評価する。研究開発の効率とスピードの向上に役立つというわけだ。

収益性から判断

 途中のゲートからは、ネット・プレゼント・バリュー(NPV、正味現在価値)と呼ぶ指標で、研究テーマをチェックする。対象となる研究テーマが将来生み出すであろうキャッシュフローをもとにその収益性を割り出し、研究を進めるのが妥当かを判断する。

 もっとも、ステージ・ゲート手法の導入は全社強制ではない。旭化成には研究開発本部が担当する「本社研究」と、事業部が内部で自ら進める「事業部研究」がある。このうち事業部研究については、事業部長の意思決定が要る。

 新手法の伝道役を務めるのが研究開発推進センターだ。宮正義センター長は「研究者にとっては筋のいいテーマに出合えるかがとても重要。開発期間が特に長い薬では生涯数テーマしかできない。(ステージ・ゲート手法は)テーマに恵まれなかった人を救済する手段にもなる」と話す。

 研究現場に戸惑いを残しつつも、新手法は浸透しつつある。その背景には、同社が全社を挙げて事業の再編へ動き出していることがある。長期政権を敷いた故宮崎輝氏の時代には「ダボハゼ」流と言われるほど多角化を推し進めた。それが旭化成の成長の原動力になった一方、現在の不況の中では「非効率」という副作用が無視できない。

全社事業を再編

 97年に就任した山本一元社長は、収益性の高い事業に経営資源を集中投入する「事業ポートフォリオ戦略」を掲げ、改革に取り組み始めている。

 事業ポートフォリオ戦略は今99年3月期が初年度の3カ年中期経営計画の目玉。技術基盤に基づく技術軸と製品軸、さらに市場軸から全社事業を再編し、将来も競争優位を維持できる事業群に経営資源を集中投入することを目指している。

 例えばポリマー事業の中で集中育成するのは機能性ポリマー事業、繊維では機能性繊維と不織布という具合に事業名を明示、収益性の低い事業からの撤退も検討する。

 研究開発の効率アップは、この事業ポートフォリオ戦略を側面から支えることになる。研究開発方針としては電子材料部品、ヘルスケア、住宅建材を成長領域として掲げる。「自由な発想も大事だがこれまではそのウエートが大きすぎた」(瀬田専務)との反省もある。

 自由な発想と研究開発効率――。ステージ・ゲート手法は2つの要素の両立を狙う挑戦でもある。

 ステージ・ゲート手法は「いいテーマがいくらでも出てくるというのが前提」(宮センター長)になる。「基礎・探索研究とステージ・ゲート手法との接点は模索中」(高山茂樹・研究開発本部研究開発企画管理部副参事)だ。

 足元の業績が住宅販売不振の影響をまともに受けて低迷する中で収益力の回復は至上命題だ。21世紀に向け新しい成長路線を再構築するためにも、有望研究テーマの発掘とステージ・ゲート手法を通じた研究効率化が一段と重要性を帯びてくる。(特別取材班)

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