(4)畑からプラスチック

 英リバプール郊外にある米モンサントの化学品工場は金属パイプが張り巡らされ、昔ながらの町工場の趣だ。外から見るかぎり、ここで21世紀のプラスチック市場を席けんする可能性のある製品を生産しているとは想像できない。

ごみ袋・包装に

 内部に足を踏み入れると、暗がりの中から真っ白な蒸気が噴き上がる。サツマイモをふかしたような甘酸っぱいにおいが漂う。「この底を見て下さい」。従業員が、工場の床をくりぬいて設置した大型タンクのハッチを引き開けると、タンクの奥底で大型のプロペラが白濁色の液体をゆっくりかき回している。

 この液体は、生分解性プラスチック「バイオポール」の原材料だ。普通のプラスチックは分解しにくいため、廃棄処理が難しく、環境に悪影響を与えるとされてきた。生分解性プラスチックなら土中に埋めると自然に分解するので、「地球に優しい」といわれている。

 モンサントは昨年9月からここを拠点にバイオポールの試験生産を始めた。年間の生産規模は数百トン。すでに日本や米欧諸国でごみ袋や食料品包装紙、クレジットカード向けに出荷を開始、用途開発を急いでいる。

 バイオポールの原料は小麦だ。英国内で収穫した小麦からぶどう糖を抽出し、「アルカリゲン・ユートラファス」と呼ぶ微生物を利用して高温発酵させる。微生物から液状のプラスチック原料を取り出し、乾燥させて白い粉末にした後、プラスチックに最終加工する。1キログラムのプラスチックの生産に約4.5キログラムのぶどう糖が必要という。

市場規模29倍

 日本経済新聞社が実施した未来市場予測調査によると、2020年における生分解性プラスチックの世界市場規模は約5000億円に達する。これは1998年の29倍にのぼる。日本市場も2020年に770億円になる見通しだ。

 モンサントのバイオポール事業部長マイケル・ベレッゾ氏は、「日本は環境問題に真剣に取り組んでおり、生分解性プラスチックの需要が大きく伸びる市場の一つ」と語り、日本市場に熱い視線を注ぐ。

 その日本で長野オリンピックの期間中の2月10日、表彰式会場のセントラルスクェアで鐘紡グループが「ファッション・フォー・ジ・アース」と銘打ったファッションショーを開いた。ショーの目玉のひとつは、トウモロコシを原料にした「ラクトロン」という名の生分解性繊維。デザイナーの岡正子さんがこれを使った作品を披露した。

 このラクトロンの生まれ故郷は、米国のトウモロコシ産地コーンベルトである。穀物メジャーのカーギルが開発した生分解性プラスチック「エコPLA」が原料。化学大手のダウ・ケミカルが目を付け、昨年12月にカーギルと共同出資会社を設立、本格的な商業化を急いでいる。トウモロコシを加工処理する過程で発生するぶどう糖からできる乳酸が原料で、ラクチドという化学物質を経て、エコPLAができあがる。

 現在、カーギルが本社を構えるミネソタ州ミネアポリスにある年産能力3000トンのパイロット・プラントを6000トンに拡張中で、年内にも稼働させる計画。さらに、99年にはネブラスカ州ブレアーで年産能力14万トンの本格的な工場建設に着手する。ブレアーはコーンベルトのど真ん中に位置し、カーギルが巨大なトウモロコシ加工処理工場を持つ。新工場は2001年に稼働する構想だ。

 「エコPLAは基本的には30日で分解されて自然に戻る。魔法のプラスチックで、既存のポリエチレンなどを代替する潜在能力を持っている。市場規模は計り知れない」とカーギル・ダウ・ポリマーズのジェームス・R・ストッパート社長は目を輝かす。

穀倉地帯が工場

 ユニチカも3年前からカーギルと組んで、生分解性プラスチックの用途開発に着手した。すでに生ごみ袋や食品包装用フィルムなどを開発済みだ。

 ただ、生分解性プラスチックを普及させるためには乗り越えなければならない壁がある。

 価格だ。通常のプラスチックは1ポンド(0.45キログラム)当たり1ドルを切るが、モンサントが販売する生分解性プラスチックの価格は4-6ドルもする。

 ストッパート社長は「ネブラスカの工場が立ち上がるころになれば、PET樹脂よりも安く、ポリスチレンやポリエチレンよりもわずかに高い価格が実現できる」と断言する。鐘紡グループは、エコPLAを原料にするラクトロンの価格は1キログラム当たり1000円前後だが、生産が本格化する2001年ごろには同200円程度と既存のポリエステル並みに下がるとみている。

 モンサントのバイオポール、ダウ・カーギルのエコPLAはともにぶどう糖が原料。ぶどう糖の原料としてはトウモロコシが最も低コストといわれるが、サトウキビでも、小麦でも、ぶどう糖さえ抽出できれば原料になる。遺伝子組み換え技術でぶどう糖の含有量の多い農産物が開発できれば、農産物がプラスチック原料として、石油にとって代わる可能性は十分だ。

 「すでに、低コストの砂糖が取れるブラジルからエコPLAの工場を建設してくれないかという打診が来ている。穀倉地帯といえば東欧も将来の候補地だ」。ストッパート社長はこう打ち明ける。世界の穀倉地帯がプラスチック製造のコンビナートになる日はそう遠くない。(特別取材班)

[日経産業新聞]

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