(6)核融合、市場の種まく

 米サンフランシスコ近郊にある米エネルギー省傘下のローレンスリバモア国立研究所。ここで地球上に「人工太陽」を作り出そうという壮大なプロジェクトが本格的に始まる。米政府が21世紀をにらんで、次世代の戦略エネルギー源に位置づける「レーザー核融合」の実験だ。

数万年分の燃料

 レーザー核融合とはレーザー光線を使って、太陽内部で起こっているのと同じ核融合反応を人工的に再現し、巨大エネルギーを作り出す技術を指す。

 仕組みはこうだ。燃料源は水素の仲間である重水素と三重水素で、これらを長さ1センチ程度の円柱状や球状カプセルに詰め込む。このカプセルに強力なレーザー光を一気に照射。その圧力で内部燃料を圧縮し、核融合反応を起こす。

 核融合で一度に取り出せるエネルギー量は膨大だ。燃料となる水1リットルからガソリン300リットルに相当するエネルギーを生み出せる。地球上に存在する海水は1万京リットルと言われ、全人類で使うエネルギーの数万年分を核融合でまかなえる計算だ。

 ローレンスリバモア研の敷地内の一角ではフットボール場ほどの巨大実験施設「国立点火施設(NIF)」の建設が急ピッチで進行中。2003年の完成が目標だ。

 計画では2005年から施設内で192本の高出力レーザーを利用し、強力なエネルギーを作り出す。このエネルギーを小型カプセルに照射して核融合反応を起こし、最終的に瞬間的ではあるが、5万兆ワット規模のエネルギーを生み出す考えだ。これは全米の年間発電量の10万倍もの規模だ。

 同研究所は現在、十本のレーザーを照射できる実験施設を拠点に研究を進めているが、NIFが完成すれば「人工太陽」の開発に弾みが付くのは間違いない。同研究所レーザー科学技術プログラムリーダーのハワード・パウエル氏は「2010年までに要素技術を確立し、レーザー核融合発電所を2030年に実現させたい」と語る。

 レーザー核融合の技術は核兵器開発に転用できるため、米国などは従来、研究成果を国家機密扱いにしてきた。だが、冷戦の終結後、この方針が変わった。まだ一部には警戒感が残っているものの、成果が国際的に公表されるようになった。その結果、世界各地で研究が活発化。フランスや中国などが独自に研究に取り組んでいるほか、国際原子力機関(IAEA)も専門家会合を発足させるなど関心が高まっている。

「植物工場」に道

 資源に乏しい日本でも実用化に向けた実験が進む。大阪府吹田市の万博記念公園に隣接する大阪大学レーザー核融合研究センター。ここでは12本のレーザー光線を使って核融合反応を起こす実験設備「激光12号」を備える。核融合エネルギーの出力効率を上げるのに不可欠な燃料圧縮化技術で、世界最高水準を達成するなど成果を積み上げている。

 ただ、課題も残っている。最大のネックはエネルギー効率の悪さだ。現在の技術で核融合から取り出せるエネルギーは投入したレーザーエネルギーの1%以下にとどまっている。核融合反応を起こすためのレーザーをつくるコストの高さも実用化の「壁」だ。

 その一方で、核融合向けレーザーの絶え間ない技術革新が、従来予想もしなかった新市場を創出するという「副産物」を生み始めた。

 例えば光電変換管の最大手、浜松ホトニクス。最近、人工的な光では不可能だった稲の栽培を半導体レーザーで初めて成功した。植え付けから収穫までの期間はわずか3カ月。稲によっては年5毛作も可能だ。ほかの作物の栽培にも応用でき、食糧問題の切り札となる「植物工場」を建設する道が一気に広がる。

 浜松ホトニクスはさらにレーザー光を高出力化することで「切削加工用として応用する」(高下信行・企画営業部長)ことも考えている。

 日本経済新聞社が実施した新市場予測調査では、2020年のレーザー加工システムの世界市場は約44億6000万ドル。小型で低消費電力の切削加工装置が登場すれば、新市場が誕生するのは間違いない。

微細加工へ応用

 強力なレーザー光は半導体など超微細加工技術の突破口としても期待が高まる。日立製作所、日本電信電話(NTT)は阪大レーザー核融合研と共同で、強力なレーザー光をプラズマ(電子と原子核がばらばらになった状態)に照射した際に放出するX線を微細加工に応用する研究に取り組んでいる。

 関西電力、光学レンズメーカーのナルックス(大阪市、北川清一郎社長)もそれぞれ阪大と共同研究を開始した。関電はレーザー光を使って雷を導く技術の開発、ナルックスはレンズの精密表面加工技術への応用を狙う。

 ローレンスリバモア研も米民間企業との共同研究を積極的に推進中だ。精密光学、情報記録、バイオ技術など24の研究テーマを打ち出しており、米政府も年間1億6000万ドルの研究費を拠出する。レーザー光の応用技術をめぐり、日米企業が主導権争いを展開する日もそう遠くないだろう。(特別取材班)

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