(5)次世代太陽電池

 1億5000万キロメートルのかなたから地球に降り注ぐ太陽エネルギー。地表での強さは晴天時で1平方メートル当たり約1キロワットの出力に相当するという。地球の断面積を考えると毎時127兆キロワット時となり、世界の年間エネルギー消費量(石油換算約80億トン=電力換算約93兆キロワット時)以上の巨大なエネルギーが毎時、地球に照射されている勘定だ。

 この膨大さとクリーンさとを背景に、来世紀の「太陽の時代」到来を予感させる追い風が太陽エネルギー開発に吹いている。従来の脱石油に、地球温暖化防止の新しい流れが加わったためだ。この中で、太陽光発電を担う太陽電池が技術面で今、新たに進化しようとしている。次世代太陽電池の登場である。

 高い変換効率

 「これがうちの研究室で試作した色素増感型の太陽電池です」。大阪・吹田市にある大阪大学大学院工学研究科の自室で、柳田祥三教授は長さ10センチ、幅3センチほどの新しい太陽電池を取り出し、電球の下でモーターを動かしてくれた。

 まだ耳慣れない「色素増感型太陽電池」だが、実は「現在、主流のシリコン系太陽電池の弱点をカバーする次世代太陽電池のエースとして、欧米や豪州で活発な研究が展開されている」(柳田教授)という。

 その構造は2枚の導電性ガラス電極の間に、酸化物半導体である二酸化チタンの薄膜と、ルテニウム錯体と呼ばれる増感色素、それにヨウ素を主成分とした酸化還元電解質溶液とを順に挟み込んだサンドイッチ型。増感色素は可視光をできる限り多く吸収するためのもので、これに光が当たって飛び出す電子を効率よくとらえられるようにと、二酸化チタンは多孔質にして表面積を大きくしてある。

 これらの三層間の光電気化学反応で光を電気に換える。n型、p型と呼ばれる2種類の半導体を接合するシリコン系太陽電池とは原理的に異なっている。

 色素増感型の基本構造はスイス・ローザンヌ工科大学のグレッチェル教授が考案した。91年に同教授は「新方式で光電変換効率10%を達成した」と発表していた。

 もっとも、同効率が10%ということだけなら、あまり注目に値しない。シリコン単結晶型では豪ニューサウスウェールズ大学が今春、24.4%という最高効率を記録しており、多結晶型でも同大学が19.8%を記録。発電用にシャープや三洋電機などが商品化しているものでも、12-16%の効率がある。

 色素増感型が次世代太陽電池として有望視されているのは、「理論的に33%まで変換効率を高められ、またシリコン系よりも製造コストを引き下げられる可能性が高い」(工業技術院・物質工学工業技術研究所の荒川裕則基礎部長)ことが背景にある。

 シリコン系では、多結晶より高性能な単結晶でも、変換効率は25-30%が理論的に限度という。結晶よりもコストを引き下げられるとして発電用に実用化寸前のアモルファス(非晶質)型に至っては、理論値は15%とさらに低い。

 コスト3割減

 コスト面では、シリコン結晶系は原料のケイ石を溶融還元して金属シリコンにする過程で多量のエネルギーを消費する問題がある一方、アモルファスでもプラズマ放電でシリコンを基板に蒸着するのに大規模設備が必要といった難点がある。

 その点、色素増感型では「主原料の二酸化チタンだけでなく色素、電解質も安価な上に、高価な製造装置も不要」(柳田教授)という。このため、発電能力を基準にすれば、アモルファスよりも3割強安い1ワット当たり約70円で製造できるとも試算されている。

 もっとも、この次世代太陽電池の実用化にあたっては、電解質溶液の密封・機能維持対策など技術的な課題も多い。しかし、既に材料、自動車、光関連などのメーカーが柳田教授らの研究に強い関心を寄せており、荒川部長も「太陽電池は半導体技術がベースとなっていたため、これまでエレクトロニクスメーカーが核になっていたが、色素増感型では化学関連企業が活躍するかもしれない」と話す。

 同部長は、増感色素として「エオシンY」と呼ばれる有機色素を、また、酸化物半導体としては酸化亜鉛などを使っても効率的な光電変換が可能なことを明らかにしている。

 「多段ロケット」

 太陽電池関連の33社などで構成する太陽光発電技術研究組合の小林久雄専務理事によると、「太陽電池は多段ロケットのようなもの」だ。市場開拓の第一段がシリコン結晶系、第二段がアモルファスシリコンというわけで、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の今野国輔太陽技術開発室長は、「第三段がカドミウム・テルルなどの化合物半導体、第四段が色素増感型」とも話す。

 96年度の国内太陽光発電システムの市場規模は約250億円で、2010年度には1兆円に拡大するとされている。技術の進化が市場を拡大する典型例だ。(特別取材班)

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