|
「全国で使えるリゾート施設は約700カ所。遊びに行っても上司と顔を合わせる心配はありません」。資生堂人事部の依田寛也氏は社員のメリットを例に挙げながら、福利厚生制度の変更について説明する。
社内完結はムリ
同社は昨秋、レジャーやカルチャー、チケット手配など様々なメニューを備えた福利厚生をアウトソーシング(業務の外部委託)した。福利厚生のメニューを多様化したため、会社は1人当たり年間800円のコスト増を負担したが、「社員のニーズは多様化しており、自社ですべてを対応する時代は終わった」と依田寛也氏はあえて新メニューを導入した背景を話す。
すでに採用しているカフェテリアプランでもベビーシッターや家賃補助などを充実し、「働く女性をサポートする」という会社の意思を明確に打ち出した。資生堂は福利厚生制度の改革を通じて「社員と会社」の関係を伝える考えだ。
人材流動化が進む中、福利厚生に対する企業の意識が根底から変わり始めた。背景にあるのは不況に伴う経費削減や人員削減の必要性だけではない。「真剣に考えなくてはいけないのは、企業の生命線を握る優秀な人材をどうやって自社につなぎ止めるのか」とワトソンワイアットの淡輪敬三社長は指摘する。社員は年収だけで会社を選ぶわけではない。福利厚生も含めて「働きやすさ」を考え、居心地の良さを勘案する。
ソニー社員殺到
「お金の達人」――。98年12月、こう題したセミナーでは定員100人を予定した会場に、あふれんばかりのソニー社員が集まった。税金や保険など個人の財テクのコツを専門家が講釈する同セミナーは昨年、開設された「FP(ファイナンシャルプラン)相談室」が企画した。ソニーの福利厚生メニューの中でも珍しいヒットとなった。
「財テクなどのライフプランは今、企業から最も要望の高いメニュー」と福利厚生代行サービスを手掛ける日本リロケーション(東京・新宿)の木林靖治取締役は強調する。社内預金の利率低下や住宅の補助・融資制度の縮小が進んでいるが、これまで会社頼みだった社員の人生設計を自ら描けるように支援するプランに人気が集まっている。「財テクのカウンセリングは99年度の新メニューの目玉としていくつもり」と木林氏は期待する。
ベネッセコーポレーションはカフェテリアプラン導入第一号の会社だが、社員の自己責任をキーワードに導入を決定した。同社はカフェテリアのメニューを介護や安全など「いざという時の支援」に絞り込み、家賃補助などの生活支援にかかわる制度は縮小した。全体の費用負担は増えたものの、「会社が社員をどこまで面倒みるか」という意思を明確に打ち出したことに意義があるとしている。
命運握る要素に
「自社の法定外福利厚生費がいくらなのか。こんな問いに答えられない人事担当者さえいる」とある福利厚生代行会社の営業マンは打ち明ける。これまでの福利厚生制度とは「他社がやっているから」と始めたものが積もりに積もってきただけだった。
人事制度は賃金を軸にどんどん変ぼうしている。年功序列型制度が事実上、崩壊し始めているだけに、「社員と会社」の関係は再構築が迫られている。会社はどんな事業を進め、どんな人材を必要としているのか。福利厚生や報酬制度は会社にとって社員に向けた重要なメッセージを伝える手段だ。いかに活用するかが会社の命運を左右する時代に入っている。(桃井裕理) =おわり
---------------------------------------------------
なかなかできないコスト削減
企業が福利厚生の制度改革に高い関心を示しているのは、なかなか削減できない福利厚生のコストが財務リストラの障害になっているからだ。
過去3年間の福利厚生費(法定内、法定外を含む)が「増加傾向にある」と答えた企業は51.6%。「減少傾向にある」は17.8%にとどまった。
だが、終身雇用と年功序列を前提に一貫して拡充して きた企業内福利にメスを入れるのは容易ではない。例えば、福利厚生費の賃金化について聞いたところ、「従業員の多様なニーズに対応でき、積極的に支持する」「従業員は必ずしも望んでおらず、支持できない」という相反する考え方について、「どちらとも言えない」という回答が41.9%にも上った。
制度の見直しに踏み込むためには、経営側、従業員双方の大胆な意識改革が必要になっている。

|