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「転籍させてください」 小林勉。50歳。大和銀行から24時間営業の無人貸駐車場チェーン、パーク24に出向して1年半が過ぎた。今、このベンチャー企業への転籍希望を大和銀行の人事部門に申し出ている。
イメージ変化
小林氏はFC(フランチャイズチェーン)事業部の部長。同社の「タイムズ」の看板で駐車場を運営するFC加盟者の要望を聞いたり、加盟者の新規開拓に全国を駆け回る。
加盟者は顧客ではあるが、時には辛口の激励も必要。「加盟者を選ぶのは融資の判断と同じ」。大宮、お茶の水、上野の3カ所で支店長を務め、地元企業の社長や商店主とつきあってきた経験が生きている。
大和銀行を出る際、行き先に選択権はなかった。拒否すれば、業務命令違反。再就職含みには間違いないが、出向期間中に「骨を埋められる会社かどうか、先入観を持たずにじっくり判断させてもらった」。結果は吉。「追従はしたくないし、まどろっこしいのは嫌い」という性格には、社内手続きが少ない組織と、元気のいい若手社員が作り出す社風が水にあった。
出向の契約期間は3年半。この間は銀行時代の給与と出向先の給与の差額を銀行が補てんするが、銀行がリストラを理由に年俸をカットすれば、今の仕事の実績に関係なく、出向者の給与も自動的に下がる。やる気も実力もある人には不合理ともいえる。
「妻は給与が下がることには不満がありそう」。そんな気持ちも、小林氏に「転籍願」を出させた。
企業が業績悪化に直面するたび、社員はリストラという名の人員削減にさらされてきた。レイオフ(一時帰休)という手段をほとんどとらない日本の企業社会で、経営者が講じてきた出向や転籍は長く「落後者」「犠牲者」というイメージでとらえられてきた。だが、今や親会社に居続けることが幸せとは限らない。疲弊した親会社にいたのでは、仕事に腕を振るえず、給与も期待できない。出向や転籍を逆にチャンスととらえる社員も出てきた。
旭硝子の子会社である岩城硝子と、東芝の子会社、東芝硝子(静岡県吉田町)が今年1月に合併して発足した旭テクノグラス。東芝が業績不振の東芝硝子を旭硝子グループに事実上譲渡。これによって旧東芝硝子社員はすべて新会社に転籍となった。
意識改革が重要
旭テクノグラスのSGT(ソーダガラス管)グループ担当課長、上堂地勇氏(39)は16年前、「東芝の冠にあこがれて」旧東芝硝子に入社し、ガラスの設計・製造部門を歩んだ。昨年4月の合併決定を幹部から聞いた時はただ驚くばかりだった。
両社は現在、合併後の新たな給与・人事制度を検討中。「新制度で給与が下がるかもしれない」といった不安は残る。「もう東芝の保養所は使えないの」という家族の不満もある。だが、それ以上に旧東芝硝子時代は長らく凍結されてきた大型投資のダイナミズムを肌で実感している。上堂地氏が任された仕事は旭硝子京浜工場の設備を静岡工場に移管するプロジェクトの指揮。投資規模は20億円に達する。
製品をコンピューターでシミュレーション設計するなど技術力も東芝硝子より先を行く。「ガラス業界での旭硝子の大きさを再認識した」と上堂地氏。もう「東芝」に未練はない。
「出向や転籍にならないのは社長のみ。残り全員をグループ会社でうまく活用できない企業は衰退する」。経営コンサルタントの平山俊三氏(61)は訴える。平山氏自身、7年ほど前に住友金属工業の副本部長から子会社に出向した。同期入社でずっと住金に残っているのは副社長の2人だけ。「日本の経営トップは最近、グループ経営を盛んに標榜(ぼう)しているが、出向、転籍する社員の意識改革がどれだけ重要か分かっているのだろうか」
資本の論理徹底
日本の大手企業の場合、社員の気持ちの中にも、処遇面でも、親会社を頂点とする「ピラミッド」がある。子会社を「独立会社」としてきちんと評価できず、子会社社員の待遇をそれに応じて変える仕組みもなかったためだ。それゆえ、出向者に対して、親会社による「出向先との給与差額補てん」も生まれた。
しかし、「連結決算時代は『資本の論理』を徹底し、実績を上げた子会社、人材は評価するということ。出向者の給与体系も子会社の業績を重視した体系に移行していくはず」(平山氏)だ。出向先の業績が上がれば、出向社員の給料を上げればいいし、業績が下がったら、その分は下げればいい。
「出向や転籍が楽しいか、楽しくないかは本来、本人の努力次第。親会社は子会社での努力と成果を的確に評価し、処遇できるかで人材活用のうまさが測られる」と平山氏は言う。グループ全体を見渡した人事・給与制度の仕組みと社員の気持ちがともに変われば、「出向・転籍」を楽しめる時代がやってくる。(「社員と会社」取材班)

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