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「日経産業新聞 連載企画」


第2部 生き抜くサラリーマン (1)2足のわらじ・宿沢広朗氏に聞く

 宿沢広朗・元早大ラグビー部監督。89年には日本代表監督として強敵スコットランドとのテストマッチに臨み、予想を裏切って日本に勝利をもたらし、91年のワールドカップで初勝利をあげた。「ラグビーは非日常」と語る宿沢氏のもう一つの顔はサラリーマン。現在は住友銀行市場営業第2部長として、国内外300人の部下を率いる。雇用ビッグバンの到来で日本の会社を支える社員の価値観が揺れ動くなか、サラリーマン哲学を聞いた。

 後悔一度もない

 ――サラリーマンとスポーツ、二つの世界でともに華やかな経歴を築いてきましたね。

 「確かにサラリーマン生活で後悔したことは一度もない。例えば、ロンドンで『為替をやれ』と言われた当時は国際融資が拡大している最中で、正直、融資の方を『もう少しやりたい』と思った。ところが帰国すると、為替部門は(85年の)プラザ合意で大波乱。今担当している市場資金部門もホットコーナーだ。行く先々でいい経験を積んでこれた」

 「会社員にとって『自分がやりたいこと』と『人事や周囲の人たちがやらせたいこと』は往々にして違う。仮に違っても、それはそれでチャンスだと思う」

 ――社内での評価が気になりませんか。

 「意識してはいない。若いころはそんなことを考える余裕もなかった」

 ――ミドルの先頭に立ってくると、感じ方も変わるのではないでしょうか。

 「その点については、今も変わっていない。ロンドン駐在時代に強く意識したのはチェース・マンハッタンなどだし、初めて支店長になった時は他の都銀だった。いつもライバルに勝つために全力を注いだ」

 部下と競わず

 ――スペシャリストとしての評価が今の地位を築いたと考えていますか。

 「私が入行した当時、何でもこなせる人材が有能とされたが、経営を取り巻く環境が変わった。いまは専門性を持つ人材が重要になった。社員も『これをやりたい』と主張するより『これで専門性を高めたい』という意識改革が必要だ」

 「自分では、金利に関しての判断なら行内でだれにも負けない気持ちはある。けれども、スペシャリストも基本的な知識は不可欠。銀行業務に関する基礎知識があって初めて、ディーラーの専門性が生かせる」

 ――それではスペシャリストを養成していく管理職として、部下の管理や登用で何を第一に考えるか。

 「ディーラーに求められる資質は果敢かつ慎重であることだ。慎重さは経験で学べるが、果敢さの基である『強気』は、元来弱気な人が取得するのは大変難しい。リスクをとれる強気な人材は数十人に1人ぐらい。その強気な人材を発掘することが私の部長としての仕事だ」

 「重要なポイントは決して部下と競わないこと。どの組織にも自分より優秀な人材はいる。彼らと張り合っては駄目だ。だが、これは案外難しい。私は優秀な人材が能力を発揮できる環境づくりに専念している。あとは部下の欠点を見ずに長所を見ることだ」

 目標は高く

 ――日本の会社でも実力主義や能力給の導入が急ピッチで進んでいる。これまで市場価値より組織価値を重視してきた管理手法も変わらざるを得ない。

 「現在、普及しているのは米国主導のデファクトスタンダード(事実上の標準)で、グローバルスタンダード(世界標準)ではない。日本人は組織で動いたほうが社員の力を発揮できるのではないか」

 「例えば、欧米ではディーラーが収益の数%を報酬として会社に求めるが、それは本来おかしい。私たちの取引は住友銀行の格付けや設備、信用があって初めて成立する。もちろんヘッドハンティングで引き抜かれるケースもあるが、高給が欲しい人は辞めてもらって構わない。穴を埋める人材は組織の中でもどんどん育つ。痛くはない」

 ――宿沢さんのような実績があれば、ヘッドハンティングの誘いは相当かかってくるでしょうね。

 「自分は組織型人間と思われているせいか、それほど誘いはないですよ」

 ――組織の中で自分を最大限に生かす道は。

 「英国のラグビー界では才能のある選手に10歳ぐらいから目を付けて英才教育を施し、育った人材は年齢に関係なく最初からリーダーとして抜てきする。住友銀行は外部からは厳しい組織として見られているが、若手にどんどん権限を与える。能力さえ示せばリーダーシップを発揮できるその仕組みは、高い報酬以上のインセンティブになる」

 「『私はサラリーマンが嫌だ』という人は多い。その理由は疲れる割に自分の存在感が薄いことだろう。サラリーマンの醍醐味(だいごみ)は『組織の長として自分の思うように組織を動かせる』ことに尽きる。それを経験せずにサラリーマンを論ずることはできないと思う。私も目標は高く置いて、サラリーマンとして最高のゴールを目指すつもりだ」

 「社員と会社」第2部では、自らの専門性や知識を武器にして、自分の価値観を変えることなく、したたかに生き抜く社員の姿を、連続して検証していく。(「社員と会社」取材班)

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