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「日経産業新聞 連載企画」


第2部 生き抜くサラリーマン (4)兼業にチャレンジ

 「とても便利。私たちの不満を解消してくれた」「ソフトの動作が遅い。何とかしてくれ」――。

 福岡市の上村和久さん(33)は仕事から戻ると、毎日欠かさずパソコンに向かう。自ら開発し、ネットを通じて“販売”するシェアウエアソフト(使用期限付きソフト)の購入者から自分あてに来る感想メールを読む。「厳しいなあ」「こんなに評価されてるんだ」と一喜一憂する。

 本業上回る収入

 本業はシステムエンジニア。大手電機メーカー系列のソフト会社でコンピューターシステムの設計・製作を手がける。本業の知識を生かし、終業後の時間を利用して4本のソフトを開発した。作品はインプレス(東京・千代田)の運営するインターネット・サイト「窓の杜」に取り上げられた。

 「窓の杜」にアクセスしたユーザーは一定期間無料で使え、気に入ったら上村さんのホームページにアクセスして1本1000円でダウンロードする。ネットを活用することで営業所など持たずに全国でビジネスができる。特に97年3月に出したマウス操作のためのソフト「ほいールン!」がヒット、“内職”の収入は本業の年収を上回るほどだ。

 「窓の杜」には現在、企業のエンジニアなどが副業で開発したシェアウエアソフトが、約1200本紹介されている。価格は1本500円から3000円程度まで様々。「会社ではなかなかできない、自分のやりたい仕事をしたい、という人が多い」(インプレス)

 上村さんの場合、ソフト1本の開発にかける期間は4カ月程度。寝るのが午前2時を過ぎることもある。朝7時に起きて出社し、出張も多いが、「好きでやっていることなので苦にならない」と強調する。

 実績上げても…

 最近、ネットを利用したアルバイト労働が広がってきた。音声応答システムを開発するフレックス・ファゥム(東京・新宿、斉藤徹社長)は自社のホームページを使ってパソコン技術者6500人を登録している。どの分野に強いか、余暇の時間がどれだけあるか、といった個人データで細かく分類、開発案件ごとに応札候補者を決め、電子メールで仕事を発注する。

 当初はフリーの技術者がほとんどだったが、昨年あたりから、兼業の会社員の比率が高まり、3割程度になった。登録の際に行う面接では「残業代が減っているので」と、不況による減収を兼業で補おうとする人が増えているという。

 こうしたサラリーマンの“内職”増加の背景には、ネットワーク環境などインフラが整ってきた影響がある。だが同時に、会社と社員の関係が変化している点も無視できない。

 上村さんには、会社の自分に対する評価について「実績を上げても、昇給や昇進に結び付く割合が少ない」という不満があった。また、終身雇用の崩れでいつ仕事がなくなるかわからない不安がある。「その時に備えておきたかった」という気持ちは誇張ではない。

 企業側のニーズもある。特にネットビジネスは技術進歩が早く、必要な人材もその都度変わる。外部の人材を活用することで固定的な人件費を抑え、サービスのコストを圧縮できる利点は小さくない。

 「大きなプラス」

 ただ“内職”に励む人たちにとって、会社の「兼業禁止」規定は気掛かりな点だ。シェアウエア作家協会の渡辺多美夫代表(37)はシステムエンジニアとして勤めるかたわら、個人でシェアウエアを開発しているが、会社には「アルバイト禁止」の規定がある。

 「快く思わない人もいるだろう。だが、ソフトを作るため自分で勉強したことや、作成や公開を通じて知り合った他の作家やユーザーとのつながりは、本業にも大きなプラス」と副業の効果を強調する。

 現在、コンピューター業界で注目を集める無償OS(基本ソフト)「Linux」は、世界各地のコンピューターエンジニアがネット上でほぼ無償でソフト改良を始めたことから誕生した。

 企業にとっても、終身雇用、年功序列賃金を維持し、社員の生活を長期に渡って保障することは難しくなっている。かつて、兼業禁止の規定は社員の会社への忠誠心を高める効果があった。しかし、自分の勤務する会社に依存しない、自立した社員を育てるには、こうした規制を緩和して、社外の市場でチャレンジする機会を積極的に与える必要があるかもしれない。(「社員と会社」取材班)

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