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「日経産業新聞 連載企画」


第1部 溶け出すサラリーマン (2)進むアウトソーシング

 JR大阪駅近くのビルに本社を置く経営コンサルティング会社、テクノソフト(坪井清社長)。クラレが繊維関連技術者などを出向させ、84年に設立したアウトソーシング(業務の外部委託)会社だ。同社は出向者が55歳になるとクラレから自動的に転籍する制度を敷き、これまでに87人の社員の半数弱が「クラレ社員」から「テクノソフト社員」になった。

給与は完全歩合

 「年収は約1200万円。ようやくクラレ社員時代に戻った」と胸を張る前川稔コンサルタント部長(59)もその1人。同社のコンサルティング部門は転籍後1年を経ると給与は完全歩合制となる。「クラレ時代に培った人脈と工場運営などのノウハウが日々試される」(前川氏)が、クラレの看板をあてにはできない。年間500万円の最低保障はあるものの、社員1人1人の市場価値で給与が決まる厳しい世界だ。

 労働集約型の繊維から化学部門などへの事業シフトを続けたクラレは一般事務や財務・経理などの業務の外部化を断続的に実施、本体の社員はピーク時の1万1000人から5000人に減少した。「早期退職優遇制度などの過激な人員削減はしない」と、クラレの和久井康明取締役は強調するが、アウトソーシングという名の「社員減らし」をしてきたことになる。

キャリアパスに

 日本アイ・ビー・エム(日本IBM)は昨年、大和銀行、オムロンとアウトソーシング契約を実行に移した。それぞれを相手に情報システムの運用・開発を手がける共同出資会社を設立し、大和銀行からはシステム部門の260人が、オムロンからは60人が新会社に出向した。日本IBMにとっては金融、製造業それぞれの分野で最大規模のアウトソーシング契約だ。

 大和銀行と共同出資で昨年3月に設立したディアンドアイ情報システム(大阪府豊中市)のオフィスでは金曜日に私服で出勤するカジュアル・フライデー制度を導入、社員同士は「さん」付けで呼び合う。「新会社での経験は情報システム業界でのキャリアパスにもなる。正直言ってうらやましい」と大和銀の前中潔システム企画部次長は打ち明ける。銀行のシステム部門にはなかった自由な雰囲気と「本業意識」。新天地に移る意義は大きいという。

 ニッセイ基礎研究所(東京・千代田)が試算した情報サービス・調査、広告など、「アウトソーシング関連サービス業」の国内市場規模(事業収入金額)によると、89年の26兆6000億円が98年に40兆6000億円、2005年には54兆8000億円に成長する見込みだ。

 アウトソーシングは80年代末から米国で普及した。イーストマン・コダックが自社の情報システムの施設をそっくりIBMなどに売却したように、ハード、ソフトの資産譲渡と同時に、システム部門の社員も委託先に転籍する。

 エレクトロニック・データ・システムズ(EDS)に業務委託したゼロックスでは従業員1700人がEDSに転籍した。転籍後にはコスト競争力向上のための合理化が待っている。

 日本流の配慮

 日本にも遅まきながらアウトソーシングの波が押し寄せてきた格好だが、日本独特の工夫も見える。日本IBMがアウトソーシング会社の社員を、給与が変わらない出向扱いにしたのもそのひとつ。「人を丸ごと引き受けるのは、日本の労働慣行を考慮すると難しい」(北城恪太郎日本IBM社長)との配慮からだ。

 社員の「プライド」への配慮もみえる。オムロンと日本IBMが設立した新会社の名刺には、オムロン社員と同じ「OMRON」のロゴが付く。テクノソフトのコンサルタントは一部を除き、クラレ時代のポストを意識した「部長コンサルタント」だ。

 だが、ディアンドアイ情報システムでは「甘えがきかない他流試合をしないと真の効率アップは望めない」(前中氏)と、大和銀以外の受注も目指している。それが本格化すれば出資企業が出向制度で給与を保障する理由はなくなる。

 長期雇用と安定的な収入を社員に保障してきた日本の大企業は、世界的な大競争の激化で部分的にではあるがそれらを放棄せざるをえなくなっている。ただ、労使協調路線の下で強硬な人員削減策は難しい。その間隙(かんげき)を突いたのが社員に温かい「日本型アウトソーシング」だ。

 しかし、アウトソーシングの効果を上げようとすれば、市場価値での雇用を徹底する米国型に近づける必要がある。「社員」の選別を強める会社と、雇用、収入、プライド――の何を選ぶか決断を迫られる社員。その緊張関係は確実に厳しさを増している。(「社員と会社」取材班)[日経産業新聞]

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