|
社宅、保養所、社内預金、企業年金――。福利厚生はこれまで社員を企業に引きつける求心力の役割を果たしてきた。だが、長引く不況の中、企業は福利厚生のコストに対し敏感になっている。社員自らが年金改革に参加したり、福利厚生メニューを選択する動きも活発だ。福利厚生に対する社員の意識の変化を追った。
将来リスク軽減
春闘の余韻がさめやらぬ3月26日。富士通労働組合の松岡晴男委員長、山形進書記長ら組合幹部は、深川敬三副社長、財務担当の高谷卓取締役、同社の厚生年金基金の岡田恭彦理事長と向き合っていた。テーマは企業年金改革だ。
同社の厚生年金基金は企業独自の終身年金部分(第一加算)については会社側が55%、社員が45%をそれぞれ拠出している。改革案では、社員が拠出する部分を運用実績に応じて給付額を改定する方式に切り替える。企業年金は5.5%の運用利回り(予定利率)を前提に設計されているのに対し、改革案はいわば運用利回り連動タイプだ。
会社側にとって部分的とはいえ事実上の確定拠出型年金を導入できるメリットは大きい。2001年3月期から年金債務のうち資産を上回る部分のバランスシートへの計上が義務づけられる。同社の厚生年金基金はこれまでは比較的高い運用実績により積立不足が発生してこなかったが、「将来にわたって年金債務リスクを軽減できる」(岡田理事長)。
「新しい年金の仕組みはわかった」。組合側は4月に中央委員会を開いて改革案を受け入れるか、どうかを決める。現在の低金利を考えれば給付額は将来減る可能性もある。それでも、提案は前向きに検討されている。
年金基金自体は独立した会計をもつが、年金債務が企業本体の連結決算でバランスシートなどに反映されるようになれば、賃金交渉にも影響を与える。年金財政の悪化を放置したままでは、「賃上げや一時金のアップ、福利厚生メニューの充実を要求するのは難しい」(労組幹部)と判断している。
組合が減額提案
TBSでは組合側が自ら支給額の減額を提案した。昨年8月に会社側が示した年金改革案に対して、東京放送労働組合は「会社案では年金債務残高が年間2億円ペースで増えていく。健全化にはつながらない」(小野寺瑞樹委員長)とし、代案を出したのだ。
組合案では支給額の減額とともに、会社側の年金債務の償却率の引き上げを求めた。つまり、会社と社員が年金財政の健全化に向けて「痛み」を分かち合う。会社側では「組合案では運用原資の拠出額が当初の3年は急増する」(大野豊人事労政局次長)として確定拠出型年金の導入も視野に入れた新制度作りを再度、提案。年金改革を巡る労使協議は熱を帯びている。
「今回は給付額の引き下げだけをのんでもらった」。日立建機は厚生年金基金のうち会社側の上乗せ部分(加算分)の予定利率を年5.5%から4.5%に引き下げ、同時に給付額を月額2万円(60歳、勤続40年モデル)引き下げた。
社員にとっては保証期間が73歳から80歳に延長になる以外、メリットは薄い。「会社が約束したことを守れなかったと言われても仕方ない」(有田勝利人事部長)状況だったが、組合との交渉は約6カ月で合意し、比較的順調に進んだ。「年金問題に対する危機感が組合と会社、基金で共有できたのが追い風になった」(有田氏)という。
改革を後押し
「年金は自分たちの手で守る」――。厚生年金基金、適格退職年金といった企業年金の財政運営を会社まかせではなく、社員自らが考え、改革に参加しようとする動きが高まっている。企業年金は「将来、安心して受け取るためには自助努力が欠かせない」との意識が社員の間に浸透し始めたからだ。組合など社員の参加意識が年金改革を後押しする原動力になってきた。(新貝晃一)

|