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「日経産業新聞 連載企画」


第2部 生き抜くサラリーマン (3)不本意人事にもめげず

 意にそわない部署への配置転換を命じられる。仕事への興味は薄れ、社員でいることすら嫌になってしまう――。多くのサラリーマンがぶつかる場面である。だが、こんな境遇からも、自信と活力を取り戻す道はある。挫折を乗り越え、復活する「不死鳥(フェニックス)」社員に見習うべき点は多い。

石の上にも3年

 国鉄大阪駅の2番ホーム。その日も兵庫県三田市にある実家に向かう5時8分発の福知山線の列車を待っていた。仕事が終わっても大阪府門真市の社員寮に帰る気はしない。足は自然と肉親のいる実家に向く。「母親に配置転換を説明しようか。いや、格好悪くてできないな」。自問自答は続いた。

 松下電器産業エアコン事業部の主席技師、亀田宗雄氏(57)は当時のことを今でも思い出す。松下に入社したのは61年。配属された冷機事業部(現エアコン事業部)では、同社の看板商品の一つであるルームエアコンの開発・設計を担当。亀田氏には「天職」と思えた。

 それが一変するのは入社9年目の70年。「梱包(こんぽう)技術担当」を命じられたのだ。当時の梱包は完成したエアコンをクギ打ちした木枠で覆うことだった。職場の最初の感想は「陰気な仕事や」。上司を恨み、真剣に辞めようとも思った。

 だが、母親の口癖、「石の上にも3年」が脳裏に浮かんだ。ふてくされているだけでは、事態は少しもよくならない。亀田氏は少しだけ前を向くことにした。「クギを抜くのが大変な木枠を、段ボールに変えられないか」。最初の目標をここに定めた。

 成果は1年足らずで早くも表れた。それまで本体とは別の包装が必要だった表面グリルを一体包装にし、社長銀賞を受賞した。以来、社長賞の受賞は16回、経費削減効果は累計で30億円以上に達した。

 地球環境保護の重要性が叫ばれたことも励みになった。家電業界の対応には社会的な関心も強く、問題解決への意欲がかき立てられる。焼却処理が必要な緩衝剤用の発泡スチロールの削減もその一つ。松下では90年まで、エアコン用に500トン台の発泡スチロールを使っていたが、包装技術の改善で98年にはわずか27トンまで削減した。

 もちろん、進む道に障害がないわけではない。室内機の側面の包装をやめて緩衝材として強度の高い紙製の支柱を立てる包装技術を83年に開発した時のこと。身内のエアコン事業部から「高額商品のエアコンと、側面部分が露出する包装はなじまない」と猛反対を受けた。

 救いの手を差し伸べたのは系列販売店だった。段ボールから発泡スチロールをはがすのが重労働で、緩衝材が紙の筒になるのを大歓迎したからだ。「社内より外部の評価が早かった」と亀田氏は語る。

理事で復帰

 「引退させてもらいます」。中村明氏(64)は94年に富士通の関連会社であるニフティ(東京・品川)で定年を迎えた。これに「待った」をかけたのは、富士通の山本卓真会長(当時)。やめるはずが一転、ネットを通じゲームや音楽などコンテンツ(情報の内容)を販売するSD事業推進部長というライン幹部として、富士通の本体に復帰した。待遇は役員に準じる理事で、約30人の部下を率いる身となった。

 ネットの達人――。このころ既に、中村氏はパソコン通信愛好者の間では知る人ぞ知る存在だった。富士通でスペイン現地法人の社長まで務め、87年、ニフティ出向を命じられる。一度は「サラリーマン人生の先が見えた」という。

自ら「職場」開拓

 だが、ニフティでの奮闘ぶりが本社幹部の目に止まる。中村氏は当時発売された通信機能付きワープロをみてネットワークの将来性を確信。まだ草創期だったパソコン通信サービスのマーケティングにと、会員にメールを送りまくった。送ったメールは7年間で300万通を超える。会員からは「中村メール」と親しまれ、ニフティをパソコン通信サービス大手に押し上げる原動力になった。

 97年の退社時、山本会長には「定年の表彰状ではなく、卒業修了書を下さい」とせがんだ。自分を引き上げてくれたことへの感謝と同時に、サラリーマン人生の終わりが自分の能力開発の終わりとは思いたくなかったからだ。

 不死鳥型の社員に共通するのは新職場で、自分なりの「職場」を開拓したことにある。配転時にはポストにこだわってしまう自分の内面と周囲とを冷静に見つめる。そして根気強く自らの努力、才覚でポストを作る――。あらゆる面で雇用流動化が進む21世紀のサラリーマンの新しい生き方である。(「社員と会社」取材班)

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