制裁で再び出場停止の恐れ
ベオグラードで行われたレッドスター対パルチザン戦では、スタンドからグランドに発煙筒が投げ込まれた=98年4月8日〔共同〕
 火を噴く発煙筒が次々とグラウンドに投げ込まれ、一部はゴール近くまで転がる。ベオグラードで行われたユーゴスラビア国内リーグ、レッドスター対パルチザンの伝統の一戦。血の気の多いことでは世界有数のユーゴのサッカーファンはこの夜も燃えた。

 そのユーゴの人たちを、もっと熱くさせるのがワールドカップ(W杯)だ。

 旧ユーゴは1990年のイタリア大会でベスト8まで進んだ強豪だったが、直後にクロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナなど旧ユーゴの四つの共和国が次々に分離独立。セルビアとモンテネグロの二共和国だけが残ったユーゴは92年5月以降、ボスニア紛争をめぐる国連制裁でスポーツ交流まで止められ、94年の米国大会を棒に振った。

 制裁は解除されたが、失業者の増加、難民の流入など紛争の傷跡は深い。この間に海外に流出したストイコビッチ(名古屋グランパス)ら、スターを再結集させて臨むフランス大会は、ユーゴの人々にとって希望そのものだ。

 そんな矢先、また制裁の話が持ち上がった。ユーゴのコソボ自治州での2月下旬からのゲリラ掃討作戦で女性や子供を含む約100人の死者が出たことで、3月14日に欧州連合(EU)非公式外相会談でW杯からユーゴを排除する制裁が提案されたのだ。

 レッドスター出身のサビチェビッチ(ACミラン)のW杯での活躍を楽しみにしている会社員ボラ・クネジェビッチさん(33)は「わたしたちはすべてを奪われてきた。この上、サッカーまで取られたら悲劇だ。世界が同じ間違いをしないと信じたい。政治とスポーツは別物じゃないか」と気が気でない。

 「出場停止されれば、コソボの作戦に批判的な一般国民まで激高させ、戦火を拡大させる逆効果につながる」とみる報道関係者もいる。

 フランス大会の組み合わせも、人々を燃え上がらせる。F組のユーゴの対戦相手は、第2次大戦中にユーゴのセルビア人を大量虐殺したドイツ、ボスニア紛争でセルビア人勢力を空爆した米国、敵のイスラム教徒勢力を軍事支援したイランだ。

 組み合わせについて、ユーゴ・サッカー連盟のミリャン・ミリャニッチ会長(67)は「サッカーはボールでやる競技。政治でやるんじゃない。選手のプレッシャーにはならない」と笑う。

 「(旧ユーゴの解体で)ユーゴ代表は昔の半分になってしまった。選手養成には以前の3倍の努力が必要だ」と認めるが、ジュニア選手層の厚さには自信を示した。[共同]


Copyright 1999 Nihon Keizai Shimbun, Inc., all rights reserved.