三井物産が繊維部門に投資専門の部署として投資事業室を新設し、アパレルへの投資体制を整えた。「マーケット開発や資源への投資を通じて産業を裏から支えるという商社の本質は、ベンチャーキャピタル(VC)そのもの」と説く岩崎春夫室長は、「その原点に戻りたかった」と部署立ち上げのいきさつを語る。
投資事業室は計5人。少ない印象を与えるが、投資先発掘の役割は国内外の繊維部門の営業人員約300人が担う。営業部隊が日常業務でつかむ情報には「ビジネスチャンスが潜んでいる」(岩崎室長)からだ。一方、事業室はこれまで培った繊維業界に関する知識を駆使し、投資先の戦略立案などに集中する。
岩崎室長は、投資専門の組織を設けた効果として「やるべきことが明確になった」と強調する。安価な中国製衣料の大量流入などで「物にかかわる付加価値が下がっている」ため、投資戦略として「知的財産に付加価値をつけていく」ことを掲げる。知的財産とは(1)信用やあこがれといったブランド力(2)特許を取得した素材(3)デザイナーやパタンナーなどの専門技術者(4)優良な出店場所――などだ。
投資事業室の前身となった「投資事業ユニット」が発足した昨年5月以降、知的財産の付加価値拡大に向けた取り組みは着々と進んでいる。素材への投資では昨秋、米国の繊維開発ベンチャー「オプティマ」(デラウェア州)と、同社が開発した高吸水・速乾性繊維「ドライリリース」の特許権・商標権を保有する新会社を共同で設立。日本含むアジアでの生産権利は富士紡績に供与し、三井物が販売先を開拓している。これまでナイキやアディダス、プーマなどのスポーツウェアに採用された。
人材への投資では、新規ブランドの立ち上げに力を入れる国内各社や、海外ブランドの日本法人などでアパレルの専門知識を持つ人材の需要が高いと判断。ジャスダック(店頭)市場上場で人材派遣のインテリジェンスと昨秋、デザイナーや販売員などアパレル専門の人材紹介会社「クリーデンス」(東京・港)を新設した。両社とも岩崎室長が取締役として名を連ねる。
優良立地の確保では、セレクトショップを展開し株式公開を目指すルシェルブルー(神戸市)の東京・銀座への進出を後押しした。三井物が不動産業者と賃貸契約を結び、ルシェルブルーに転貸する形にした。同社への資本参加について岩崎室長は「タイミングがあれば考える」と今後の展開に含みを持たせる。
ブランドへの投資で事業室が今年最も力を入れたのが「ハナエモリ」ブランドの再建だ。今春、英ロスチャイルドグループなどが出資したファンドと三井物が新会社を設立、高級既製服(プレタ)事業と商標権を買収した。その後、森英恵氏が率いる「ハナエモリ」はブランドに傷がつくの避けるため、清算ではなく民事再生法の適用を申請。森氏は高級注文服(オートクチュール)などに専念している。
「軌道修正すれば復活すると考えた」(岩崎室長)からこそ踏み切ったハナエモリへの投資。ブランドイメージの発信基地の役割も持つ店舗コンセプトの統一や、「毎シーズンの種類が多すぎた」(岩崎室長)品番を見直す作業が続く。
「ハナエモリに力を注いだから、今年は(投資事業室がかかわって)具体化した投資案件はハナエモリ以外はなかった」(岩崎室長)。投資体制の再構築が吉とでるか、ハナエモリの復権の行方とともに事業室の今後の投資成果が注目される。
出資会社の概要(一部)
| 会社名 | 三井物産の出資比率 | 出資金額 |
| オプティマパフォーマンス | | ファイバース | | (デラウェア州) |
| 15% | 230万ドル |
| 30% | 1800万円 |
(ネット編集部 阿部百江)