■ 1面企画「電縁の時代」

(4)値段はお客が決める

 需要が増えれば、価格は上がる。電縁の世界ではそんな経済の常識が簡単に覆る。

企業並みの力

 ベンチャー企業のネットプライス(東京・渋谷)が運営する携帯電話のネット通販サイト「ちびギャザ」。ブランド品から家電、食品まで月間3億円を売るこのサイトでは顧客からの注文が増えるほど価格が下がる。

 例えば、限定30個販売の香水では注文が四個までなら4500円、9個までで4200円、10個以上まとまれば3980円と変わる。画面には今までの注文個数も示され、現時点での値段がわかる。顧客は自分が買う商品が最終的にいくらになるか、画面とにらめっこすることになる。

 企業の資材調達では大量に仕入れる「強い購買者」ほど、安く買える。個人を束ねることで消費者に同様の購買力を持たせる手法は生協がその先例だが、ちびギャザはネットの力で消費者が自由にいつでも参加できるようにしたのが特徴だ。

 1万2000円の時計が3000人以上の購入者を集め2980円。9980円のデジタルカメラには200人強が注文を出し、2980円に下がった。メーカーや問屋もその購買力には逆らえない。現在、仕入れ先は200社程度。「毎月10社ほどから新たな取引や新商品開発の申し出がある」と佐藤輝英社長(28)は言う。

 ヒト、モノ、情報が自由に行き交うネットの市場。そこでは従来の力関係ががらりと変わる。

 「関東ではもっと安い値段で卸しているそうですね」。こんな文句で酒類メーカーや卸会社に値引きを求める酒販店が増えている。それを支えるのがコンサルティング会社、ケーエルシー(KLC、京都市)が構築した「クラスターネットワークシステム」。1100に上る全国の「街の酒屋さん」を結ぶ。

 店頭のレジと連動して刻々入る売れ筋や仕入れの情報を蓄積し、各店で見られる。「他店の仕入れ価格が分かれば、交渉が有利になる」と阪彰敏KLC常務(55)が言うように、加入店のビール仕入れ価格は7%下がった。

 買い上手は売り上手――。豊富な商品知識を持つ消費者が強力な販売者にもなる。三井物産のネットの販売代理店制度では消費者への「水先案内人」となる個人の代理店が一部法人を含め2万2000人も登録。ソニーマーケティングや千趣会などが契約し、全体の販売額は月間25億円を超えた。

 代理店になった人がホームページを開設。そこで情報を得た消費者がリンクされた企業のサイトへ行き、商品を買えば、手数料が入る仕組みだ。

 同制度で、デルのパソコンを紹介するサイト「デル通」を運営する山崎将史さん(29)は開業以来、約半年で1億4000万円分を売った。本家のデルのサイトより詳細な商品情報が売り物だ。消費者に近いコンビニがメーカーなどに対する力を強めたように、電子商取引の市場では消費者により近い個人の代理店が力を持つ可能性がある。

百貨店を抜く

 ただ、様々な情報が流れるネットでは消費者が主役のつもりで、そうではなかったという現象も起こる。ヤフーやグーグルなどの検索で自社の商品情報を上位に登場させ、消費者の目にとまりやすくするよう助言する新サービスも台頭している。使い方を誤れば、情報への信用が低下し、市場の成長にも影響しかねない。

 織田信長は商人などによる自由な取引を認める「楽市楽座」を創設、関所も撤廃した。作家の津本陽氏はそれが「爆発的な経済発展を実現した」と指摘する。信長の戦国時代から江戸時代初期までの約100年で日本の人口は2倍、耕地面積は3倍になったとされる。その後、徳川家康が閉鎖体制に戻し成長力は衰える。

 経済産業省などの予測では、国内の消費者向け電子商取引額は2002年の2兆6800億円から来年は8兆5900億円に拡大。全国の百貨店売上高(02年で8兆3400億円)を抜く。現代の楽市楽座をどう育てていくか。経済活性化へのカギがそこにある。


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