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Theme 1 - Journalism


ジャーナリズム

社会をより良くしたい。
そのために何をどう伝えるか。
情報があふれる今だからこそ、貫く姿勢がある。

阿部 哲也

編集 国際報道センターNikkei Asiaグループ
2000年入社
文学部卒

Talk 01

あなたにとってジャーナリズムの基本姿勢とは?

追いかける対象に限りはない。
しつこく事実を追い求め、
読者に驚きのある記事を届ける。

しつこくあること。
私がデスクワークで重視する原則です。
2019年度の新聞協会賞に選ばれた「データの世紀」は18年4月に始まりました。ネットにあふれるデータの活用がもたらす光と闇を追う。それがテーマです。
テクノロジーが進化し、私たちの生活は便利で豊かになりました。でも一方で、個人データを使った世論操作やプライバシーの侵害といった新たな課題も目立ち始めています。
何が起きているのか。今後どうなるのか。読者にどんな事実を伝えるのか。 記者とはそうした疑問を何度も議論します。そして一緒に取材の方向性を決めていく。追いかける対象に限りはありません。取材班が足を運んだ現場は欧米や中国、インド、東南アジアと世界各地に及びます。
編集作業でも議論は欠かせません。
取材班は編集局横断の混成チームです。産業ニュース、官公庁、マーケット、企業法務、事件・事故と、得意分野はバラバラ。日々の取材対象、関心も別々です。
読者に驚きのある記事を届ける。これを指針に編集会議では、各メンバーが持ち寄るネタ、紙面案は厳しく精査します。大体10本挙げて、1本選ばれればいい方でしょう。記者は正直しんどいと思います。
それでも、むやみに情報を発信するのではなく、本当に伝えたい事象は何なのかを選び抜く。文章だけでなく、写真やグラフも含めて1本の記事として作り込んでいく。
ネットに情報があふれる時代だからこそ、譲れない基本姿勢です。

Talk 02

ジャーナリストに求められる役割とは?

一人ひとりが試行錯誤を続ける。
ひとつの問題を諦めずに追いかけ続ける。
その先に世の中を変える報道がある。

実際の取材は苦労の連続です。
「悪く書くなら、取材は受けない」「日本では違法ではない。答える義務はない」。 個人データを扱う責任や管理体制について日本企業に取材すると、繰り返される光景です。
「不都合な真実」は地道な取材で掘り起こすしかありません。そうして結実した1つが「リクナビ問題」の調査報道です。19年8月、取材班は就活サイト「リクナビ」が学生に十分説明しないまま、内定辞退率という重要データを販売していた事実をつかみ、それを特報しました。
記者が手がかりを得たのは同年4月。取材先とのふとした雑談で「リクナビから変わった売り込みがあったんです」と聞いたことがきっかけでした。
諦めずに追い続けて数カ月。日経電子版の「イブニングスクープ」で第一報を発信し、問題が初めて公になります。
「見える化」にも腐心しています。
テクノロジーは目に見えません。難解な専門用語も壁です。どう伝えるか。試行錯誤を続けて、たどり着いたのが「私の視点」から語る手法です。
記者の一人はグーグルやフェイスブックなどを一切使わない「GAFA断ち3週間」に挑みました。GAFAなしでどこまで生活や仕事ができるのか、身をもって検証するためです。自分の大事な個人情報を売って、いくら稼げるか試した記者もいます。
社内の研究者と共同で、トランプ米大統領の偽動画を試作したこともあります。誰でも容易に偽ニュースをつくれてしまう。その危うさを実践的に伝える狙いからです。

「データの世紀」は大きな反響を呼び、データの活用と保護を巡る世の中の風向きも徐々に変わってきた気がします。私たちの報道が少しでも、事態をいい方向に動かす一助になっているのならば、それにまさる喜びはありません。
社会をより良くしたい。それがジャーナリストの最大の役割と考えるからです。

新聞協会賞2部門で受賞

新聞協会賞は日本新聞協会が年1回、編集、技術、経営・業務の3部門で大きな功績があった協会加盟社の新聞人に贈る。日経は2019年度の新聞協会賞を編集(連載企画「データの世紀」とネット社会に関する一連の調査報道)、経営・業務(日本経済新聞 新聞広告IoT宣言~新聞広告の価値向上を目指して~)の2部門で受賞した。

「データの世紀」はデータの活用がもたらす光と闇の実態を多角的に報じ「デジタル時代の新しい企画報道」と評価された。「新聞広告IoT宣言」は新聞広告に読者がどれだけ関心を持ち、広告を認識したかをスコア化する手法などが、新聞広告の価値と魅力を高める取り組みとして評価された。

Talk 03

これからあるべき新聞の姿とは?

無料のネットでは得ることのできない
「クオリティー」を提供すること。
そして、太い根っこを持つこと。

新しいメディアが次々と誕生するなか、新聞が生き残れるかどうかは「クオリティー」の一点に尽きるといえます。無料のネット空間では得られない、質の高いコンテンツを読者に提供する。そうしたネット時代のジャーナリズムのあり方が試されているのです。
道筋の1つは「データの世紀」でも試みたデータジャーナリズムの手法でしょう。
例えば2018年11月の米中間選挙の取材では、記者らがプログラムを自作し、645人の下院議員候補が発した計24万件のツイッター投稿を分析しました。見えてきたのはデータの力が政治も動かし始めたという事実です。
日本の主要企業100社のサイトを特殊ソフトで解析したこともあります。この調査報道では、大企業の半数近くが共有先を示さないまま、一般利用者の個人データを外部に渡していたことを明らかにしました。
新聞を再発明する。データとテクノロジーを適切に使えば、そうしたことが可能になるはずです。
そして変化の激しい時代だからこそ、一人ひとりの記者は根っこの部分を大事にする必要があると思います。
私は2000年の入社ですが、実は同じ時期に父親がリストラされました。私と一緒に就職活動をする父を見て、真剣に考えました。
世の中から少しでも理不尽や不条理を減らしたい。
これが新聞人としての原体験になっています。
視点は一人ひとり違うでしょうが、まずは太い根っこを持つ。そうした記者と一緒に働けるといいですね。

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Theme 01 - Journalism

社会をより良くしたい。そのために何をどう伝えるか。情報があふれる今だからこそ、貫く姿勢がある。

Theme 02 - Global

Nikkei Asiaの認知度を高め、アジアを代表するメディアとして読者に選ばれる存在を目指す。