TALK SESSION 02 グローバルメディアを目指す私たちの挑戦

近藤 明日香(FT事業室 兼 グローバル事業局[1998年入社]) × 小平 龍四郎(編集局編集委員 兼 論説委員[1988年入社])

アジアを基軸にする強みで世界から信頼されるメディアへと成長を果たす。

日本の新聞社で最大規模を誇る世界37の海外取材拠点を展開する日本経済新聞社。2015年に世界を代表する英字経済紙を有するフィナンシャル・タイムズ(FT)・グループを買収、世界最大級の経済メディア「日経・FTグループ」としてグローバル展開を加速させている。記者として取材現場の第一線を走り続ける小平、FTとの連携を進める近藤にグローバルメディアを目指す日経の挑戦について語ってもらった。

日経グループの一員となったFTにどんな印象を持っていますか。

小平

 私は2016年1~3月まで、ロンドンにあるFT本社の「リーダーチーム」でFTの人と一緒に仕事をしました。リーダーチームは日本の新聞社で言えば、社説を担当する論説委員会のような組織です。FTは組織が非常にコンパクトで、少数精鋭。そしてタイムマネジメントを徹底し、スピード感を持って仕事に取り組んでいます。例えば朝の10:00に社説のテーマを決めると夕方には書き上げ、社説を翌日の朝刊ではなくその日の夜のうちにFTのニュースサイトに掲載します。ニュースをなるべく早く発信していこうという意識が高く、そのスピード感に対応できる組織となっており、とても刺激を受けました。
 3カ月間にわたり一緒に仕事をして、日経とFTに共通する部分が多いことを感じました。特に強く感じたのは常に高い問題意識を持ち、現場で得た事実を積み重ねて記事にする姿勢です。当時は欧州連合(EU)からの離脱を問う国民投票が控えていたため、FTの記者と何度もEU離脱について議論を重ねました。非常に有意義な時間でしたね。アウトプットする記事が日本語か英語かの違いだけで、読者に何を伝えていくかという姿勢は全く同じだと感じました。ただ、日経とFTは同じグループだからといって、どちらかの主義・主張に合わせることはしません。一つの事象に対して考え方がぶつかることもあります。でもそうした議論こそが独善的にならない、健全なメディアとしてのスタンスを保つことになると思います。

近藤

 私も日経とFTの根底に流れるものは同じだと思います。あるときFTの編集者にこう言われたことがあります。「もしFTがアジア発のメディアだったら、きっと日経のような会社になっていただろう」と。ジャーナリズムの価値や使命に対する考え方、記事の質に対する強いこだわりは共通するものがあります。
 デジタル版のニュースサイトでは、どんな時間帯にどんな記事がよく読まれているか、読者がどこまで画面をスクロールし、何分かけて何ページ読んだかなど様々な動きを分析できます。FTはこうしたデータを記事の見せ方やサイトの使い勝手向上に生かしているほか、営業面では有料読者の増加につながるより効果的なマーケティング策などに活用しています。日経も電子版を中心に読者行動を分析していますが、FTはデータ活用がさらに徹底している印象です。

FTが日経グループの一員となったことで、社内にどんな変化が生まれていますか。

近藤

 FTは新聞業界全体でもデジタル化をリードしてきた存在です。記者は基本的に、スクープならまず印刷版の一面に載せたいという気持ちが強かったですが、FTではスクープだからこそいち早くウェブ上で発信するといった考え方の変革を何年もかけて浸透させてきました。そして、第一報に続き時々刻々と変化する事態の詳報や、動画のような文章以外の素材を交えた解説はウェブで、幅広い読者が関心を持つその日のハイライト的な部分は紙面で伝えています。それらを端的に周知するためにソーシャルメディアや電子メールを活用し、ニュースを立体的に伝えている。これからの報道のあり方を考えるうえで、とても刺激になりました。日経でも紙面の締め切りを待たずに電子版でどんどん速報を流す「デジタル・ファースト」体制やソーシャルメディアの活用を強化して、ニュースをよりタイムリーに報じる動きが進んでいます。

小平

 記者という立場においては、マインドセットの変化が大きいかもしれません。日経が2013年に創刊した英文媒体「Nikkei Asian Review(NAR)」の例を挙げると、創刊当初は日経新聞の社説を英語に翻訳して載せていました。しかし日経新聞の社説は日本人向けに書かれているので、外国の読者からするとテーマも内容もピンとこない部分があったようです。FTの記事をよく読むようになり、価値観の違いを意識するようになりました。英文媒体であれば、英語圏のニュアンスを持って伝えないといけない。記事も日本語から翻訳されたものではなく、英語で書き起こした記事で伝えることが大切なのです。だから現在はNAR用に専門のエディターがいて、テーマ設定から書き方も変えるようになりました。そうした取り組みをする日本のメディアはまだ存在していないので、とても大きなプレゼンスを発揮できています。

日経がNARを展開する意義や今後の展望について教えてください。

小平

 日本を含むアジア経済圏の“今”をアジアの視点で発信する英文ニュースメディアがNARです。国内外に展開する圧倒的な取材力を生かし、日本を含めたアジア各国・地域の政策、経済、マーケット、企業動向、科学技術を深堀りした記事で発信しています。アジア経済を幅広い視点で報道できるのがNARの強みです。FTはアジアの情報を発信するにしても、少数精鋭のためカバーする範囲が限られ、マクロな視点での情報発信に力点が置かれることが多いようです。しかし日経は世界40ヵ所近くに配置した海外取材網をフル活用し、企業の動向をミクロの視点で報じることができる。例えばアジアの有力企業約300社を選び、その企業の経営戦略や財務、株価情報を報じていく「Asia300」といったコンテンツも私たちにしか提供できない価値の一つです。こうしたコンテンツはとても大きな意義を持っていると考えています。

近藤

 FTが実施した調査によると、読者のニーズに比べ記事の本数などが不足している分野として、アジア情報が筆頭に挙がりました。それに基づくFT側の要望もあり、NARの記事の一部をFTに提供しています。FTに掲載されることで、NARとしてもその存在や魅力を広く読者に知ってもらうことができる。日経のコンテンツに独自の魅力があるからこそ、こうしたシナジーが生まれ、日経グループのグローバルな存在感をさらに高めていくことができます。

小平

 NARの認知度は確実に高まっています。その要因の一つに、東南アジア諸国連合(ASEAN)の各国が経済的な統合を強めていることがあります。世界の投資信託協会が集う世界投資信託会議が日本で開催された際に聞いた話ですが、海外からの参加者が「NARを読んでいる」というのです。「アジアの経済情報を網羅的に報じている英字紙はほかにはない。投資を行ううえで重要な指針となる」と話していました。また、私が取材をする際「この記事はNARに載るのか」と聞かれることも増えてきています。注目が集まるメディアに育ってきている実感がありますね。

近藤

 私は2015年春まで、記者としてシンガポールに駐在していました。例えば13年のマレーシア航空機墜落事故、15年のシンガポール初代首相リー・クアンユー氏逝去といったニュースの際に、アジアの多様な価値観や複雑な事情、人々の発言の含みなどを深く咀嚼したうえで、世界的な文脈に適切に位置付けられるようなメディアの役割がいかに重要かを強く実感しました。アジアの内側からニュースの本質、そのニュースがアジア域内やアジアと世界の関係にもたらす影響を読み解き、世界中の読者に伝えていく。ここにNARの価値があると思っています。

小平

 GoogleやFacebookなどのプラットフォームが台頭するなか、既存のメディアだけで競う時代ではなくなっているのは間違いありません。「なぜ一つの新聞にお金を払う必要があるのか」。そんな疑問を抱くユーザーに対して、私たちは新しい価値を提供し、変わり続けていかなければならない。大きな転換期に私たちはいる。その認識を持ちながら、創業以来の日経の精神ともいえる「中正公平」という社是を軸に、世界から信頼されるメディアへと成長していきたいですね。

近藤

 編集局やビジネスの現場では、国内・アジアと欧州、北米などの拠点がシームレスに連携し、日経の社内もグローバル化してきています。日経とFTもそれぞれの強みを生かしながら、より強いメディアへ進化しようと切磋琢磨しています。その動きはさらに加速していくでしょう。変化や挑戦をいとわず、グローバルな経済メディアを舞台に活躍したいという学生の方はぜひ、日経の門戸を叩いてください。刺激ある環境がみなさんを迎えてくれるはずです。

記者が語る、これからの使命と役割

グローバルメディアを目指す私たちの挑戦

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