興銀・第一勧銀・富士銀共同持ち株会社を設立。世界でも類を見ない金融大再編の舞台裏を追った。
1999年8月19日、日本経済新聞は夕刊1面トップで「興銀・第一勧銀・富士銀 共同持ち株会社を設立-来秋実現へ最終調整」と報じた。今の「みずほフィナンシャルグループ」の設立を特報したのである。時は90年代の末期。それまでのほぼ10年間、バブル崩壊などをきっかけにして日本の金融機関は不良債権にあえぎ、再編によってどう事態を打開するのかが問われていた。最終的に複数の取材ルートから「間違いない」との確証を得たのは報道当日の午前。3行のトップは報道の2日後に記者会見して経営統合の方針を発表する。その後の金融大再編の先駆けとなるスクープとなった。
吉次 弘志 前東京・編集局次長兼証券部長(現テレビ東京編成局次長)
日本経済の構造を大きく変える起爆剤となる金融再編。
99年3月。政府は総額7兆4500億円余りの公的資金を使い、銀行に資本を注入した。邦銀が巨額の不良債権に押しつぶされそうになっていたからだ。98年には日本長期信用銀行と日本債券信用銀行が破綻。同じ企業向け長期金融の担い手だった日本興業銀行の危機感はとりわけ強かった。個人金融が弱い興銀が生き残るにはリテール金融の基盤が豊富ないわゆる都市銀行と統合するしかない。一方、第一勧業銀行と富士銀行も単独での生き残りが難しくなりつつあった。両行は信託業務で既に提携関係にあったが、ここに興銀が入ってくれば補完性が高い。政府は公的資金注入の見返りに大手銀行に大胆な経営改革、収益力強化を求めており、再編は有力な選択肢の一つだった。「銀行過剰」と言われていた日本では金融再編によって融資の絞り込みが始まり、企業の整理や淘汰も進むに相違ない。3行統合は日本経済の構造を大きく変える起爆剤でもあった。
たった一本の電話からはじまった数ヶ月に及ぶ取材の始まり。
情報がもたらされたのは99年の連休明け頃のことだ。懇意にしていた3行の幹部の一人が「久しぶりに食事でもしないか」と連絡してきた。会食の席で相手が打ち明けた内容の衝撃は今も忘れられない。「うまく行くかどうかは分からないが」と前置きしつつ、「3つの銀行で統合しようという話が持ち上がっている」。金融再編はその年の一大テーマで、様々な可能性を頭に入れながら取材は続けていた。しかし、まさか3つの巨大銀行の統合とは。実現すれば世界でも類を見ない大再編。長年の付き合いとはいえ、取材先がなぜ極秘情報を耳打ちしてくれたのかは今もってはっきりしない。情報操作の一環かもしれない。だが、その夜は冷静に頭を働かせる余裕などなかった。まず驚嘆し、次の瞬間には「簡単には進まないのでは」と半信半疑になっていた。数カ月に及ぶ苦しい取材の始まりでもあった。特報した際には達成感というより「ようやく終わった」「他紙に抜かれなくて良かった」と心底ほっとしたことを思い出す。
私たちが見ている世界の向こうで何が起こっているのかを必死に探り当て、真実を多角的に伝えていく。スクープが持つ意義はそこにある。
スクープについて受け手である読者は報道機関ほどの思い入れを持たないかもしれない。我々は1秒を争うが、3行統合でも他のニュースでもいずれは公表されるからだ。だが、情報を提供する側に立つと、一分一秒でも人に先んじようとするかしないかには決定的な違いがある。スクープをモノにするには知識と経験を総動員し、今まさに我々が見ている現実の向こうで何が起きているかを必死に探り当てなければならない。なぜ3行なのか、統合交渉に動いた人たちは何を考え、悩み、決断したのか。もちろん全てが分かるわけではないし、単に運に恵まれただけという場合も多いのだが、同時進行で内実に肉薄しようと思って初めて見えてくるものがある。3行統合も日本経済全体に大きな影響を及ぼす以上、我々記者はできる限り事実の持つ意味を深く、多角的に伝えなければならない。スクープは取材過程を通じ、ある事象の価値を人々が判断するための材料を探り当て、社会に提供する手段でもある。取材で蓄積された様々なバックグラウンド情報を記者やメディア組織が蓄積し、読者に提供することがスクープを取る真の狙いと言い換えてもいい。
歴史が変わる瞬間に立ち会える記者という仕事の醍醐味。
記者になりたいと思った理由は今にして思えば単純、かつミーハーだった。『ポール・マッカートニーにインタビューで会えるかもしれない』ということだったのだ。ビートルズ好きが嵩じたなれの果てではあるが、この好奇心は記者の原点ではないかとも思う。むろん、今に至るまでポールへのインタビューは実現していないが、その代わりにと言っては何だが、バーナンキ前米連邦準備理事会(FRB)議長には会い、米大統領など各国首脳も記者会見などで生で見ることができた。国内でも話題の人物への取材はいくつもあった。インタビューのみならず、歴史の瞬間に立ち会えることこそが記者としての醍醐味、やりたいことなのではないかと思う。
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