「日本を、元気にしたい。」前進しようとする人や企業を追った連載企画「革新力」。

鷺森弘×松田直樹

組織を横断して、生まれてくる連載企画「革新力」。

Sagimori Hiroshi

紙の日本経済新聞と日経電子版。その中で最も注目される紙の新聞の1面に連載される企画記事。これまでも「女たちの静かな革命」(1998年)や「アジア跳ぶ」(2013年)など独自の切り口の連載記事は、世の中に対し「考える材料」を提供してきた。「革新力」はどのような想いから生まれ、連載することになったのか。企業報道部の商社グループのキャップとして日々のニュースを追いながら、この企画のコアメンバーかつアンカーとしての役割を担う鷺森は語る。

「“革新力”というテーマ自体は普遍的なものでいまさら目新しいことでもないのですが、変化の激しい時代において、過去の常識に捉われて変化することを諦めていてはイノベーションが生まれず、企業は成長できません。私たちの考えるイノベーションは、ノーベル賞を受賞するような発明や発見だけではなく、常識を疑い、変化をいとわない不断の取り組みから生まれると考えています。その変化を掴み、記事にすることで、問題提起していこうと取り組んでいます」。

「革新力」

取材班は、企業報道部と証券部が中心となり編集局横断のチーム10名程度で構成されている。大きなテーマをひとつ決定し、日経本紙と電子版それぞれに連載される。では、その企画というものはどのような会議を経て決定されていくのだろうか。鷺森は続ける。

「基本的に週1回、会議があり、次のクールはどういうテーマで記事をつくっていくかを議論します。議論の材料として、それぞれの記者が『実はこんな面白い話があるのです』といった、ファクトや関連資料を持ち寄ります。それは自分の担当業界に限る必要はありません。本などから自分で調べた情報でもいいし、あるいは別の担当の同僚に聞いたものでもいい。たとえ誰かが知っている話でもニュースの裏側にある面白いトピックをどれだけ引き出せるのかも重要です」。

これまで光の当たっていなかった事実に光を当てる。すると見えなかった側面が見えてきて、まぶしく輝き出すことがある。そこに連載記事ならではの面白さがある。

「例えば、持ち寄ったトピックから『殻を破る』といったテーマを見つけたとします。そのテーマは何も一つの業界に限ったことではない。小売業界にも電機業界にも自動車業界の中にも、共通する問題が浮き彫りになってくる。その課題に対してイノベーションを起こした人や企業の話を探していくのです。すると、その裏側に隠れたストーリーは、どの業界の人にとっても有益な情報になるのです。取材班の記者が材料を持ち寄って、それが一つのストーリーになり、世の中に発信されていく。その過程はとてつもなく面白いですね」。

様々な業界を専門に担当する記者が持ち寄る豊富なトピックがあるからこそ生まれる連載記事のバリュー。これは日本経済新聞社が持つ専門性の強みを存分に活かしているともいえるだろう。

Matsuda Naoki

鷺森とともに「革新力」に関わる松田。現在は企業報道部で主に小売業の動向を追っている。「革新力」のチームには第5部から参加することになった。取材班に参加することで、自身にどのような変化はあったのか。

「私たちはライバルとなるメディアと比べて、一人ひとりの担当が高い専門性をもって業界を取材して、記事を執筆します。それは強みでもあるのですが、どうしてもその業界に視点が寄りがちになってしまうこともあります。しかしその視点だけだとこのチームでは全く通用しない。記事の深みを出すためにも、他の業界の動向もウォッチするなど、必然的に普段の行動が変わっていきました」。

自らの領域を広げようと試行錯誤を繰り返す、成長著しい若手の意見に、鷺森が応える。

「普段の仕事だと、取材で会う人はどうしてもその業界が中心になりますからね。私だったら、今は商社の人。しかし連載企画を担当することで、技術者とか、ベンチャーの若手経営者とか、あるいは他業界の経営者といったところにも、自分なりの問題意識を持ってさえいれば、ちゃんと会いに行くことができる。この前も、松田が担当する大手企業の会長のところに、一緒に取材に行きましたね。こんな取材のやり方ができるのは、連載企画ならではの面白みですね」。

松田が続ける。

「“革新力”は企業の名前を中心につくるのではなく、その人が何を考えて行動しているのかを重要視する企画。その人から、なぜ『革新』が生まれたのかをじっくりと引き出していく取材をします。だから取材にかけるエネルギーも相当なものです。その結果、普段の取材では決して得られない話を聞くことができ、価値を持つのだと思います」。

人が企画の中心にある。だからこそ、業界を超えて誰しもが共感する価値が生まれてくる。

すべてのイノベーションの中心は、人である。これは「革新力」における大きなテーマだ。連載では多くの人物が登場する。それは有名企業を率いるリーダーだけではない。地方やまだ多くの人に知られていない企業でイノベーションを起こそうと日夜努力している人も登場する。鷺森には、印象に残っている取材があるという。

「過疎化が進んでいる地域のバス会社の社長を取り上げたときのことです。この企業はIT技術を使って、乗降客の動きを調査し、その結果を踏まえて頻繁に路線を変更することで、乗客にとって最も便利なインフラを作り上げました。それによって赤字を脱却することができたのです。このように従来だと考えられないようなアイデアが、いろんな場所で生まれている。もう衰退したと思われている産業でも、やり方次第で復活することがあるのです。いま厳しい局面に立たされている地方や、業種でもアイデア次第では、もう一回成長できるのだということをこの企画を通じて訴えていきたい」。

このような方針で取材しているため、最初に決めた結論が、記事になる時には変わっていることがしばしばあるという。仮説を立てて取材し、その事実を掘り下げていくうちに、また違った事実が出てくるからだ。松田が語る。

「取材前に議論していたことが、そのまま何もブラッシュアップされずに載ることは、あまりありません。締め切りギリギリまで粘って取材した記事には問題意識が凝縮されている。だから面白く読んでもらえるんですね」。

革新を起こす現場は、前向きな現場が多いという。そのエネルギーを多くの人に届けることで日本を元気にしていきたい。そんな熱い想いを胸に抱き、「革新力」チームは日々奔走している。

日本のものづくりの力もう一度取り戻すきっかけを生み出したい。

毎日開く「紙面検討会」。世界中のあらゆるニュースの中から、何をどう報道するか、議論し、決めていく。

ここで改めて問うてみる。今の時代に、なぜ“革新力”というテーマを社会に投げかけるのか。その意義とは何なのか。鷺森が語る。

「いま、私たちが直面している社会は、ものすごい勢いで業界の垣根が崩れ、グローバル化が進んでいます。例えば松田が担当している小売業のメーカーが銀行業をやりはじめたり、この先、電機メーカーが自動車をつくったりすることが当たり前の時代になってくるでしょう。外国企業による日本企業の買収が増えるかもしれませんし、その逆も増えるでしょう。そんな中、世界に誇る日本のものづくりの力やサービス創出力をどう取り戻すのか。その担い手をどう育てていくのかを考えることが大切です。そのきっかけを、記事を通じて発信していきたいのです」。

各地で起こる小さな兆しが一つのストーリーとなり、前進しようとする人や企業を応援する記事となる。経済というテーマに軸を置き、幅広い業界と日々直面している、日本経済新聞だからこそ生み出せる価値とも言えるだろう。

記者という仕事の「自由」をフルに活かし、その好奇心を満たして欲しい。

最後に、現場の最前線にいる2人に、どのような学生を仲間として迎え入れたいか。その想いを聞いてみた。まずは松田の言葉だ。

「記者という仕事は、取材に行くことが何よりも大切で、何かが起こっているその現場に足を運ばなければいけないと考えています。電話で取材ができそうなことであっても、できる限り自分の足を運びます。現場には様々な関係者がいるので思いもよらない話が聞けたりして、行き詰っていた取材に切り口が生まれることだってあります。その現場感が面白いと感じられる人とは、ぜひ一緒に働きたいと思います。それが自分の刺激にもなりますしね」。

鷺森も加える。

「少々怒られたとしても、なにくそと思って、
ぶつかってきてくれるガッツのある人と出会いたい。その想いに応える覚悟はこちらにはある。あとは、好奇心の強い人ですね。記者というのは何事にも関心を持って、場合によってはどんな場所でも取材してもいいという自由が与えられている。いざとなったら誰にでも会うことのできる仕事なんてそうそうないですから。その自由を存分に活かして、いい記事を世の中に発信できる方と働きたいと思いますね」。

日々現場で走り回る記者らしい2人の意見だ。それぞれが主体的に、自分の考えで動きつつ、チームとしてまとめあげ、より大きな価値をつくりだす。そして世の中に発信していく。そんな仕事の醍醐味がこの現場にはある。

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