一人ひとりの働く人に光を当て、これからの日本の働き方を提案する1面企画「働きかたNext」。

日本の未来に向けて新しい働き方を問うこと。それがいま必要なテーマだと感じた。

Kitanishi Koichi

戦後の日本で今ほど世の中の環境が大きく変化し、「働き方」が問われている時代はないだろう。まさに現代を切り取るテーマとも言える正月企画「働きかたNext」。一体どのような経緯でこの連載が始まったのか。舞台裏を統括デスクの宮東が語る。

「日本経済新聞として2015年の新年に世に問うべきテーマを何にするかという議論は前の年の秋に始まりました。編集局各部から企画案が集まる中、企業報道部から働き方をテーマにしてはどうかという意見が上がってきたのです」。

宮東が話を続ける。

「世間では株価が上がり、景気が良くなっていると言われていますが、反面、人手不足に悩む企業がすごく増えています。業種によっては恒常的に長時間労働を強いられたり、業務が回らなくなったりしている企業も珍しくない。しかし、待てよと。人口減が進む日本では今後10年、20年で一段と労働力が減り、働き手が足りない状況が当たり前になってきます。最近でこそ、女性やシニア、外国人といった多様な人材の活用が叫ばれていますが、ダラダラ残業など、なお男性正社員中心の硬直的な働き方が続く職場が多いのが実態です。景気が良くなった今こそ、日本全体で真剣に働き方を変えなければ、職場はおろか、日本経済全体が立ちゆかなくなる。そんな強い問題意識から、『働きかたNext』はスタートしました」。

Kudo Haruhiko

企画の構想が決まると、編集局を横断してメンバーが集められた。マクロ的な視点を持つ経済部や、企業業績を分析する証券部、労働問題などに詳しい社会部、女性やシニアの働き方などを考える生活情報部といった様々な部署から記者が集められた。チームのメンバーには女性はもちろん、幅広い世代の記者や東京以外の記者を集めるなど多様な視点にもこだわった。大阪・編集局経済部で電機業界のキャップを務める北西にも、そうした観点から声がかかった。

「宮東さんから1本の電話がかかってきたのが始まりでした。企画の概要を聞き、ぜひ参加したいと即答したのを覚えています」。

北西にとって、どのような点が魅力に感じられたのか。

「働くということは、決してなくならない社会活動の根源であり先進的なテーマです。そのテーマに自分が向き合い、記事にできる機会は非常に大きなチャンスだと思いました。普段の記事を書くのとは違い、担当領域以外のことであっても社会の状況を深く知った上で臨まないといけない。連載企画は自分の視野を広げるのに役立つのです。だから声がかかったことはとても嬉しかったですね」。

15名ほどの多様な記者で構成されたチームは、元日の掲載スタートに向けて、一気に走り出していった。

「働く人目線」にこだわって、企画・取材する。その軸を徹底したからこそ生まれたものがある。

『働き方革新』『脱ガラパゴスワーク』…。これは『働きかたNext』というタイトルに決まる前に議論されていた案である。50ぐらいの案がメンバーから提案され、数時間の議論が続けられた。当時の状況を宮東が語る。

「一人ひとりが熱い想いを持ってこの企画に臨んでいたのがわかりました。ただ、働くというテーマはこれまでも何度か企画で取り上げたことがあります。何か新しさを出さないと埋没してしまう。企画の方向性を決める上でもタイトルには結構悩みましたね。熱い議論を重ねていく中で、Nextという言葉が出てきてから、一気に企画の青写真が見えてきました。私たちは現状の問題点だけを取材するのではない。取材相手や読者とともに次世代の働き方とはどういうものか、どう創っていくべきかまで考え、深掘りしていくんだ。そういう意識をチームに芽生えさせることができたように思います」。

一部のスーパーエリートやベンチャー創業者だけではなく、等身大の様々な人たちがどういう働き方をしていくのか。そこに焦点を当てる。企業目線になってもいけない。働く現場のホンネをあぶり出すためにも、あくまで働く人がどんな悩みを抱え、働くうえでどんな壁にはばまれているのかを追いかける。だからこそ企画は『働く人目線』であることに徹底的にこだわった。現場で取材にあたった北西は回想する。

「会議室で議論するよりも、現場の声を聞く方が真実に迫れる。クリスマスイブに、新橋で何十人ものサラリーマンに街頭インタビューをしたり、学生に会ったり、巣鴨で高齢者に取材したりと、とにかく多くの人に話を聞き、リアルさを追求していきました。一年間を通じてチーム全体で取材した相手は、数えきれないほどになりましたね。大変でしたが、机上の空論にならない事実を見つけることができたと思います」。

毎週1度行われた定例会議では、ある合言葉が交わされるようになった。

「『その企画にはNext感、つまり次世代の新しい働き方を考える上での問題意識がちゃんと盛り込まれているか?』が合言葉になっていましたね。その軸がないと企画が会議を通らない。だから必死になって考えました」。

11月と12月の2カ月間、とにかくチームが一丸となって走り回った。そして、2015年1月1日を迎えた。

「変えるのはあなた」伝えたかったのは、働く人一人ひとりに対するメッセージ。

『職場に増える女性や外国人、シニア。周囲の風景が様変わりしていませんか。長時間労働や年功を前提にした働き方はもう限界です。慣習にとらわれず、時代にあった働き方を創る。その主役はあなたです。』2015年1月1日の紙面にはそう記されている。数カ月間走り抜いてきたチームを代表して、宮東が伝えたかったのは何なのか。

「私たちが取材で積み上げた事実をもとにしっかりと考え、それを問いかけたいと思っていました。働き方に正解はありません。就労観や生い立ち、職場や家庭の事情によって、10人いれば10人それぞれの人生や働き方がある。しかし古い慣習や制度を変え、生き生き働ける社会に変えたい思いは同じはず。一人ひとりの挑戦は小さくても、みんなで声をあげ、一歩前に出れば大きな動きになります。『変えるのはあなた』という見出しができたときに、企画を通じて訴えたいメッセージを込められた気がします」。

取材班の働き方も変わっていった。子育て中の女性記者は交代で早く帰り、男性記者2人は連載中に育児休暇を取った。連載が続くにつれ、企業の人事担当者や一般の読者からの反響もじわじわ大きくなっていった。そんな反響の大きさもさることながら、チームで取り組んだ達成感も大きかったという。北西が続ける。

「年齢や所属を越えた『働きかたNext』という大きな絆が芽生えましたね。これだけ各々が深く関わると、普段の仕事でも連携を取りやすくなる。シリーズが終わるごとに開催された打ち上げは感慨深いものがありました」。

それぞれがチームの誰かに依存するのではなく、スペシャリストの個々の力を発揮して、チームを強くしていく。そんな熱量があったからこそ、読者の心に響く記事を発信することができたのだ。

恐れることなく挑戦を続けてほしい。日経はそういうフィールドです。

1年間を通じて、「働くこと」に向き合ってきた二人から、日経で働く魅力を語ってもらった。宮東が口を開いた。

「世の中に存在するあらゆる情報に触れて、いち早く伝える。それが記者という仕事の醍醐味です。加えて、企画だと課題に対してみんなで議論しながら、記事を通じて社会にメッセージを伝えることができる、クリエイティブな仕事でもあります。前向きで、ガッツがある人であれば、挑戦する土俵はたくさんあります。社会は、現在も、そしてこれからもたくさんの問題を抱えています。だからこそその最前線に立ち、正しい情報を伝えることはとても重要だし、読者の関心も高いのです。現場で何が起きているのかを知った上で、世の中に広く伝えていきたい、そんな問題意識のある人と一緒に働きたいですね」。

北西が続ける。

「名刺さえあれば誰とでも会える仕事は世の中にそうそうありません。そしてそれを発信する紙面があるのは、とてつもなくやりがいのある仕事です。能動的に動けば動くほど得るものがあり、自分を成長させる可能性に満ち溢れている。記者とはそういう仕事です。世の中は、一人ひとりそれぞれで考え方も違っていて、置かれている環境も違う。だからこそ先入観を持たずに、謙虚に社会を見つめていって欲しい。失敗を恐れることなくどんどん挑戦してほしいと思います」。

あなたが加わることで、また日経の幹はより大きく、太くなる。その未来によって、日本の未来もより輝きを増していくに違いない。

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