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日経地域情報化大賞2005
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【「日経地域情報化大賞」討論会】
 「地域情報化は一人ひとりの主体的行動で」

地域情報化研究討論会の模様=11月22日、佐賀市
 地域情報化に貢献した取り組みを表彰する「日経地域情報化大賞2006」授賞式が22日に佐賀市で行われたのにあわせ、各地の取り組みについて情報交換する討論会が同日夜に開かれた。会議では地域内での人と人のつながりを強めることが情報化の最大の目的であると結論、そのためには地域の一人ひとりが主体的に取り組む必要があるとの見方で一致した。

そもそも「地域情報化」とはなにか

 会議では、「地域情報化」とはそもそも何なのか、という前提から活発な議論が交わされた。参加者からは「各地域での人間同士のコミュニケーションを補うのが情報化の役割」との意見が相次いだ。

 市民や企業のボランティアで学校でのネットワーク環境を整備する「日本版ネットデイ」の推進者として知られるインフォミームの和崎宏社長は「地域内では人間同士のつながりが希薄になっているケースが思っているよりも多い。そのような『タコツボ』に入っている人たちを引っ張り出すのが情報化の役割だ」と指摘した。例えば、今までは地域内の交流に積極的でなかった人であっても、和崎氏が開設した「地域SNS」などで積極的に他人と関わろうとする人も多かったという。

 自身の引きこもりの経験から子供の支援活動を行うNPO法人「子どもの権利支援センターぱれっと」を立ち上げた宮川正文氏は「今は社会から置き去りになった時に、その人たちをサポートしてくれる人と出会う場がほとんどない」と指摘。地域内の「井戸端会議」が以前担っていた役割を、今はネットが補完する必要があるのでは、との考えを示した。

 司会役の飯盛義徳・慶応大学専任講師は「外への発信よりも、地域内の分断されていた人との交流を深めることが情報化の本当の役割」との意見を語った。そのうえで、地域の中で何が自分たちの「宝物」なのかを再認識することが必要だという。

地域交流を進めるためにSNSが有効か

討論するインフォミームの和崎宏社長
 地域での交流にSNSが有効では、との意見も多かった。和崎氏が開設した兵庫県の地域SNS「HYOCOM(ひょこむ)」は完全招待制で、なおかつ招待する側が参加者の行動に責任を持つ「後見人制」を取るなど、登録の際の敷居を高くした点が特徴だが、開設から2カ月で1000人以上の登録が集まり、1日あたりのページビューが30万近くに達するなど活発な交流が始まっているという。

 最近ではミクシィなどの大規模なSNSも登場している。ただ、和崎氏は「商用SNSは肥大化しすぎると(情報漏洩などの)弊害も大きくなる。工夫次第でSNSはほとんどタダで運用できるのだから、地域にあった形のツールをつくることが大切では」と語った。

技術で米国優位の状況が続く弊害は

 討論では米国発の技術が優位となっているインターネットの現状に対する問題点の指摘も多かった。和崎氏は「米国には『支えあう』という概念がないように感じる。日本の現状に米国の技術を合わせようとしてもしっくりこないことが多い」と発言。九州工業大学助教授の吉田香氏も「日本では利用者の使い勝手に配慮した技術も多いが、米国は技術者が使いやすいものに陥りがち」と同調する意見を語った。

 長野大学助教授の前川道博氏は技術導入のあり方に問題があるのでは、との考えを示した。「既製品のツールをそのまま適用しようとするのはあまりにも安易過ぎる。地域の問題を本当に解決するにはどうすればよいか考え抜くことが大切だ」という。

 一方で、日経メディアラボの坪田知己理事長は「日本が世界でトップレベルに位置している自動車ですら、米国から学ぶのに60年もかかった」と指摘。まだまだ情報化は出始めに過ぎず、ことさら劣等感を持つ必要はないのでは、との認識を語った。

地域情報化のためには「国語力」が大切?

討論するプリズムTVの岸本晃代表
 今後、地域情報化を進めるうえで必要なこととして多かった意見が「国語力の強化」だ。情報通信研究機構九州リサーチセンター特別研究員の広岡淳二氏は「基礎的な情報技術は1週間もあれば知識が身につくが、言語能力はなかなか身につけることができない」と指摘した。ITのインフラが整っても、そこで何を発信するのか考える力がなければコンテンツの部分で負けてしまうという。実際に、地域でコンテンツ作りの実験をしたところ、高齢者の方が若い人よりも圧倒的に面白い構成となっていたという。

 「何をやるべきかディレクションできる人材育成が大切」と語ったのは地域情報を発信するインターネット放送局「プリズムTV」を運営する岸本晃氏。情報発信をしてみたいと思っている人と、技術に詳しい人の両方がいたとしても、両者をつなげる「ブリッジ」のような人がいなければ効率的なプロジェクトを推進することはできないという。

 会場からは「光ファイバーで本当に高齢者が幸せになれるのか。地域の実情と技術を勘案して考えられる人が必要だ」との意見も出た。

地域情報化が目指すもの

 今後の地域情報化が目指す方向性について、ユーディットの関根千佳社長は「引きこもりの人たちなど、社会の一番はじっこにいる人たちが自分の思いを伝えていく場を作ることが大切」と指摘した。今まで地域の住民は官から与えられる存在でしかなかったが、その立場を逆転させて「自分が伝えたいものを出す」環境づくりが何より大切だという。

 日経メディアラボの坪田氏は「今までの私たちは政府に対する『お客様』であり、『歯車』の1つに過ぎなかった。今後は一人ひとりが主体的に取り組まなければならない」と指摘。夜11時近くまで続いた議論を締めくくった。

何よりもまず人とのつながりが大切――「地域情報化デザイン佐賀」から

佐賀城本丸歴史館で開かれた「地域情報化デザイン佐賀2006」の模様=11月23日
 翌23日、市内の佐賀城本丸歴史館で開かれた「地域情報化デザイン佐賀2006」(佐賀県など主催)でも、前日の会議に出席したメンバーを含む100人近くの参加者が集まり、引き続き地域情報化に向けた活発な議論を行った。

 NTT東日本の簡易インターネット接続サービス「Lモード」を使って老人の孤独死を防止する「今日も発信・元気だよ!」プロジェクト(岩手県川井村)に参加した慶応大学4年の西田みづ恵さんは「Lモードの設置や、使い方の説明一つとっても、日ごろからの地域内での人と人との交流や信頼関係の構築が大切だと実感した。技術も大切かもしれないが、その前提として人間関係が一番重要ではないか」との考えを語った。

 飯盛氏も「まず人がいて、それぞれが『何かやってみたい』と思えることが大事」と、一人ひとりが自主的に行動を起こすような雰囲気作りが重要との見方を示した。

 日経メディアラボの坪田氏は「高速道路や新幹線など、都市と地方を結ぶインフラができるたびに、地方の人材や活力が都市に吸収される『ストロー効果』が起こってしまった」と指摘。地域情報化でインフラを整えても、ストロー効果が起きないようにするには「地方が自らの手で強くならなければならない」と強調した。
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