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日経地域情報化大賞2004
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【パネルセッション】
 テーマ: 「『つながり』で変わる地域の産業と社会」

パネルセッションに参加する講師。左から高橋氏、小久保氏、岸本氏、須藤氏=12日、長崎市
 シンポジウムでは、日経地域情報化大賞各賞を受賞した団体、NPOなどの代表者がそれぞれのプロジェクトの概要や、成功のポイントなどについて語った。(概要はこちらを参照)

 続くパネルセッションでは「『つながり』で変わる地域の産業と社会」と題して、地域の情報化を実践するリーダーや専門家がITを活用した様々な取り組みを紹介。ITによる人や企業の新たなつながりが地域を、さらには日本全体をどのように変えていくのかを議論した。

 パネリストは大賞受賞者である鹿児島建築市場協議会の高橋寿美夫会長、東京大学の須藤修教授のほか、地方を活動の拠点にしているプリズムの岸本晃社長、ゆびとまの小久保徳子社長。司会は慶應義塾大学環境情報学部の国領二郎教授が務めた。パネルセッションの主な発言は以下の通り。

 国領 みなさんの取り組みについて教えてください。

高橋氏
 高橋 鹿児島建築市場では、住宅建築の受発注の全てを情報公開した。関係者が容易に全体を把握できる。施主と工務店の打ち合わせ情報に基づいてCADセンターが見積もりを行い、資材調達のマーケットプレースに発注情報が流れる。

 建築現場をWebカメラで中継したり、Web上で設計図なども公開する。ネット上で工事の進捗状況を情報共有することで、大幅な効率化が可能になった。

 小久保 96年に同窓会サイト「この指とまれ!」を立ち上げた。全国の小学校から大学まで約5万校を網羅し、自分の母校を登録すると懐かしい同級生にネット上で再会できるという「バーチャル同窓会」サイトだ。1日に500―1000人もの登録人数が8年間続き、現在300万人近くに達した。

 今年に入って、友人同士をネットで登録する「ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)」を始めた。SNSは人脈を可視化すること。私を知らない人でも、私の友達は知っているかもしれない。

 知らない人との取り引きは不安だが、友達の友達というように間に紹介してくれる人が入ったつながりは信頼性が高まるため、ネットワークを介したEコマースなどに発展するのではと考えている。

 岸本 「住民ディレクター」は、人口4000人の熊本県山江村で、住民が手作りでテレビ番組を制作し、テレビやCATV、インターネットで放送するという取り組み。私が熊本のテレビ会社で様々な番組を制作した経験から、「テレビ番組の企画から取材、放送までのノウハウは地域づくりのノウハウと重なる」と考えた。これを公開して広めれば、地域づくり、ひいては国づくりにつながると考えて始めたものだ。既に全国30地域ほどに活動が広がっている。

 行政マンや議員、主婦らが自らカメラを構えて番組を作っている。技術は一切教えず、好きなものを撮ってもらう。地元のテレビ局で流したところ、最初はテレビ局の人に「これでは視聴率が取れない」と言われたが、実際には15%も取れた。今でも12%くらいある。

 村の中で、日ごろの生活を自然体で撮影している。通常、こういうことをやると1000万円くらいかかるが、20分の1のコストでやっている。事業化も視野に入れている。

須藤氏
 須藤 大学の仕事とは別に、杉並区の地域ポータルサイト構築を通じてNPOによる街づくりを手伝っている。本来の「自治」とは、「自らの手で自らを治める」ことにある。行政が手取り足取り住民の面倒を見るということではないはず。住民主体の自治を実現するため、インターネットやケーブルテレビなどのメディアを活用しようという発想だ。

 立ち上げの費用は区が負担してくれたが、その後は地域ポータルサイトとして利益もきちんと出していく計画だ。地域の様々な協力をもとに「産・官・学・民」の結節点の役割を担いたい。

 主体となるNPOの専任職員の給料を出すために収益モデルを作り、今年度中に実現したい。大手企業からも協力したいという申し出があり、三鷹市や世田谷区も我々に刺激されて協力・競争しながらやっていく方向にある。

 国領 みなさんが取り組まれているプロジェクトではどのような「つながり」が生まれているのかを議論したい。建築市場では、ネットによって無駄を省くことは、同時に業者がお互いの手の内を見せることになってしまうのでは?

 高橋 「ネットワーク化のインセンティブは何か」ということが重要だ。住宅1棟あたりのコストを下げながら品質を上げるのはいいが、それを通じて「職人の給料を上げる」ことが可能だからこそ関係者の協力が得られる。

 例えば1棟住宅をつくるのに、通常は建築資材を30回運んでいる。建築市場では情報共有のおかげで10回運べば済む。資材を待つ時間の節約などもあり、工程通りに仕事が進むと生産効率が大きくアップする。

 職人の賃金は「施行期間に関わらず坪4万円」などと決まっており、生産効率を上げて工期を明確にすることが職人の所得アップにつながっている。情報を共有、透明化することでスケジュール通りに進めるための協力、信頼関係が生まれる。運用管理をきちんとすることが全員の給料に返ってくるということが経験上わかってくる。これがインセンティブだ。自律・分散・協調のネットワークが働いている。

 国領 ゆびとまの経験から聞きたい。参加者のつながりを求める意識の変化をどう感じているか。

小久保氏
 小久保 Web同窓会のゆびとまは、過去のつながりをもとにするサイトで、常に交流するというより「つながっている」ことに意義を感じている人が多い。SNSは未来の私を創造していくサイトなので、毎日新しい出会いが起こる。一人の人脈はたいしたことなくても、友達の友達であればかなり広がる。友人の数は少なくても、信頼できる人がいればそこから関係が広がるかもしれないと感じている。

 須藤 建築市場のような仕組みを活用すれば、他の業界でも下請けが下請けにとどまらず、情報の力で対等な立場になる。下請けが元請けの役割を担うことも可能ではないか。

 高橋 情報の透明化によって職人同士が信頼でつながるため、自己組織化が起こってそういうことも可能になると考えている。

 地域の工務店以外の、住宅メーカーやFC店がシェアを高めることは地域の活力を削ぐ。地域の小さな店は価格競争力を失っている。これまでそういった店は大手と競争する道具を持たなかったが、建築市場というプラットフォームがあれば可能だ。実際今は工務店対大手の戦いになっている。

 岸本 住民ディレクターは、本当は住民「プロデューサー」を目指している。違いはディレクターは職人で、プロデューサーは職人を集めてお金まで生み出すことを考えることができる人。難しいのは、「営利か非営利か」という問題だろう。

 村の予算をどう使うか、得た利益をどう分配するかという時点で参加者の対立することもありうる。やりたいことを共有することが大切だ。

 高橋 建築市場では住宅1棟を作るとき、誰がどれだけ儲かっているかという数字も公開している。利益の公開も含めてやらないとホンモノではない。

岸本氏
 岸本 この仕事について誰がどれだけ働いているかを皆が理解する、仕事の価値観を共有するところまでいかないと、危険な場合がある。

 小久保 300万人の会員はいても、日本の人口から見るとまだまだ少ない。1000万人は必要だと思っているが、地域限定で考えるともっと少なくてもいいかもしれない。やりたい人に手を挙げてもらって、プロデューサーになってくれる人がいれば、小さな塊がたくさんできる。それが集まればやがて大きな動きになるかもしれない。

 国領 地域情報化は、単にITという道具を使いこなそうという段階をはるかに越え、新しい社会のモデルを作っていこう、作っていけるのではないか、という段階に来ている。

 情報共有の基盤ができたことでいろいろな人がイニシアチブを取れるようになり、社会を変えられる時代になった。

 地域の情報化は非常に多くの課題に答えることができるが、乗り越えねばならない壁も多い。議論を重ねて新しい社会を作っていこう。
 パネリスト
高橋寿美夫鹿児島建築市場協議会 会長(日経地域情報化大賞2004 大賞受賞者)
岸本   晃プリズム 代表(熊本県ほかで「住民ディレクター」養成プロジェクトを推進)
須藤   修東京大学 大学院情報学環教授
小久保徳子ゆびとま 社長(コミュニティーサイト運営)
 司 会
國領  二郎慶應義塾大学 環境情報学部教授
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