東京都内のトンネル工事現場の横を大型トラックがうなりを上げて通り過ぎる。「作業場の安全を確認!」。騒音に負けない声で現場監督の徳光幸子さん(29)の声が響く。所属がまちまちな現場の作業員約20人をまとめ、完成までの作業工程を取り仕切る。
「山の神様が嫉妬(しっと)する」――。トンネル工事の現場は長く女人禁制だった。現場で働くベテラン作業員も「他じゃ見たことないな」と珍しがる。所属するカジマ・リノベイトでも、約50人いる社員のうち唯一の女性監督だ。
設計士だった父親の影響と、環境保護への関心から大学で土木を専攻。クラスの女性の大半が研究職や事務職を選ぶ中、「指導教授に向いていると言われ」、現場を踏んだ。入社5年目に一級土木施工管理技士、監理技術者の資格を取得。これまでに3つの現場を監督した。
いまだに典型的な男職場。女性用の更衣室がないことから作業着に長靴で自宅から現場に通勤したり、手洗いがなく仕事前に水分を絶ったりすることもしばしばだが、「大変なのは男性も同じ」と意に介さない。
作業員が納得するまで説明し、労働環境への気配りを忘れない姿勢は信頼を集める。2年前、北海道在住の漁師と結婚し、退職。しかし漁のない半年間は夫が東京で働いていることを知った上司から「その間だけでも現場を助けてくれないか」とのはがきが届いた。今は能力を買われた契約社員として現場の指揮を執る。
最後に残る男社会に乗り込む一群の女性たち。その先には「男だらけの現場を束ねる」という次のステージが待っている。当の本人は「女だからどう、というのは意識しない」と屈託がない。お手並み拝見意識が見え隠れする彼らを納得させれば、壁は意外やあっけなく崩れる。
3月、合格率が5%に満たない難関の一級小型自動車整備士で、初の女性合格者が誕生した。神奈川日産自動車で整備士への技術教育を担当する岡本周子さん(33)だ。
高校卒業後、「手に職を付けよう」と日産の整備士専門学校に一期生として入学。唯一の女性だった。神奈川日産に入り、6年間を整備の現場で過ごした。「重いものは持てないけれど、狭い個所の修理ができて細腕が役立つこともあります」と笑う。
プロ意識は人一倍強い。日産の全国サービス技術大会の女性の部で優勝するなど、技術は周囲の認めるところ。それでも「人に教える立場だから」と、仕事と家事の合間を縫って整備士試験の勉強をし、2度目の挑戦で合格した。故障の説明をする顧客に耳を傾ける姿勢が周囲の信頼を呼ぶ。
高知・桂浜に臨む丘に建つ県立坂本龍馬記念館。太平洋にこぎ出す船を彷彿(ほうふつ)とさせる奇抜な建物を設計したのは一級建築士の高橋晶子さん(46)だ。これまでに横浜市のコミュニティー施設など約30件の設計を手掛け、建物の独創性を評価され多くの賞も受けた。1988年から夫と設計事務所「ワークステーション」を共同経営する。
設計室は高橋さんの重要な現場だ。ひとたびプロジェクトのとりまとめを担えば、スタッフや他の事務所と施工過程を詰め、まとめ上げる仕事の連続だ。設計側の構想と施主の要望が重なる喜びを、関係者全員に味わわせようと心を砕く。
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第6部では最後に残った男社会に挑戦する女性たちの姿と、彼女たちが引き起こした変化を探る。
[2004年5月26日/日本経済新聞 夕刊]