政府が21日閣議決定した2021年度予算案は、一般会計総額が3年連続で100兆円を超える規模に膨らんだ。未曽有の新型コロナウイルス禍に対応するには財政出動の拡大が欠かせない。しかし税収は落ち込み国債発行も膨らむ。成長戦略を着実に成果に結びつけられなければ、国の財政は厳しいまま再建がおぼつかなくなる。

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日本経済新聞社が「NEEDS日本経済モデル」で試算したところ、21年度予算案と20年度第3次補正予算案により21年度の実質経済成長率は0.79ポイント押し上げられる。

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ただ日本経済研究センターが集計した12月のESPフォーキャストによると、エコノミストらによる2022~26年度の実質経済成長率の見通しは0.99%にとどまる。低成長から抜け出すためにカギを握るのは企業の生産性向上や技術革新だ。

予算案で政府が重視したのはグリーン(脱炭素)とデジタル化の推進だ。20年度第3次補正予算案には、脱炭素社会を実現するため企業の研究開発を後押しする2兆円の基金創設を盛り込んだ。再生可能エネルギーや蓄電池といった技術を念頭に支援する。

デジタル化は21年9月に新設するデジタル庁が司令塔になる。21年度予算案に人件費などの経費を81億円計上した。

オンラインでのやりとりが増える教育現場では、端末操作や指導方法を手助けする人員派遣などの経費に約14億円を計上した。公立小学校の学級人数の上限を35人に引き下げる取り組みなどに関連費用として約85億円の予算を付けた。

コロナ禍で変化を迫られる生活の支援にも目配りが必要だ。雇用維持に向けた支援策には20年度第3次補正予算案と21年度予算案を合わせて2兆円超をあてる。雇用調整助成金の特例措置は21年2月末まで維持する。

コロナ対策以外の費用もかさむ。21年度予算案ではコロナ対策の5兆円の予備費を除いても100兆円を超える規模になった。社会保障費は20年度当初に比べ0.3%増の35兆8421億円に膨らみ、防衛関係費は5兆3422億円と7年連続で過去最大となった。

平成以降、歳出と税収の差が広がる
(出所)財務省、19年度以前は決算期。20年度は3次補正予算案含む。21年度は予算案

コロナ禍で経済活動が厳しい中、税収の見積もりは11年ぶりに減少する。20年度当初予算に比べて9.5%減の57兆4480億円と落ち込む。

歳出増は国債発行でまかなう。21年度予算案の新規国債発行額は43兆5970億円に上り、当初予算ベースで増加となったのは11年ぶりだ。公債依存度も20年度当初の31.7%から40.9%に拡大する。21日の閣議後に記者会見した麻生太郎財務相は第2次安倍晋三政権の発足から依存度の低下が続いていたことに触れ、「残念」と述べた。

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コロナ禍に対処する大規模な財政出動はやむを得ないとしても、中期的に財政を健全化させる道筋を探る必要がある。そのために欠かせないのは成長戦略から確実に果実を得ることだ。脱炭素やデジタル化といった戦略を掛け声に終わらせず、着実に軌道に乗せる必要がある。

財務省は償還までの期間が40年の超長期債を6000億円増発する。日銀による国債の大量購入もあり、当面は国債の安定消化が見込まれる。ただ経済成長による財政健全化への道筋を示せなければ、格付け機関による国債の格下げなどを通し経済に下押しの圧力となりかねない。