上場企業で取締役会の多様化が進んできた。3月期決算企業の社外取締役は6月末時点で約5400人と、企業統治改革が始まる前の2013年6月末に比べ約3倍に増えた。女性役員は約1300人と5年間で2倍超になった。様々な経歴を持つ人が集まることで取締役会の活性化が期待できる。一方で複数の企業で取締役を兼任する人も増え、人材不足が課題になっている。

取締役会の多様化が進む
日経NEEDS調べ。3月期企業2009社対象
役員は監査役、執行役も含む。人数は延べ

継続比較できる2009社(金融を除く)を対象に日経NEEDSで集計したところ、6月末の社外取は前年同期比7%増の延べ5442人だった。取締役総数1万6939人の32%に相当し、取締役の3人に1人は社外出身の計算となる。

社外取を置く企業は全体の98%と13年の53%から大きく増えた。15年以降は90%台で推移する一方で人数の増加が続いており、社外取を導入済みの企業が2人以上に増員していることが分かる。

社外取が多いのは執行と監督を明確に分離する指名委員会等設置会社の形態を採る企業だ。最多は三菱自動車の12人で、13年の3人から大幅に増えた。武田薬品工業も13年の2人から11人に、東芝は4人から10人に増えた。関西電力は不祥事をきっかけに20年に指名委員会等設置会社に移行し、社外取は8人と19年から倍増した。

一方、女性役員(監査役、執行役含む)の役員総数に占める比率は20年に6%と、データを取得できる15年から4ポイント上昇した。女性役員のいる会社数は全体の47%にあたる935社となり、15年に比べて倍増。女性役員数も1296人と2.2倍に増えた。欧米企業と比べると依然少ないが、着実に増えている。

社外取締役・女性役員起用の動きが目立つ

最も女性役員が多いのはエーザイの5人。20年には新たにESG(環境・社会・企業統治)の専門家として明治大教授の三和裕美子氏が社外取に就いた。取締役会で積極的に女性を起用しているのはソニーで、取締役の3分の1にあたる4人を女性が占める。女性取締役は外部から招くことが多いが、リクルートホールディングスは今年、社内の人材を昇格させた。

企業統治改革は14年6月、安倍晋三政権の成長戦略「日本再興戦略」改訂版に明記されたことを機に本格的にスタート。15年導入のコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)で、一般株主と利益相反のない独立した社外取を2人以上置くよう要請され、導入の動きが一気に広がった。

18年の企業統治指針の改定では取締役会の3分の1以上を独立社外取にすることが推奨された。アライアンス・バーンスタインの堀川篤氏は「取締役会の監督機能を強めるため、過半数は社外取にすべきだ」と指摘する。

一方で課題も浮き彫りになってきた。1つは成り手不足だ。社外取は経営者や弁護士が就くことが多いが、一部の人材に人気が集中している。2社以上で社外取を兼務する人は6月末で約1100人おり、5社を兼務する例もある。多くの取締役会に出席し、各社で十分に役割を果たせるか懸念する声もある。

実効性の面でも不安がある。東芝は社外取締役が半数を占めていたが、15年に会計不正が発覚した。企業統治改革はこの5年ほどで着実に浸透し、社外取も数の面では充実してきた。今後はいかに取締役会の実務の質を高めるかが焦点になる。