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第1回

様々な投資期間の売買が出合う市場


株式や為替などを取引する金融・証券市場では、秒単位で価格が変動しています。この取引ごとの秒刻みに動く価格データを「ティック(tick)データ」と呼び、近年、このティックデータを使った分析結果を取引の現場へ応用する動きが進んでいます。ティックデータを分析すると、金融・証券市場から全く新しい景色が見えてくるためです。

今回から5回にわたり、株式市場を取り上げ、個別銘柄の分・秒刻みで動く価格や取引状況を表すティックデータや、その発生メカニズムとなっている板データ(参加者が何円・何株で「買いたい」「売りたい」のかを各時点でまとめた情報)を分析することから何が見えてくるのかを「NEEDSティックデータ」などを使いながら解説します。さらに、来年1月からの東京証券取引所の次世代システム(arrowhead)導入に向け、それらの分析結果がトレーディングの現場でどのように活用され始めているかについてもご紹介していきます。


高いか安いかはタイムスパンに依存

グラフ

日本の株式市場で大手電機株の代表銘柄の1つでもある日立製作所。皆さんは日立の株価が345円(2008年12月30日の終値)だとしたら、高いと思いますか、安いと思いますか?参考のため、04年4月1日から09年3月31日までの日立の日次変動チャートを記します。

右上の図から判断すると、345円という株価は安値圏、しかも、大底にあるようにみえます。ところが、09年1月5日から3月31日までの株価推移(図、右下)で見ると割高な株価水準に思えてきます。確かに、「株価の高い/安い」は見る時点(期日)によって変わるのですが、上記のことはそれよりも見ている期間の長さに依存していることを示唆しています。

実際に、市場には様々なタイムスパン(基準となる投資期間)を持っている参加者が混在しています。この混在の事実が、同じ価格に対して高いと思う人(売りたい)と安いと思う人(買いたい)の出合いを生み、その「売りたい」「買いたい」の出合いが市場での売買を成り立たせていると言えます。


日中の株価変動は強い記憶効果

市場参加者が想定している投資のタイムスパンは様々ですが、株式を売買(日中の株式売買行為を執行と呼ぶ)する立場で考えると、株価の値動きに対する見方は違ってきます。

東京証券取引所で株式を売買するためには、午前中120分、午後150分の合計270分という時間の中で売買しなければなりませんから、すべての市場参加者にとって執行のタイムスパンは270分になります。そして、東証の取引開始時刻は午前9時(取引が成立する時間は9時を過ぎることもありますが)、取引終了時刻は午後3時ですから、すべての人が同時刻に同じ株価情報(その日の高値はすべての市場参加者にとって高値です)を見ながら執行の判断を下すことになります。このことは以下の2つの結果をもたらします。

(1) 日中の価格変動が日次ベースの株価変動に比べてより強い記憶効果を持つ

(2) 取引開始直後や取引終了間際に、大きな変動が生じやすい

ただし、株式市場は日々、新しい情報を消化しながら動いているため、1日分のデータだけを見ても上記の性質は顕著に現れません。銘柄や時期にも依存しますが、ティックデータを分析するには、通常は統計的な性質を見出すために、20日間程度以上のデータが必要だと言われます。


日次と日中ベースで異なる値動き

グラフ

投資のタイムスパンが長い市場参加者であっても、執行する際には日中の株価変動を気にしながら売買のタイミングを計ります。実は、執行する際に確認する値動きの感覚は、日次ベースでの株価変動の感覚とは異なるのです。

右上の図は04年1月4日から09年9月1日までの、日立の日中変動と日次変動の関係の一例を示したもので、横軸は日中の値動きの範囲(高値から安値を引いた値をその日の始値で除したもの。以下、日中レンジ)、縦軸は同じ日の日次変動の絶対値(前日比価格変動率の絶対値)で、回帰曲線も引いてみました。

この日中変動と日次変動の2つの間の決定係数が0.4019で、相関係数は0.634(63.4%)ぐらいになり、そこそこの相関(6割くらいの連動率)があると推察されます(決定係数=相関係数の2乗)。ところが、日中の値動きのレンジが極端に大きいもの(平均レンジからさらに1標準偏差以上大きく全体の約12%に相当)を除いた状態では、右下の図に示す通り決定係数は0.1717に、相関係数は4割程度に低下します。

すなわち、取引全体の9割近くに相当する通常のケースでは、日中に動く変動の度合いと、前日からの動きの大きさにはあまり関係がないのです。このことは、例えば日中で大きく上昇する局面があっても日通しで見ると前日比でほどんど動かないケースに見られるように、デイトレーダーの感覚と中長期的な視点の投資家とでは、取引に対する感覚が全く異なることを意味しています。

(CMDラボ 代表取締役社長 尹 煕元(ユン ヒウォン))

NEEDSで学ぶ株価分析(全5回)

・第1回「様々な投資期間の売買が出合う市場」9月10日(木)
・第2回「日中変動と日次変動で異なるリスク」9月17日(木)
・第3回「執行の評価に必要なtickデータ分析」9月24日(木)
・第4回「板データの統計性からの発見」10月1日(木)
・第5回「東証次世代システムに備える」10月8日(木) NEW!

参考になるサイト

・日経まナビ!
・NEEDSで学ぶ会社分析
・NEEDSで学ぶPOS分析

分析記事の執筆&グラフの作成

統計学に基づく投資分析やアルゴリズム取引などのコンサルティングやソフト開発などを手がける「CMDラボ」
http://www.cmdlab.co.jp/
NEEDSティックデータとは:
今回の「NEEDSで学ぶ株価分析」でメインに使うのが「NEEDSティックデータ」です。上場株式のほか株価指数先物・オプション、CBなどの約定結果や気配の履歴が分・秒単位で、もれなく収録されています。VWAP(売買高加重平均価格)や評価・分析用の加工データを収録した「日次情報ファイル」もご用意しています。
執行コスト分析や売買価格の適正評価といった金融・証券業務、マイクロストラクチャーなどファイナンス分野の研究など様々な用途でご利用いただけます。最も古いものでは、1996年3月以降のデータがご利用いただけます。必要な銘柄・期間のデータを切り出して提供するサービスもご用意しております(内容は応相談)。
来年1月の東証次世代システム(arrowhead)導入に向けては、気配本数を増やすほか、アルゴリズム取引などの普及で急拡大が予想される約定・気配情報をもれなく収録していきます。
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