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広がる資本剰余金からの配当 〜株式の評価にも新たな動き


「その他資本剰余金」からの配当社数

上場企業で、株主が払い込んだ「資本剰余金」から株主へ配当を支払う動きが広がり始めています。08年度は29社と前期比で5社増え、09年3月期では13社となりました。株主への配当は、過去の利益の蓄積でもある利益剰余金を原資とするのが通常ですが、ここにきて、「資本剰余金」(貸借対照表の「その他資本剰余金」にあたる)から配当を行う企業が増え始めているのは、業績悪化で利益剰余金が減少しているためです。

5割悪化も配当減・無配は4割

NEEDS企業財務データ(有価証券報告書ベース)に収録される、2期比較が可能な企業(決算期変更・金融を除く)2512社の中で、単独決算の利益剰余金がマイナスとなったのは317社、全体の12%と1割を超えています。また利益剰余金が減少している企業を合わせると54%と全体の5割を超えました。最終損益で大幅赤字を計上した企業が目立つなど09年3月期の業績悪化が利益剰余金の減少に直結したようです。

「利益余剰金」「支払い配当」の変化

同じ対象企業で、減配または無配転落となったのは全体の4割。利益剰余金がマイナスか減少の企業が5割超だったので、業績悪化に連動して配当を減らした企業が大半と言えますが、一方で、減った利益剰余金から前年同様の配当を継続するか、その他剰余金からの配当を実施した企業も少なからず存在しているとも言えます。

資本剰余金からの配当には3パターン

ここにきて増加傾向にある「その他資本剰余金」からの配当も、その中身を見ると、利益剰余金が底をついたことによる「窮余の策」だけでなく、いくつかのパターンに分かれます。

ひとつは、株式移転や合併による新設会社の設立時に利益剰余金のプールがないケースです。09年3月期で見ると、セイジョーとセガミメディクスの2社による株式移転で誕生したココカラファインホールディングスは、配当を据え置き(その前の期の2社の配当水準を引き継ぐ)ましたが、その配当原資はその他資本剰余金でした。株式移転で誕生した新設持ち株会社には利益剰余金のプールがなかったためです。

一方で、テンプホールディングスや三越伊勢丹ホールディングスなどは、新設後の期間利益(主に持ち株会社傘下の子会社配当収入)で単独決算の最終利益を利益剰余金に計上、配当原資を確保したケースもあります。

また、サンリオや第一三共のように、最終利益が赤字となり利益剰余金がマイナスとなったとしても、本業の業績を表す経常利益が堅調に推移していることなどを理由に、配当を同水準に継続することを重視し、その他資本剰余金からの配当を行う企業もあります。企業サイドが「最終損益の悪化は(特殊要因で)一時的」と見ていることが背景にあります。

「その他資本剰余金からの配当」は、 資本準備金や利益準備金など法定準備金を取り崩して配当財源にできるようになった2001年の商法改正を受け、02年度から行われるようになってきました。膨らんだ資本準備金を取り崩して、その他資本剰余金として配当に回すのが本来の目的でもあります。群栄化学工業は多額の資本剰余金を取り崩して09年3月期も引き続き、その他資本剰余金からの配当を実施しましたが、こういった企業は少数派です。

利益か資本かで保有株の評価に違い

「その他資本剰余金」から配当を実施した主な企業の配当総額と純資産減少割合

「その他資本剰余金からの配当」が近年話題になるのは、税制の変更によるところが大きいです。05年成立の新会社法施行にあわせて、個人投資家に支払われる配当金について、配当原資が利益剰余金か資本剰余金かで源泉徴収の額が変わることになったためです。資本剰余金からの配当の場合、払い込んだ出資金の返還という観点から、配当金全額ではなく、株主に通知される「みなし配当」により源泉徴収が行われます。あわせて、保有株式の評価を再計算する必要もあり、その計算のもととなる「純資産減少割合」が注目され、株券電子化に伴うタンス株券の入庫などでも該当銘柄の評価に用いられました。

証券口座などへの配当金振込み業務なども来年からスタートするに当たり、これまで以上に「みなし配当」も注目されています。資本剰余金からの配当が広がるとすれば、こういった新たな指標をきちんと取り入れることが、保有株のより正確な評価には欠かせないともいえます。企業の配当政策を評価する指標としても、利益に対する支払い配当の割合である配当性向だけでなく、自己資本に対する配当の比率を表す自己資本配当率(DOE)への注目度がより高まる可能性もありそうです。

(日本経済新聞社NEEDS事業本部 東孝彦)