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「流動性の価格」どう変化? 〜株式市場全体の値動きと連動

株式市場における流動性の価値は3割——。3月12日付けの当コラムでは、株価と市場流動性の関係について分析し、「まったく流動性の無い銘柄が、完全な流動性を持つ銘柄に比べ、他の条件が同じならば、株価が約3割低くなる」という分析を紹介しました。しかし、この「流動性がないことにより価値が下がる度合い」(非流動性ディスカウント)は、業種や期間によらず一定なのでしょうか?今回は、その点を分析してみました。

流動性の価値は月ごとに変化

非流動性ディスカウントの時系列推移

まず、今年5月までの過去1年間の非流動性ディスカウントを、前回と同様の手法で、月ごとに推計してみました。これを見ると、1年間の平均では30%と前回推計値と同様の値になりますが、月ごとの変動は結構大きいことがわかります。最大では46%に達し、最小では16%近くまで下がっています。

また、日経平均株価の動きと比べてみると、グラフの形状が良く似ています。これから、非流動性ディスカウントは、市場全体の値動きとほぼ連動していることがわかります。つまり、市場が好調な時には流動性のある銘柄と無い銘柄の価格差が拡大し、不調なときに縮小するわけです。

非流動性ディスカウントは、言い換えれば、流動性に対して市場が付ける価格です。一般的には、市場が不調な時には投資家が流動性の高い銘柄を選好するため、流動性の価値が高まると言われていますが、今回の分析はむしろそれと逆の結果となりました。

技術セクターで高い流動性価値

セクター別非流動性ディスカウントの推移

次に、業界間の違いを探るため、業種セクターごとに過去1年間の非流動性ディスカウントを推計してみました。業種セクターとしては、日経業種中分類(36分類)を集約した6セクターのうち、金融を除く5セクターを対象としました。なお、セクターによっては十分な推計精度が得られなかった月がありますが、それは対象から除きました。

この結果を見ると、技術セクターと運輸・公共セクターでは非流動性ディスカウントが全体平均より高いことがわかります。一方、素材セクターでは低くなっています。消費財セクターは全体とほぼ同じ値になっています。

6セクターとの日経業種分類・中分類(36業種)

ただ、全般的な時系列変化は、すべての業種セクターで共通しており、やはり市場全体の値動きと連動しています。すなわち、いずれも2007年半ばから年末にかけて低下し、2008年半ばにかけて上昇しています。

市場低迷期に縮小する企業間格差

では、なぜ市場低迷期に非流動性ディスカウントは縮小するのでしょうか? その理由を探るために、百貨店業界の10銘柄を対象に、株式相場が堅調だった07年6月と相場が軟調だった08年1月の各月について、PBR(株価純資産倍率)と気配スプレッド存在率(取引時間のうち売買両方の取引が可能であった時間の比率)を比較してみました。

PBR−流動性 2期間比較・百貨店10銘柄

これを見ると、三越、伊勢丹、高島屋、エイチ・ツー・オー リテイリングといった流動性の高い8銘柄では、市場が低迷した後も気配スプレッド存在率は1(=100%)近くでほとんど変わらないのに対し、PBRはかなり低下しています。一方、流動性の低い2銘柄を見ると、さいか屋のPBRは微減に留まっており、岩田屋では増加さえしています。また、それらの銘柄の気配スプレッド存在率はむしろ上昇しています。

よりわかりやすくするため、高流動性8銘柄、低流動性2銘柄のそれぞれの銘柄グループについて、各月におけるPBRと気配スプレッド率の平均を取り、散布図として描画してみましょう。この図を見ると、両グループを結んだ直線の傾きは、07年6月に比べ、08年1月の方が緩やかになっていることがわかります。これは、両者の企業価値の差が、それぞれの流動性の変化を考慮したとしても、縮小したことを示しています。

M&Aの現場で使用される非流動性ディスカウントは、基本となる30%という数値をベースに、あとは個別案件ごとに特有の事情を加味して決まると言われています。今回の分析により、流動性の価格という意味における非流動性ディスカウントにおいては、各銘柄がどの業種に属しているかという個別要因だけではなく、株式相場全体の堅調(軟調)さといったマクロ的な要因が大きく影響することが明らかになったと言えます。

(日本経済新聞社NEEDSカンパニー 渡部肇)