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株価と市場流動性の関係は? 〜10%の減少で3%の株価下落

株式の分析において市場での流動性(取引のしやすさ)が株価やリターンに与える影響が注目されています。M&A(合併・買収)の際の買収価格決定でも、流動性は重要な要因といわれます。NEEDSティックデータなどを使って、流動性の増減が、株価にどのような影響を与えるのかを分析してみます。

非上場企業がM&Aの対象になった場合、その株式価値はどう算定されるのでしょうか。非上場株は上場株に比べ流動性が乏しいことを理由に、収益性や成長力などから割り出された株式価値から一定の比率を割り引いて算定するのが一般的です。その比率は「非流動性ディスカウント」や「非上場ディスカウント」と呼ばれ、企業価値の評価の際に重要視されます。

海外の先行事例を日本市場に応用

流動性が株価に与える影響度を推計する算式

非流動性ディスカウントは、米国での研究結果やこれまでの慣行をもとに、30%という数字が使われることが多いようです。この指標は、株価と流動性の関係を直接的に表すものですが、日本では従来、実際のデータからこの指標値を求める研究はあまり行われていませんでした。

そこで今回、非流動性ディスカウントを、NEEDSのティック・株式データ日経ポートフォリオマスター(NPM)のデータを用いて推計してみました。推計方法としては、スイス・ベルン大学のロデラー教授とロス博士がスイス株市場と米ナスダック市場を対象に実施した分析手法を日本株市場に応用してみました。

その結果、重回帰分析という統計的手法により、PBR(株価純資産倍率)を説明する式を求めることができました。PBRを分析対象にしたのは、株価そのものを使うと銘柄間の水準の違いが大きすぎて比較分析が難しいためです。

気配スプレッド存在率を流動性の指標に

PBRを説明する重回帰モデルの説明変数は、(1)自己資本利益率を資本コストで割った数値(企業の利益が将来も一定であることを前提としたPBRの理論値を示す指標)、(2)時価総額(企業の規模を示す指標)、(3)気配スプレッド存在率——の3つです。

3番目の気配スプレッドは、取引時間(東証ならば前後場合わせて270分)のうち、実際に売り買い両方の指し値が存在した比率です。売買いずれの方向の取引も可能であった時間が取引時間全体に占める比率であり、取引の容易さを表す流動性の直接的な指標と言えます。気配スプレッド存在率は、実はこれまであまり注目されていませんでしたが、今回の分析でPBRに対する相関性が高いことが明らかとなりました。

推計した式では気配スプレッド存在率の係数は0.166となりました。この推計式に基づき、常に売買可能な銘柄(気配スプレッド存在率=1)と、まったく売買できない銘柄(気配スプレッド存在率=0)の株式価値を比較すると、前者が後者に比べPBRが47%高い(PBRの分母の純資産が一定なら株価が47%高い)という結果が導かれます。

言い換えれば、流動性が全く無い銘柄は、完全な流動性を持つ銘柄に比べ、株主価値は32%低くなるといえます([1÷1.47]−1=−0.32)。この結果は取引可能時間が100%減少すると32%、すなわち10%減少するごとに株式の価値は約3%押し下げられることを意味します。32%という値は非上場企業のM&Aで使われる非流動性ディスカウント30%とおおむね合致し、今回の分析はこれまでの経験値に実証的裏付けを与える結果となりました。

(日本経済新聞社NEEDSカンパニー 渡部肇)

この記事は、2008年1月18日付の日経産業新聞のコラム「先読みマーケット」に掲載された記事を当サイトコラム用に書き直したものです。