米国産牛肉の輸入が12月、ほぼ2年ぶりに再開されそうです。サラリーマンや学生が期待するのはまず「牛丼の本格復活」。家庭の主婦ならじわじわ値上がりしてきた牛肉の値段が元に戻るかが気になるところでしょう。安いビーフがスーパーの棚に十分並ぶのか。輸入再開後を期待したいところですが、現実はそう甘くないようです。
国内でBSE(牛海綿状脳症)が発生したのは、2001年9月。発生後1年ほど緩やかに下げ続けた国産牛肉価格は、安全性が確認できる牛の供給が限られたため、02年秋以降上昇に転じました。一方、輸入牛価格は需要減に円高の影響が02年後半以降加わり、BSE発生前と比べると最大で1割ほど低下しました。ところが、安全と思われていた米国産牛にも03年12月、BSEが発見されます。今度は米国からの輸入ストップによる供給不足のため輸入牛肉の値段が上げに転じ、国産牛肉価格の上昇にも拍車がかかりました。
消費者物価統計では、国産牛のロースと肩肉、輸入肉はロースの値段を調べていますが、今年の7―9月は01年7―9月(国内でのBSE発生時)に比べ、国産牛で10%超、輸入肉は7%弱上昇しました。一方、総務省「家計調査」で、家計が実際に購入した牛肉の購入単価を見ると、国産と輸入あわせた単価は同じ期間で14%も上昇しています。輸入肉の出回り量が減り、輸入ビーフでなく国産牛の、それも値段の安い部位でなく信頼の置けそうな高価な部位を買う人が増えたためかもしれません。
それでは、米国からの輸入再開でなぜ安い牛肉が出回りにくいのか。その理由は3つあります。
1つは、最近の米国産牛肉の価格はかつてほど安くないことです。米国の消費者物価統計によると、04年の牛肉価格は02年に比べ2割超上昇、05年に入っても高止まりが続いています。03年5月、カナダでのBSE発生により、米国はカナダからの牛や牛肉の輸入を制限しました。BSE発生でも米国では牛肉への需要は落ち込まず輸入制限で需給が逼迫(ひっぱく)、さらに03―04年にかけての穀物価格上昇なども影響し、米国の牛肉価格は高値圏での推移となっています。今後の輸入牛肉価格を占う指標としてグラフには、米国消費者物価(肉類)の動きを為替レートで円換算した指数を表示しました。円換算したのは、輸入牛肉は米国の価格だけでなく為替変動も影響するためです。例えば01年の上昇は価格上昇より円安によるもので、最近の円安も価格上昇要因といえるでしょう。この円換算米国内価格は国内輸入牛肉を大きく超える上昇を示していて、輸入再開の場合、その後の米国産輸入牛肉の価格に反映されることになります。
もう1つの伏兵が、緊急輸入制限(セーフガード)です。セーフガードは年度初めからの四半期ごとの累計輸入量が前年同期を17%上回った場合、関税率を38.5%から50%に引き上げるというものです。最近では03年8月から04年3月まで牛肉を対象に発動された実例があります。もし、米国産牛肉の輸入が外食向けを中心に増加しこの上限を突破すると、皮肉なことに手ごろな輸入牛肉を食べたいという国民のニーズが関税率アップのボタンを押してしまうかもしれないのです。4―9月累積の輸入量を前年と比較すると、生鮮・冷蔵肉は11%、冷凍肉は6%上回っていて、発動までの余裕は、それぞれ6%と11%です。米国からの要望でセーフガード発動は見合わされる可能性もないとは言い切れませんが、03年の発動の際も、国内でのBSE発生で前年の消費が大きく減ったことへの反動という特殊要因は参酌されませんでした。
こうした供給側、価格面の障害は仮に解消されたとしても、消費者としてどうしても気になるのがやはり安全性で、これも輸入再開後の価格下落を抑える要因になりそうです。米国産牛肉の不在を埋めてきたオーストラリア産牛肉について、輸入業者の一部では、消費者の不安を軽減する対策として、国内産牛肉同様にトレーサビリティー(生産履歴の追跡)システムをはじめたケースがあります。国産牛の生産が最近盛り返してきた背景にも、全頭検査の実施と、生産履歴が分かる個体識別情報システムの導入が進んだことがあるはずです。牛肉の偽装表示問題で消費者の見る目は厳しくなっています。食肉の流通業者や外食産業にとって、米国産牛肉の安全性をどう訴えていくかという重要な戦略が、生産・流通コストの上昇につながれば、消費者への販売価格を下げづらいということになりそうです。
日本の牛肉消費は、家庭での直接購入と外食での利用を含めて、01年以降下り坂です。安くて安全な牛肉の供給が増えて消費が盛り返すには、越えるべきハードルはまだまだ残っているようです。
| 注 | 消費者物価、家計調査のデータは「消費統計データ」、米国消費者物価は「DRI米国マクロ経済・金融データ」、輸入関連データは「貿易統計データ」でご利用いただけます。 |