「投資用物件、利回り○%」。ある信託銀行系の不動産会社が最近、都内で配った新聞の折り込みちらしです。5%を超えるような高利回りをうたったものも目につきます。そんなうまい話があるのかと首をひねりたくなりますが、実はバブル崩壊後の不動産からの「収益」は着実に伸びていた――そんな姿がNEEDSのデータベースから浮かび上がります。

右のグラフは90年以降の個人の申告所得の推移です。貸家や土地の賃貸などによる不動産所得は2004年に6兆5千億円と、バブル期の90年の1.5倍近くに達しました。バブル崩壊後、低下の一途だった事業所得とは好対照です。

これを不動産所得で稼いだ人数と1人当たりの所得に分解してみると、人数の方は90年の220万人から04年は233万人と6%増にとどまる一方、1人当たりの所得金額は90年の200万円弱から4割ほど増えています。

1人当たりの所得が増えた理由は収入と費用の両面で追い風に恵まれたところにありそうです。

まず、収入面では、デフレが続いた中でも家賃は上がってきたこと。消費者物価統計によると、1平方メートル当たり民間家賃は、90年から04年の間に13%も上昇しています。さすがに99年以降はやや低下していますが、一般物価の下がり方から見ると低下はわずかです。また、貸家の間取りが02年ごろまでは大きくなっていたことも、家賃収入の押し上げに寄与しているようです。

費用の面では、建物建設費や土地の取得費、さらに金利が低下したことがコスト削減の大きな要因です。また、税務申告で、98年4月以降に取得した建物の減価償却方法がそれまでの定率法と定額法の選択から定額法のみになったことも、当初の減価償却費が少なく計上されることで、費用軽減につながっています。

この結果、収益構造は着実によくなっています。右図は遊休地にアパートを建てるケースを想定し、家賃、建設費、金利から貸家の採算性を計算したものです。具体的には、建築費を35年の元利均等の借り入れでまかなった場合の、建築費分の年間返済額(貸家建築費負担、元本と利払いの合計)と家賃収入の比を計算、90年で基準化したものですが、右肩上がりが続き、採算がほぼ一貫して良くなっていることが分かります。

こんな貸家市場に食指を動かす人がじわり増え始めています。個人による貸家建設は、バブル崩壊後、減少が続いていましたが、2000年を底に増加に転じています。貸家と並んで都市部での不動産投資の有力な選択肢になっているワンルームマンションなど投資用分譲マンションも、首都圏での発売は02年以降3年連続で8千戸を上回っています(不動産経済研究所調べ)。これら投資用マンションの所有目的も、値上がり益ではなく、賃貸による「あがり」を目的とするものがほとんどのようです。

所得税の申告状況を見ると、もう1つ興味あることが読み取れます。大規模な税制改正のあった99年以降で比較すると、他の所得よりも不動産所得が「主」という人が増える一方で、「従」の人は減少しています。高齢になりリタイアしその他の所得がなくなった消極的専業化もあるでしょうが、採算性の上昇で本格的に不動産投資に乗り出す積極的専業化も増えていると思われます。貸家経営はセミプロ化が進んでいると言えます。

貸家市場に参入してきているのは個人だけではありません。貸家の建て主を見ると、99年以降会社によるものが徐々に増えています(右図)。不動産投資信託(REIT)や私募ファンドなど、今まで以上に投資効率を重んじるプロが進出していることが背景にあります。

しかし、市場の先行きは必ずしもバラ色とはいえません。少子高齢化により貸家マーケットの最大の客層である若年層が減少しているからです。15―24才の人口は2000年の1,591万人から2010年には1,270万人になると予測されています。また、全体の世帯数も2015年をピークに減少が見込まれています。

個人と企業が限られたパイを奪い合う中で、好採算を支えてきた建築コストの低下(=デフレ)や低金利も反転に向かう可能性があります。折り込みちらしが掲げる「利回り○%」のうたい文句はやはり相当幅をもって見ておく必要がありそうです。

(NEEDSアドバイザー 関口聡子)

 
不動産所得、貸家採算関連データはNEEDS「日経総合経済ファイル」、住宅着工統計(建築主別、利用関係別)は「産業データ」でご利用いただけます。

 
関連記事はこちら
NEEDS分析「未曾有の少子化時代の行方」(2005/6/22)
NEEDS分析「26年ぶり自営業者急増なぜ」(2005/3/16)
NEEDS分析「出口見えたか「土地デフレ」」(2003/12/16)