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日本産業のグローバルな発展を目指して

 世界的な好況の中でグローバル市場をめぐる企業間競争が加速している。国境を越えた企業買収や合従連衡も活発化している。日本の産業がこうしたメガコンペティションを勝ち抜く上で乗り越えるべき課題は何か――グローバル化時代の産業政策・金融の役割を含め、齋藤宏みずほコーポレート銀行頭取と榊原英資早稲田大学インド経済研究所所長が話し合った。

グローバル市場で戦う日本企業 投資銀行業務で強力支援

思い切ったリスク取り
市場ごとに戦略使い分け

齋藤:  バブル経済崩壊後、日本は失われた10年とか15年といわれた。だがこの間、日本企業は人・モノ・カネを徹底してリストラし、財務を強化し、必要な技術力を研ぎ澄まして筋肉質の企業体質に転換した。みずほは東証一部上場企業の約七割と取引があり、多様な業種を間近に見て、そう実感している。
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榊原:  確かに日本経済は1990年代に再設計され復活を果たした。一時の悲観論からも脱し、確かな自信を持てるまでに回復した。

齋藤:  日本の産業が持つ強みは依然として健在だ。卓越した技術力が生む製品の高付加価値化や素材・部品から組み立てまで一貫したフルセット型の産業構造は、韓国や中国にない日本の強みである。素材産業の優越性も日本の特色で、航空機向け新素材や自動車向け高張力鋼、液晶パネル向け部材といった高付加価値素材が日本の優位を支えている。こうした比較優位を保ちつつ、アジアとの水平分業ネットワークを強化していけば、日本産業は今後もその強みを維持していくことが可能だ。

榊原:  現在は好収益を上げている日本企業だが、5年後、10年後となると心配になる。韓国が追い上げ、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の台頭も著しいなど、大変なメガコンペティション(大競争)の時代に突入している。こうした状況をみると日本企業には危機感を感じる。

齋藤: photo  今現在は、世界同時好況と新興国を加えたメガグローバル市場の出現によって、日本企業のグローバル展開は加速し、海外での収益拡大に拍車が掛かっている。少子高齢化などで国内市場の大きな成長が見込めない日本企業にとって、海外市場での事業展開がいっそう重みを増している(グラフ)。今こそグローバル化に対応した事業戦略や投資戦略を推進し、し烈なグローバル競争に勝ち抜いていく必要がある。

榊原:  その点、日本企業は依然として「良いものは売れる」という発想で、マーケティングでリスクを取っていない。韓国企業は市場に見合った価格帯の製品を大量に作り、膨大な投資をしてインドやアラブ、東欧でもブランドを確立している。このように市場によって戦略を使い分け、思い切ってリスクを取ることが日本企業は苦手だ。

齋藤:  日本の技術・製品をうまく活用して後発メリットを享受している韓国企業は、研究開発費の代わりにマーケティングやブランディングに資金を投入している。日本は、技術力が高い一方で、現地ニーズにマッチした商品開発が不十分だった面がある。製品のオーバースペックもその一つ。インドでの日本車の成功例に見られるように、価格・性能と購買力のバランスが取れた商品投入が重要だ。

榊原: photo  新興市場への参入では日本企業はローカリゼーションができていない。中国や東南アジアには日本を理解する土壌があるが、それがないインドなどでは一部の例外を除いて日本は対応できておらず、進出が遅れている。今後インドやイスラム圏、東欧に進出するには、その地域の専門家を育て、そうした人材を厚遇していくことでローカリゼーションを推進していくことが大切だ。

齋藤:  人材の育成は、ものづくりの基盤技術を継承していく上でも重要だが、調査によると、日本の中学生の数学、理科の学力は低下し、大学生の理工系離れが進行している。

●日本企業の海外営業利益と営業利益の海外比率 日本企業の海外営業利益と営業利益の海外比率
榊原:  この夏、「日本の次世代リーダー養成塾」(塾長・御手洗冨士夫日本経団連会長)で韓国、中国、香港、タイなどアジアの高校生と交流したが、日本の学生よりよく勉強しており意識も高い。この差は、一生懸命勉強した先に、日本の子供たちが夢を持てなくなっているからではないか。子供たちが技術者や経営者になりたいと思える活力ある経済社会を、処遇や教育の面を含めて再構築する必要がある。

齋藤:  教育改革の重要性はますます高まっており、グローバル化や技術立国を念頭に置いた真剣な議論が望まれる。また、市場メカニズムが経済、産業に浸透していくなか、短期的な成果のみで評価する風潮があるが、長期的な視点で見る勇気を持つことが大事だ。

『金融も事業リスクをシェア 日本企業のグローバル戦略支える』

イコールフッティングの
競争環境づくり

榊原:  国境を越えた企業買収や合従連衡が活発化する大競争時代を勝ち抜いていくためには、日本の新しい産業政策が必要だ。

齋藤:  かつてのクローズドな経済では通産省(現経済産業省)主導の産業政策が功を奏したが、グローバル化が進んだ世界では省庁横断型の総合的な産業政策が求められる。韓国は国を挙げた産業政策でエレクトロニクス、自動車、造船などをリーディング産業に育てて日本を追撃している。米国もハイテク・オリエンテッドな産業政策を戦略的に展開している。日本もグローバルな視点に基づき、企業がイコールフッティングで競争できる環境づくりが必要である。

榊原: photo  だが、今の政策はそれに逆行している面がある。かつては大蔵省(現財務省)や通産省が政策全体をコーディネートしていた。その機能が後退する一方で、やたらと法律順守や企業規律に厳格になっており、マスコミもそれをあおっている。もちろん法律を厳格に適用することは必要だが、独占禁止政策のようにグローバルな観点から見なければならない政策もある。新しいことに挑戦すれば失敗はつきものであり、小さなミスをたたき過ぎるのも競争力を削ぐことになる。

齋藤:  従来の税制や法制が企業の新しい事業展開の足かせにならないよう、グローバル化と調和した産業政策を望みたい。例えば、欧州連合(EU、平均29.5%)やアジア(主要国平均27.3%)に比べた日本(40.7%)の法人税実効税率の高さや、株式上場基準や独占禁止法の運用の違いなどは、グローバルな競争条件を左右する重要なファクターである。

『官民で日本の産業政策描け 専門家を育成・登用し、処遇せよ』


高度な金融技術と
リスクの分解機能

榊原:  グローバル競争に生き残るために産業界、行政が努力していくなかで、金融機関の役割も高まっている。

齋藤: photo  金融機関も大きく変わっていかなければならない。事業のグローバル展開によって企業の投資額は巨大化している。企業サイドのニーズは、資金を調達することに加え、これに伴う事業リスクを金融機関がシェアできるかどうかに変化してきている。そのためには事業評価という銀行の根源的な機能をグローバルな視点のもとで発揮していく必要がある。技術評価も同様だ。さらに、金融技術で事業リスクを分解・加工して再構築し、測定可能なリスクに変えていくことも銀行の役割である。そこでは当然、リスクに見合ったリターンが期待される。これを銀行のネットワークとディストリビューション力を生かしてさまざまな投資家にシェアしてもらうことで、企業の投資戦略を支えていく。

榊原:  そうした投資銀行業務でみずほコーポレート銀行は国内の先頭に立っている。邦銀には欧米型の投資銀行はまだないが、本格的にスタートするにはこの分野のプロフェッショナルを結集していく必要がある。

齋藤:  金融機関にとって人材は最大の資源。経済、産業の激しい環境変化に対応していくために、当行でもこの1年半で約300人のキャリア採用を行った。かつての大手邦銀ではあり得なかったことで、こうした動きが今後の銀行の方向性を大きく変えていこう。

榊原:  日本の金融技術レベルは決して低くない。アジアでの展開では日本の強みを生かしやすい。金融機関が先頭に立って民間ベースで日本の産業戦略を描いていくことにも期待したい。

齋藤:  国益をきちんと見据え、外資系に負けない力を備えて、日本企業をグローバルにサポートしていきたい。昨年の当行の「投資銀行宣言」と今年の「GLOBAL宣言」はその決意を表明したものだ。つねにグローバルな視点を持ち続け、産業や金融の変化に即応しながら、日本企業の発展に貢献していきたい。


今回のポイント

齋藤 宏氏
ポイント1 日本企業はグローバル化に対応した事業・投資戦略を推進し、し烈な競争に勝ち抜かねばならない。
ポイント2 銀行もグローバルな視点で事業を評価し、そのリスクを分解、分担し、再構築して企業の成長戦略を支援する。

榊原 英資氏
ポイント1 日本企業は新興国の市場戦略で韓国などに後れを取る。ばん回には専門家の育成と登用が必要だ。
ポイント2 活力ある経済社会を再構築し、グローバルな観点を持つ産業政策を官民で推進すべきだ。

今回のポイント

提言者紹介
齋藤 宏氏1966年東京大学経済学部卒、日本興業銀行入行。94年取締役、97年常務取締役、2000年みずほホールディングス常務執行役員、02年みずほコーポレート銀行取締役頭取(現職)、03年みずほフィナンシャルグループ取締役(現職)
みずほコーポレート銀行
頭取
齋藤 宏氏
トップの横顔
Q.
絵画鑑賞がご趣味だとか。
A.
時間があれば、できるだけ美術館に足を運ぶようにしていま す。フェルメールから今はカラバッジオに入れ込んでいます。
Q.
最も思い出に残る仕事は?
A.
迷わず、2003年3月に実施した「一兆円増資」です。これを抜きにして今の〈みずほ〉は語れません。我々はあの時の感謝の気持ちを決して忘れず、皆様の期待に応えていく責務があると思います。

有識者紹介
榊原 英資氏1965年東京大学大学院修了、大蔵省入省。69年ミシガン大学経済学博士。95年同省国際金融局長、97年財務官。99年慶応義塾大学教授、06年現職
早稲田大学
インド経済研究所所長
榊原 英資氏

スキルチェック
著作隣接権
【peripheral copyrights to software】
著作物の伝達に重要な役割を果たしている実演家(俳優、歌手など)、レコード製作者、放送事業者を保護する権利。権利の存続期間は最初の録音や放送の翌年から数えて○年。○に入れる数字は何か?

経済新語辞典 「経済新語辞典」
日本経済新聞社編から出題


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