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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (6/23)曲がり角のクラブ法人 国税庁「指導」の波紋(2)
 前回に続いて、クラブ法人19社の税務会計処理について、国税庁の指導が入った問題を取り上げる。前回、紹介した社台サラブレッドクラブ(社台TC)の出資者向け文書では、「主な変更点」として5項目を挙げている。うち、(1)「利益の分配」の際の20%の源泉所得税(2)JRAが賞金・手当を支払う際に行っている源泉徴収(実効約8%)の帰属(=“パススルー”の可否)――の2点については、前回で検討した。文書が触れた残りの3点とは、(3)匿名組合への消費税課税に伴い賞金から控除される(4)馬主登録を持つ人が競走馬保有を事業扱いとしている場合、クラブへの出資と配当は雑所得扱いとなるため、双方の収支を合算できない(5)複数の馬に出資している人は、赤字馬が引退して損失が確定しない限り、当該年度の黒字馬の所得と合算が出来ない可能性がある――の各項目である。

 ダメージ必至の牧場系クラブ (3)と(4)は牧場系クラブへの影響が想定される。牧場系クラブでは、まず馬が牧場からクラブに売却されて、所有権が移転する。牧場は販売価格を売り上げとして計上するが、満口(完売)とならない馬も少なくない。売れ残った口数はクラブではなく、牧場が抱える。募集価格が「10万5000円×100口=1050万円」の場合、仮に20口しか売れないと、牧場には210万円しか入らないが、課税の際は1050万円の売り上げから経費を差し引いた額が対象となる。しかも、売ったはずの馬の消費税40万円ものしかかる。ここまでは従来と同じだが、仮に馬が稼いでも、今後は消費税が控除される。気の毒な話だが、見方を変えればビジネスモデルの破綻とも言える。もともと、牧場系クラブを構成する生産者の中には、評価の高い馬をなじみの個人客に売り、“スソ馬”つまり低資質馬をクラブに出すパターンを続けてきた人もいる。バブル経済華やかなりしころは、こんな手法も通用したが、出資者の選択眼が厳しくなった今は無理な相談。口数の大半が売れ残るのは、価格設定に無理があるからだ。馬主登録のある生産者なら、自らの名義で走らせれば済むし、逆に登録のない人がクラブ所属馬の口数のほとんどを持てば、名義貸しの疑義も生じる。売れない馬を提供する牧場と、リスクを負担しないクラブ法人の双方に問題がある。一方、一般出資者への消費税課税の影響は、現時点では見通しが立てにくい。これも出資者への毎月の配分金の性格がはっきり定義されて初めて、負担が想定できる。派生的な問題と見るべきだろう。

 “自転車操業”のクラブライフ (5)は一般出資者への影響が大きい。社台TC文書の(4)には、「雑所得が20万円を超える場合、これまで通り確定申告が必要となります」と念を押している。だが、納税義務者のうち、実際に申告していた人は何%いただろう? 1頭40口の社台系クラブを別にすれば、20万円というのはかなり高いハードルである。前回触れた通り、所得の定義が明確でない現段階では、納税義務者の範囲も見えないものの、社台系クラブへの影響が大きいことは論をまたない。各社の中で、社台グループが最も敏感に反応した理由はここにある。まさか当欄で、払うべき税金を払わないような行為(不作為?)を勧めることは出来ないが、払う側の負担感、不公平感の根底に何があるかを考えるのは有益だろう。

 多くの出資者は毎年、複数の馬に出資しており、年長馬が稼いだ配分金を次の世代の出資に充てている。だが、前回も触れた通り、生涯収支プラスの馬は8頭に1頭。多くの馬に出資すれば、少数の馬のプラスと、“その他大勢”のマイナスが相殺されるのが常。この辺は電話投票を頻繁に利用する人なら理解できよう。瞬間的に残高が増えることはあっても、長く買い続ければカネは溶ける。「損をしたのになぜ課税されるのか?」という感情論は理解できる。

 だが、税務署相手にこの言い分は通じない。現時点では推測の域を出ないが、所得が生じた年に別な赤字馬が引退して損失が確定しない限り、合算は難しそうだ。従来は出資者の中に、馬主と全く同じ方式で所得を申告し、還付を受ける人もいたようだ。クラブ法人が匿名組合方式を採り、出資者も一般の馬主とは異なるという認識が、実務レベルに浸透していなかったためだが、今後はそうは行かない。赤字馬が相次いで引退した年には、損失が累積するだけで節税の道はなく、馬が活躍した年にはしっかり課税される。馬券の場合、20万円以上で一時所得として課税される建前だが、捕捉は難しいのに対し、クラブ出資者への課税は法人に網をかければ済む。

 ただ、ここで再三触れた通り、現在の配分金をまるまる“所得”と解釈するのは、実態とかけ離れている。逆に言えば、当面の最大のポイントは「所得の範囲をいかに設定するか」である。この問題を巡っては、クラブ各社やJRAと国税庁の間で、現時点でも調整が続いている。前回の文末でも述べた通り、いきなり匿名組合から任意組合に衣替えするのは、余りにハードルが高い。現在の規定の枠組みの中で、出資者の税負担を少しでも実態に近づけるよう努力することが、オール競馬業界に課せられた喫緊の課題と言える。

 個人馬主には節税の道も… 税金問題が難儀なのは個人馬主も同じだが、個人は事業所得扱いを受けられる分、少しはマシだ。1974年以降、5頭以上の所有で事業所得扱いとされていたが、03年からは対象が大きく広がった。所有馬1頭でも、(1)申告の年からさかのぼって3年間、どの年にも収入がある(2)3年のうち、どこかで1頭が年5戦以上走っている――の2点を満たした場合、事業所得扱いとなる。この結果、他の所得との損益通算が可能となったほか、青色申告も可能となり、ある年に損失が出ると、前年に申告納税した所得税の還付申告が出来る。事業扱いとなるのは1頭所有者の約6割、2―4頭所有者の約9割とされる。03年1月、当時の日本馬主協会連合会の谷水雄三会長(当時)が、全国公営競馬馬主連合会とともに、事業所得扱いの拡大を求める要望書を農水省に提出。これを受けた同省が国税庁と折衝。競走馬に関する所得の扱いを定めた「所得税基本通達27―7」の解釈を明文化する形で決着を見た。

 第1回でも触れた通り、持ち主に収益をもたらす競走馬は8頭に1頭しかいない。損をして当然の趣味の世界を事業と認めれば、節税の道を開くことになるが、「税制は政治そのもの」でもある。当時、参院自民党の競馬推進議員連盟(青木幹雄会長)が活発に活動していたことも無関係ではないだろう。「いくら投じたか」を比較すれば、零細馬主と社台系クラブの高馬の出資者の間に、さほどの差はない。だが、片や事業所得、片や雑所得で本業との合算も不可能。馬にカネを出す人の中に「二級市民」がいるようなものか。

 居場所を決めたのは誰か? 前回の末尾で触れた通り、クラブ法人を匿名組合と位置付けた89年の理事長通達の背景には、馬主団体のクラブ法人排斥運動があった。「名義貸し」の疑惑を呼号してはいたが、狙いは台頭著しかった社台グループの圧迫にあった。通達と引き換えに馬主団体は「1馬主当たりの入厩頭数制限」という果実を手にした。89年当初から、美浦、栗東両トレセンと競馬場の出張馬房合計で、1馬主につき120頭が上限とされた。後に、登録馬の増加に伴う入厩困難が深刻化した97年に110頭、翌98年に100頭に削られた。近年、経営難の小規模クラブが大クラブの傘下に入る例が目立つが、これは、入厩頭数制限に対する自衛策でもある。

 このほか、03年6月まではクラブ出資者が口取り(記念撮影)参加を制限されていた。一文の得にもならない失笑ものの“クラブたたき”で、品性を疑わせるに十分だった。ただ、クラブを営む大牧場と馬主団体の力関係は激変した。長年、JOA会長を務めた小紫芳夫氏でさえ、近年はしばしば社台グループの生産馬を日本競走馬協会「セレクトセール」で買う。クラブ経営者と馬主団体の“手打ち”は済んだが、馬主団体がクラブたたきに狂奔した後遺症は重かった。競馬社会の中での「クラブの居場所」は、馬主団体が左右することになった。馬主団体幹部とのパイプの太さが、JRAの役員人事に影響を与えた時代は、そう古い話ではない。JRAも馬主団体を刺激してまで、クラブや出資者を積極的に位置付けようとはしなくなった。今回、クラブ各社はJRAへの働きかけと同時に、JOAから「邪魔はしません」の一札を取ってはいかがだろうか?

(続く)



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