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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (6/16)曲がり角のクラブ法人 国税庁「指導」の波紋(1)
 国内最大手のクラブ法人、社台サラブレッドクラブ(以下社台TC)が6月初旬、会員向けに郵送した1歳馬の募集広告に、「会員の皆様へ」と題した文書が添付されていた。吉田照哉社長名の文書は、同社を含む国内19のクラブ法人が扱う競走馬用商品ファンドについて「税務指導を受けている」ことを明かし、文末で「税務会計上の処理方法に変更の生じる可能性がある」と、断っている。文書は瞬く間に各クラブ法人の出資者に波紋を広げ、JRAや農水省、国税庁にも照会が寄せられる事態となっている。クラブ法人所有馬の中には、ハーツクライのような競馬界の看板を背負う馬も少なくない。日本の馬の所有形態全般を見渡しても重要な位置を占めている半面、クラブ法人自体が抱える様々な問題はこれまで、放置されてきた。国税庁の指導はこうした現状を揺さぶっている。事態は極めて複雑で現在進行形だが、可能な限りの論点整理を試みたい。

 (1)クラブ法人の制度的枠組 JRAで競走馬を保有する場合、馬主登録が必要なのは言うまでもない。登録の形態は個人、法人、組合の3つで、法人は個人からの移行が原則。登録に際しては、経済的要件と欠格事由(暴力団関係者とのかかわり等)の有無が審査される。経済的要件については、競走馬生産者と組合の構成員に個人より低いハードルが設定されている。だが、こうした制度が整備される前の1960年代には、現存するクラブ法人の一部が既に存在し、各出資者が共有者のような立場で競馬に関与する実態があった。ところが、66年の中山大障害を巡る不祥事を発端に、馬主の名義貸しに対する規制が強まった。馬主審査の基準の確立とちょうど同じ時期に当たり、暴力団関係者がクラブ出資者という形でJRAの審査の網を逃れ、競馬に関与する危険性も指摘された。この問題を解決しなければ、クラブ法人自体が存亡の危機を迎えると言われた。

 そこで、一部のクラブは弁護士と協議の上、商法の匿名組合契約を二重に挟む便法を編み出した。匿名組合とすることで、出資者が直接的に競馬に関与する道は遮断される。結局、JRAも関係省庁との調整の末、この形態での営業続行を認めた。ここで構築された枠組みは、馬主登録のある法人と愛馬会法人、愛馬会法人と個々の出資者がそれぞれ匿名組合契約を締結するというものだ。その後、91年になって商品ファンド法が施行され、クラブ法人各社は営業に際して、農水、旧大蔵両省の認可を得ることも義務づけられた。

 (2)器とずれた税務処理 関係者によると、国税庁は昨年からクラブ法人各社を調査した上で、「税務会計方式は匿名組合契約の形態に従うべき」との方針を示してきた。しかし、従来の各社の税務会計処理の方法は、匿名組合方式の建前とはかけ離れており、関係者はパニックに陥った。では、制度の建前と実態はどう違ったか?

 匿名組合が出資者に配当する際には、源泉徴収(20%)の義務がある。クラブ法人に当てはめると、愛馬会法人が各出資者に、“配当”する際、20%が引かれるわけだ。ところが各社は現在、JRAから支払われたカネから手数料(3%前後とされる)を差し引き、残りをすべて出資者に配分してきた。つまり、源泉徴収をしていなかったのである。また、JRAは賞金・手当から進上金を差し引いた額を馬主に支払う際、まず源泉徴収分(実効約8%)を差し引いている。ここで支払われた税の帰属については、19社の対応がほとんど真っ二つに割れていた。一部のクラブは、第一の源泉徴収分の帰属は出資者(出資者が支払った)と解釈していた。名義上の馬主がクラブ法人であれば、賞金・手当の受給者(=納税者)もクラブとなりそうだが、“パススルー”と称して、「各出資者が払った」という解釈を採るクラブもあったわけだ。出資者に確定申告の義務が生じた際、8%の帰属がクラブか出資者かで課税額も異なってくる。パススルーの解釈を採るクラブの会員は、自分が既に8%の源泉分を払ったという前提で、申告納税していたものと見られる。

 国税庁の指導の通りになれば、出資者への“配当”が2割目減りすることになる。ただ、ここで厄介なのは、現在の出資者へのカネの配分を“配当”と呼ぶべきかどうかに疑義があることだ。匿名組合の枠組みに従えば、出資とは馬代金の頭割りと、預託料に充当される維持会費の合計である。“配当”は、全体の出資額を上回るリターンがあって初めて生じる。だが、上記の通り、各社は賞金・手当が生じると毎月、出資者に配分していた。JRA所属馬で、自身の価格と預託料を超える額を稼ぐ馬は、12.8%に過ぎないという。厳密な意味で出資者に“配当”をもたらす馬は、8頭に1頭しかいないのだが、各クラブは馬が稼いだカネの約7割を、出資者に文字通りスルーしていた。この方法はカネの出入りが明朗になるなどの利点もあるが、匿名組合という器とのズレは余りに大きかった。

 (3)見えない着地点 冒頭で触れた社台TCの文書は、「賞金分配に関する処理方法を匿名組合契約に『あてはめた』場合、源泉徴収方法等について、実務上どのように運用されるべきかについては、現在のところ定かではありません」としている。上記の通り、毎月の配分金が“配当”かどうかは疑わしく、別な定義がされれば、源泉徴収の対象が狭まる可能性もある。こうした点を含め、国税庁は各社に対し、匿名組合の枠組みに準拠した税務会計処理のひな型を構築した上で、現在の1歳世代の募集馬から、源泉徴収を行うよう求めている模様だ。この世代が実際に賞金・手当を獲得するのは来年の夏以降だが、各社のシステム構築などに必要な時間を考慮すると、着地点を決める期限は「遅くて年内」と関係者は見ている。

 だが、こうした実務作業の前段階で議論は紛糾している。源泉徴収の実施による出資者への配分金の目減りを懸念して、クラブ各社の協議体は「匿名組合方式はおかしい」との主張を展開しているのだ。この動きの旗頭となっている社台グループは「国税庁と事を構える気はない。JRAがクラブ法人を匿名組合に枠付ける従来の方式を改め、任意組合と見なすことで直ちに問題は解決する」とし、問題解決の責任はJRAにあるとの姿勢を示す。従来の税務会計処理が匿名組合の建前と矛盾していたことについても、「競走馬保有の仕組みに全くそぐわないものであったため、(中略)『馬主に準じた会計方法』をその時点でも継続」(社台TC文書)と、悪びれた様子はない。だが、JRAは「右から左に(匿名組合から任意組合に)という話ではない」と、各社の対応に不快感を隠さない。

 (4)JRAのスタンスは? 「クラブを任意組合と定義すれば、登録のある馬主と同じ」がJRAの姿勢だ。現在の組合馬主も任意組合である。馬主登録審査を受けない出資者が、出資馬ごとに組成される任意組合の構成員とされれば、審査自体が有名無実化する。また、各社とも出資者の背後関係を調査してはいないから、「公正確保上、問題のある人物の競馬関与に道を開く」との懸念もある。これに対し、クラブ側は「組合規約で、出資者が『実質的な競馬関与はしない』と定め、誓約書を提出すれば解決する」との姿勢だが、JRAがこの方向で事態収拾を図ることは、考えにくい状況だ。

 「匿名組合」の枠組みに拘泥する理由はまず、競走馬の所有のあり方を「所有権」という排他的支配権に限定していることがある。その上で馬主登録によって各馬の所有者を確定し、「背後に怪し気なヒモはついていません」と、世間にアピールすることが、「公正競馬やファンの信頼の源泉」と捕らえている。この認識の当否については稿を改めて検討するが、ともかく、「所有権」以外は認めない立場だから、名義貸しの規制は当然の帰結である。「任意組合形式でも名義貸しは回避できる」というのがクラブ各社の主張だが、事はそう単純ではない。商品ファンド法施行に先立つ1980年代末、馬主団体は名義貸しの疑惑を呼号して、大々的なクラブ法人排斥キャンペーンを張った。社台系の馬の活躍に対する嫉妬(しっと)が根底にあったことは明らかだが、馬主登録審査委員会に2度も文書が提出され、大橋巨泉氏はクラブ擁護の論陣を張った。結局、89年の理事長通達で事態は収拾された。通達は「クラブ法人は匿名組合形式を採っている。故に名義貸しではない」という内容。何しろトップの見解である。相当な理由づけがない限りは変えられない。

(続く)



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