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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (4/24)"反転攻勢"と番組改革
 今日ではほぼ見かけなくなったが、JRAの多くの開催日に、分割競走が組まれていた時期があった。1997年の成績公報を見ると、ちょうど9年前の2回東京開催では、番組表上のメーン競走は、NHKマイルCが施行される最終日を除いて、第10レースに置かれていた。実際には、あとの7日も分割競走が組まれ、現在と同じ1日12レース施行だった。うち6日目(5月4日)は、障害オープン競走が不成立となったため、2つの平地競走が分割されている。

 番組表上は11レース組みとしていたのは、いわばハンドルの遊びで、出馬投票の多い未勝利や古馬500万条件を臨機応変に増やすために残りの1枠が使われていた。翌98年になると、最初から1日12レース施行の開催日が多くなり、分割競走はほとんど姿を消した。この時期は出馬ラッシュによる除外馬の増加が馬主団体サイドから問題視され、JRAがあの手この手の対策を迫られていた経緯がある。ハンドルの遊びを設定するような余裕がなくなったわけだ。

 前置きが長くなったが、ここ3週の古馬重賞を見ていて、分割競走のことを思い出してしまった。阪神牝馬Sが新設G1、ヴィクトリアマイルの前哨戦として、昨年までの12月施行から桜花賞前日に移設されたことで、マイラーズCや福島牝馬Sと出走馬を食い合う形になった。変えたJRAは織り込み済みなのだろうが、結果的に阪神牝馬Sは12頭(1600万条件1頭)、マイラーズCは11頭。福島牝馬Sはフルゲートながら、16頭中10頭が条件馬で、1000万条件のロフティーエイムが優勝。過去10年の阪神牝馬S(12月施行)は、平均出走頭数が14.8でフルゲート(16頭)6回。10頭立ての昨年を除く9回は13頭以上。マイラーズCも、過去10年の平均が14頭。一昨年が9頭だったが、昨年は16頭に戻った。3競走に出走したオープン馬は28頭で2で割れば14頭。3つは多過ぎたのではないか。

 「まるで重賞の分割ですね」――。こんな皮肉をJRAの番組担当者に向けると、「未勝利や500万の分割よりはマシでしょう」。マイラーズC2着のダンスインザムード、3着のディアデラノビアは、無事ならヴィクトリアマイルへ進むだろう。阪神牝馬Sで後続を引き離したラインクラフト、エアメサイアとの対決は本番に持ち越された。興味をつなぐ意味では必ずしも否定的に考えるべきではないのかも知れないが、何か薄味な重賞を3週続けて見せられた違和感がある。あくまでも好みの問題だが、1600メートル前後なら牡牝の一線級は同じ土俵で戦うべきと筆者は考えている。ヴィクトリアマイルの週には、もともと京王杯SCがあり、香港JCも昨年、「チャンピオンズマイル」を創設した。フィールドの食い合いが始まっていたところに、新たなG1を置いたら、さらに間の悪いことに、シーザリオが引退。スイープトウショウも骨折で戦列を離れた。今年は香港遠征馬はいない見通しだが、それでも重賞2分割である。

 JRAが芝のG1競走を新設するのは10年ぶり。10年前と言えば京谷昭夫理事長(故人)の時代。地方は既に下降局面に入っていたが、JRAは売り上げ4兆円が目前。京谷氏自身のキャラクターもあって、バブル期の残り香が漂っていた。新設された高松宮記念、NHKマイルC、秋華賞の3つは、今思えば突っ込みどころ満載だった。高松宮記念は今年、1200メートル未経験の馬が1、2着を占め、路線全体の層の薄さを露呈した。NHKマイルCはもともと、輸入競走馬へのクラシック開放問題を先送りする材料で、開放が進めば、あり方が問われるのは目に見えていた。秋華賞は菊花賞同様、「秋の3歳限定戦」で、世界標準に逆行するものだ。秋華賞のひな型の仏G1、ヴェルメイユ賞は昨年から「3歳以上」に変更された。

 この体系が10年続いたのは、売り上げの下降もあるが、さすがに「もう増やすのは無理」という判断が働いたからだ。JRAの開催日数やレース数は上限に達している。この状況で例えば重賞を増やすとすれば、オープン特別の昇格(=看板の掛け替え)か、今回のように似た領域のフィールドを薄めて使う(=分割)しかない。前出の番組担当者は昨年、「十分な層の厚さがなければ、G1新設はしない」と述べていた。昨年は牡牝混合G1で牝馬が大活躍した年で、牝馬G1の新設は概して好意的に受け取られた。ただ、増設に足るだけの層の厚みが長期的に確保されるかどうかは問題だった。加えて、牝馬G1の新設は常に、牡馬と戦える牝馬に安易な(?)道を用意し、注目度の高い牡牝混合G1を薄める副作用がある。

 それでも踏み切ったのは、第一にJRAが2006年を「反転攻勢の年」と位置づけた事情がある。昨年は売り上げが下げ止まり傾向となり、3冠馬ディープインパクトも出現した。注目度が高まったことを機に、今年は8年ぶりの前年比プラス予算を編成した。転換期を印象づける上で、JRA自体が打つ手としてはG1増設しかない現実がある。しかも、生産界は牝馬が売れないという積年の悩みを抱えている。04年からは、年間を通じた牝馬重賞のローテーションが確立されているが、中身はG32つの増設で、古馬G1はエリザベス女王杯のみ。春先の引退=繁殖入りが多いことから、従来は否定的に見られていた上期の古馬牝馬G1が、新設対象となった。

 グレード制施行後のJRAの重賞体系の変遷は、路線整備の歴史だった。中長距離一辺倒の構造に短距離・マイル路線を加え、古馬牝馬、ダートとすき間を埋めて行った。今回の新設で、短距離、マイル、ダート、古馬牝馬の各路線で春秋にG1がフル装備となり、もはや増設の余地はなくなったことになる。今回の増設にしても、安田記念に向かうはずの馬を食っている点で、過剰感は否めない。96年の3G1増設も、路線整備という大義名分の一方で、4兆円突破に向けた最後の一押しという下心が見え隠れした。だが、10年を経た今、G1(2歳戦を除く)の売り上げ上の“防衛線”は200億円から150億円に落ちた。全体のパイの縮小と軌を一にしており、JRAもまさか、G1を作れば売れるとは考えていまい。「反転攻勢」の目玉がG1新設というのは、何やら既視感にとらわれる。

 G1新設への疑問はおくとして、「層に合わせて」G1を置くなら、やはり2000メートルではなかったか。昨秋の天皇賞では、ダイワメジャーが賞金不足で除外となった。現在のJRAの競走馬の最も質の高い部分を集めようとすれば、明らかに芝2000メートルだろう。ヴィクトリアマイル当日に「4歳以上、東京芝2000メートル」のG1を置くと、安田記念まで3週あり、秋の「天皇賞・秋→マイルCS」と同じ。宝塚記念までは1カ月半ある。基幹距離である2400メートルの古馬G1が、現在は秋のジャパンC1戦であり、阪神のコース改修に併せ、宝塚記念を2400メートルにする手もある。昨年を例に取れば、ハーツクライやアドマイヤグルーヴは2000メートルG1があれば、狙ったに違いない。宝塚記念に直行したゼンノロブロイは始動を早めたかも知れない。

 ただ、どう転んでも問題は天皇賞・春である。5月の真ん中に中距離の古馬G1を置けば、天皇賞・春は確実に空洞化する。今年の登録馬は21頭で、ディープインパクトがいる割には多かったが、付近の2000メートル重賞がハンディG3の新潟大賞典だけしかないことを抜きには考えられない。2000メートルのG1新設にしても、天皇賞の距離短縮にしても、長距離重視の立場の人から強硬な反対論が出るのは間違いない。重要なのは、こうした問題を、従来のように利害関係者(馬主、厩舎関係者、生産界)とJRAだけで決める手法を改めることだ。この領域をどうするかを考える以上は、骨太の議論を避けて通れない。メディアに公開の「競走番組検討委員会」を設置し、もちろん、議事録も公開。一般のファンの意見も、各官庁が近年、取り入れているパブリックコメントのようなやり方で受け付ける。議論した結果が「従来通り」であっても、重みは全く違うはずだ。ファンへの応答性を高めるという点では、すき間的なG1増設よりもはるかに、「反転攻勢」にふさわしい一手ではないだろうか。



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