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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (1/23)2つの"条件付き存続" 生き残りに何が必要か?
 暦の上では既に2006年だが、国や地方自治体の会計年度上は、まだ05年が続いている。この年度は結局、地方競馬の廃止がないままで終わりそうだ。火種を抱えた主催者は枚挙にいとまないが、最も危険と思われた岐阜・笠松について、古田肇知事が1月12日、主催者の岐阜県地方競馬組合を構成する笠松、岐南両町長との会談で、06年度の予算編成にゴーサインを出した。笠松は昨年2月、任期切れ寸前の梶原拓・前知事が1年の期限を切って「試験的存続」を打ち出していた。05年度予算では徹底した経費削減を進め、1月1日の開催が終わった時点で約1200万円の黒字。古田知事は今後の収支の動向次第で「年度途中の見直しもある」という厳しい姿勢だが、予算編成をクリアすれば、06年度を迎えられる見通しとなった。

 笠松が昨年の時点で廃止を逃れた最大の理由は、累積赤字がなかったことだ。近年は基金の取り崩しで急場をしのぐ状態が続いていたが、税金投入には至っていない。05年度も現時点では2000万円前後の赤字決算の見通しだが、基金で対応可能な範囲に収まった。いや、大出血を伴うリストラで「収めた」というのが正確だろう。軒並み経営不振の各主催者だが、「税金を投入しない」「単年度収支均衡」といった明示的な条件付きで競馬を継続しているのは、笠松と高知の2カ所である。笠松は05年度予算で、賞金・手当などを約3億7000万円も削減したのを始め、前年の予算と比べて約13億円も経費を圧縮している。だが、ほぼ前年並みで組んだはずの売り上げは、1月1日の時点で前年比14.9%減。振興策は不発のままだ。

 とは言え、収益事業として出発した地方競馬が、公金を投入して生き永らえる状況は異常である。どこの自治体も厳しい財政状況にあり、競馬事業(公営競技一般も同じ)を税金で支えることに、地域住民の理解を得ることは極めて難しい。過去の貯金(基金)の有無にかかわらず、単年度収支が均衡していなければ、中長期的な存続は不可能と考えるべきだろう。その意味では、当事者にとって不本意な面は多々あり、先の見通しが立たない厳しい状況は否定できないが、笠松や高知は「まともな」存続のあり方を示している。

 同じ「条件付き存続」でも、笠松や高知と対照的なのが北海道・道営である。ここは道の直営で、存廃の最終判断を下すのは高橋はるみ知事だが、昨年11月に同知事は「向こう3年」と期限は示したものの、条件付き存続を打ち出している。昨年の笠松の存廃論議の底流には、公金投入の是非論があった。道営の数字を見ると、同じ日本の話かと目を疑う。単年度赤字転落は92年で笠松より1年早いだけだが、翌93年以降は毎年、10億円を超える赤字を出し続け、ピークの01年には約28億円。04年度末の時点で、累積赤字が200億円を突破した。同様に累積赤字が100億円を超える岩手は、金融機関の警告で04年度に危機を迎えたが、道営の累積赤字は「繰上充用」という形で道財政が処理しているため、岩手のような警告を受けずに来た。しかも、01年度からは負債の金利も棒引きしている。高橋知事が昨秋、存廃問題で態度表明をしたのは、99年の外部監査で厳しい指摘を受けて、道が2000年に「05年度までに単年度収支均衡」を打ち出していたためだが、04年度、進行中の05年度とも、単年度赤字は約13億円。「収支均衡」はいつの間にか雲散霧消である。

 05年度の発売総額は114億6739万2800円。前年を1.4%上回ったが、開催日数が3日多いため、1日平均では前年比2.1%減。131億円余りとされた「計画額」を約16億3300円下回った。この「計画額」がくせ者で、単純にいえば「実現不可能な売り上げ見通し」であり、リストラを避けるための便法になっている。昨年のJRAの年間売り上げは前年比1.3%減。地方の現状を考えれば、前年並みの売り上げを確保するのは至難の業。とすれば、売り上げが前年より約16%も増えることを前提にした予算は、最初から砂上の楼閣である。しかも、道営の特殊性は、歳入面でここまで背伸びした予算を組んでもなお、最初から相当の赤字を前提にしていたこと。05年度は約13億円の赤字の見通しだが、計画額を達成しても、赤字は約4億円減るだけ。当初から10億円近い赤字を想定していたのだ。

 売り上げの中身も極めて特徴的だ。03年以降、8カ所もミニ場外を新設(現在10カ所)しながら、北海道内の売り上げは前年比8%減。勝負どころの札幌では、待望のJR駅前場外が開場したが、結果は札幌競馬場の売り上げを食っただけで終わり、競馬場と駅前場外の合計は前年の競馬場の売り上げを13.8%も下回った。一方で南関東の場外発売は前年を額で約6億4000万円、率で69.4%上回り、道内の目減り分を補った。夏場に大井が旭川の夜間開催の3レースを発売するなど、手厚い協力を受けた結果だが、南関東も楽な状況ではなく、今後も自場を犠牲にして道営を支えるかは不透明だ。

 売り上げ面の頼りが南関東なら、「存在意義」の担保はJRAである。2歳馬の認定競走の設定数は過去2年、190競走ずつで全体(425競走)の44.7%。助成金は3億8259万円に上る。赤字幅を見ただけでも、助成金の意味の大きさがわかるが、配分が他場(最少が10=金沢、荒尾。最多で55=岩手)並みになれば、2歳馬の入厩は激減するだろう。「馬産地競馬」に意味があるとすれば、「流通を前提とした能力検定」であるはず。馬券を発売した揚げ句赤字を出し、他の主催者から補助金まで受け取る現状は、能力検定の場を維持するコストとしてはどう見ても過大である。コストを負担すべきは、検定の場を最も必要としているの生産界ということになる。結局、道営の存廃も「収支均衡」を基準に考えるほかないのだ。

 ところが、20日になって地元の「北海道新聞」が、06年度予算原案に関し、「約10億8000万円の赤字見通し」と報じた。売り上げは05年度比8%弱の増加を見込んでいるという。予算ベースで赤字が前年並みというのでは、「3年以内の収支均衡」という高橋知事の方針とも矛盾する。事実なら、議会の同意取り付けは難しく、紛糾は必至だろう。ともかく、道営の取り組みに決定的に欠けていたのは「いかに赤字を圧縮するか」の視点である。札幌のミニ場外は明らかな投資の失敗。開催日割も、今や札幌、門別、旭川3場の1日当たり発売金はほとんど横並び。輸送費のかかる札幌や、ナイター開催で経費の多い旭川より、門別を中心にするのが普通のはず。ところが、06年度の門別開催は前年比7日減でわずか4日となる。

 道営の関係者の依存体質には救い難いものがある。存廃問題に関し、「北海道地方競馬運営委員会」から高橋知事に提出された建議では、単年度赤字額がピーク時(約28億円)から半減したことを捕らえて、「収支改善の実は上がった」とした上で、「道営が馬産地を支えることで、JRAによる国家財政への貢献がもたらされている」として、国やJRAの支援強化を求めた。04年のJRAの新規登録馬5008頭のうち、道営からの転入馬は55頭(1.1%)。道営所属馬のJRA出走も145頭に過ぎず、これで「日本全体の競馬を支えている」(建議書)などと言われては、JRAも他の主催者もあきれ果てるだろう。99年にも当時の道農政部長が「JRAとの一本化を目指す」と議会で発言、JRAの怒りを買ったが、ここまで追い込まれても、依存という病を脱却する兆しすらも見えない。

 存廃を最終的に判断するのは道民・有権者である。07年4月の知事選は、「条件付き存続」という高橋知事の判断を問う場となる。道庁本体が職員定数の3割削減、給与一律1割カットといったリストラを進める中で、道営の現状が有権者にどう映るか。東京在住の筆者としては、議会の論議や世論の動向を見守るしかない。ただ、よほどの厚顔の持ち主でない限り、ここまで追い込まれた状況で、収支均衡に挑戦さえしない主催者を応援する気にはなれまい。

 もちろん、単年度収支均衡で事足れりではない。笠松は05年度、売り上げの期待できない日曜開催を増やしたり、年末年始の2日間の開催で名古屋と競合して目標売り上げの大きく下回るなど、自爆同然の挙を重ねたほか、場外発売所新設にも失敗。収支改善に水を差した。業を煮やした一部の関係者は、指導体制の刷新に向け、競馬運営の委託の受け皿となる公益法人の設立を模索している。成功のカギは、失点を招いた人的要素をいかに取り除くかだが、一つの方向性を示してはいる。それは、「競馬を地方財政からオフバランスした上で、自律的運営に転換する」ことだ。現在の地方競馬に以前のような財政貢献は難しいし、期待もされていない。収支均衡を前提として、赤字を出しても公金投入をしない仕掛けが必要だ。

 笠松の場合、競馬の継続で利益を受けるトータリゼータ業者などが新法人に関与し、赤字のリスク負担もする姿勢を見せている。04年度までのように、億単位の赤字を出していては、いかに競馬関連企業とて、うかつに参入は出来ない。収支改善があって始めて、公益法人化も現実味を帯びてくる。道営も2000年の段階で道直営から一部事務組合に移行する組織改革を打ち出したが、今では話題にすら上らない。累積赤字を一括処理するなどの"大手術"抜きには、改革もままならないのである。収支均衡を実現するはずの5年で、道営が積み重ねた赤字は約84億円。一口に「条件付き存続」と言っても、同じ国の地方競馬とは思えないほど中身は違うのである。



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