(11/14)JBCはどこへ行くか
大概のイベントは、5回もやると形が決まってくるものだが、JBC(ジャパン・ブリーディングファームズカップ)は例外のようだ。過去4回は大井で3回、盛岡で1回(第2回)と、東日本の2カ所に限定されていた開催場が、今回は初めての西日本(名古屋)に。それだけではない。距離は「スプリント」が1200メートルから1400メートルに、「クラシック」が2000メートルから1900メートルに変わった。距離変更は大井での第3回の「スプリント」が、スタンド改修工事の関係で1190メートルに変更された例はあるが、今回は2レースとも変更。しかも、コースの幅員が狭いため、フルゲートは16頭から12頭に減った。
名古屋競馬場は昨秋に開通した名古屋市営「あおなみ線」を利用すると、名古屋駅からわずか12分。駅からは徒歩で7分ほどかかるが、初めて訪れて立地の良さに驚いた。開通前は名古屋駅からバスかタクシー利用だったが、今では中央を含めて、国内で最も便利な競馬場の1つだろう。国内屈指の大都市の新幹線駅から徒歩時間込みで20―25分。しかも、日本で最も景気の良い名古屋圏。JBCが大井を離れたのは3年ぶりだが、地方経済の疲弊の影響を強く受けた盛岡と比べれば、今回のJBCは外部環境には恵まれていた。
結果は1日の売り上げが18億7194万5700円。過去5回で最低だったのは致し方ないとして、第2回の盛岡を3億円以上下回った。G12競走の売り上げも、スプリント5億9282万7100円、クラシック8億1358万6700円。ともに、盛岡JBCをわずかに下回った。主催者側の目標は1日20億円。この数字で3000万円前後の黒字を見込んでいた。約1億2800万円届かなかったが、地方競馬は粗利約23%だから、やった揚げ句に大赤字という最悪の事態だけは回避した。
平素の主催者としてのポテンシャルを比較すれば、3年前の岩手と現在の名古屋では大差がある。いずれも今日、廃止が取りざたされているのは同じだが、他種公営競技が周囲に点在する名古屋の方が、普段の集客力も売り上げも劣る。第2回では、盛岡本場と自前の場外で全体(21億8448万6800円)の32.8%を売っていた。今回は立地の良さに恵まれ、入場者は2万680人と盛岡の1万4287人を上回ったが、自前の場外施設が手薄なため、本場と域内場外の売り上げは全体の20.1%。8割を広域場外と電話投票に依存していたわけだ。特に、各種電話投票は19.1%で第2回の9.9%の倍近い。競輪には小規模場持ち回りのG2「ふるさとダービー」があるが、JBCも大井を離れると、ふるさとダービーと状況は似通ってくる。
今回は大井と兵庫・園田の両有力主催者が同時開催だった。“代償”ではないが、園田は大阪のウインズ難波で初の場外発売を実施し、JBCを併売。入場者は1万5000人を超えたが、名古屋分の売り上げは約7569万5500円。大井は夜間開催の最終日をぶつけ、ローカル重賞(TCKディスタフ)も組んだ。名古屋併売分は3億4797万6900円。当初のコンセプトから言えば、JBCは「地方競馬のショーケース」で、当日は他場が開催を控え、場外発売に専念するのが筋だった。だが、JRAが福島開催を打った一昨年(ばんえいは開催)を除くと、必ず当日は他の平地開催があった。今回、大井の当日売り上げは11億8291万1600円、園田は2億9367万8400円。2場を合計すると、名古屋の1日売り上げと4億円も違わない。開催しないと、難波のようなパターンが使えなくなり、南関東関係の事業所の入りが落ちるなどの負の影響もあり得るが、「各主催者が共通の目標に向かって協調する」というJBCの理念は空文化した。
今回のJBCを巡る問題点を挙げれば、(1)安易なスポンサーシップの導入(2)売り漏らしの多さ(3)クラシックの発走遅延とテレビ中継打ち切り――の3つか。(1)について言えば、JBC2競走の賞金3億600万円のうち、1億1900万円(39%)はJRAの補助金で、ほかにもJRAは場内の案内所新設やトイレの改修に資金を出している。「フサイチネット」の協賛金1000万円でレース名を売るのが、世間の常識に照らして通る話だろうか? この程度の判断すらできないほど、地方競馬はJRAへの依存を深め、しかもそれを「当然のこと」と考えているのだからあきれてしまう。失礼ながら今回のケースは、主に小規模主催者が低額で導入している個人協賛の延長線上の話としか思えない。賞金本体を助成するような企業協賛は、農水省の指導もあって、JRAでさえ未開拓の領域である。JRAの賞金助成を返上しても足りるようなビジネスを成立させれば、レース名を売っても良い。だが、今回のような安易なやり方は、レースのステータス向上どころか、主催者の窮状をさらすに等しい。
売り漏れの多さは、競馬場が2万人の入場者を受け入れる態勢を欠いていたことの反映である。売り上げの32.5%を占めた3連単のマークカードは使い勝手が悪く、窓口の処理能力を損ね、売り漏れの多発を招いた。JRAがフォーメーションカードを導入して1年以上たつが、地方のカード改善は手つかず。売り上げ以前に場内の混雑もひどく、人が動く導線は詰まり通しだった。スタンドも老朽化が進んでおり、天災や事故がなかったのは幸運に過ぎない。「クラシック」でナイキアディライトがゲート入りを渋り、発走が約10分遅れたのもお粗末の一語。名古屋はフルゲート12頭だが、出走手当を圧縮するため、グレード競走などを除いて最大10頭立てとし、整馬係員も削減している。出走調教師には「心配な場合はゲートに臨場を」と呼びかけている。各馬の癖に関する情報の共有や係員の対応の仕方など、問題点を挙げればキリはないが、要は安普請な競馬をしているということだ。スポンサーシップ、施設の受け入れ態勢、レースの運営…。一見すると別々な話も、根は同じである。
結局、JBCにあっては、「持ち回り開催」が「安普請OK」という意味に変質してしまった。本家・北米のブリーダーズCは、持ち回りと言っても、決して安普請を容認はしない。世界が注目するイベントを開催し得るハード、ソフトを整えた競馬場を、各地に広げることが、本家の理念である。昨年のローンスターパーク(テキサス州)も、以前はG3しか行わない競馬場だった。多くのコースを持つマグナ社の傘下に入り、施設を整えたことで、開催が実現した。理念を重視するなら、大井と盛岡以外に開催の資格はない。
今年と来年の開催地決定は、2007年11月3日が土曜で、JRAの開催と重なり、大井(平日夜間と見られる)以外での開催が難しいことを前提に行われた。今やどの主催者も、赤字覚悟のJBCはやりたくないのが本音。川崎は今年の開催に手を挙げた一方、「分離開催」の方針を示した。JBC実行委員会が却下することを見越した提案だったが、「持ち回り」の体裁にこだわる実行委は、1年越しで分離開催を認めた。失われたのは、「1日G12競走」というわずかに残った祝祭色。しかも、今年が1400メートルだったスプリントは1600メートルの「マイル」に衣替え。「クラシック」やJRAの武蔵野Sと、似たような出走馬を食い合い、薄味な顔ぶれになりそうだ。
施設上は有資格の岩手も、経営的には死線をさまよう状態だ。手を挙げたのは、経営改善計画にJBC開催を掲げていたこともあるが、廃止論を封印する狙いもあった。本末転倒も極まれりで、岩手競馬の赤字は地元住民の肩にのしかかる。岩手にとっての最優先事項は「少しでも赤字を増やさない」ことに尽きる。JBCを開催すれば、収益どころか傷口を広げる可能性の方がはるかに大きい。来年の川崎開催決定のかなり後に、地元紙が落選を報じた。「債務膨張のリスクが回避され、良い結果だった」と伝えるべきだった。
開催に手を挙げる主催者は少ないのに、地方競馬全国協会(NAR)などが、安普請を認めてまで持ち回りにこだわるのは、大井恒久開催を避けたいからだ。5つのダートグレード競走を持ち、うち3つがG1の大井に、また2つG1を渡すとなれば、JRAが黙っていない。だが、多くの主催者が存廃問題を抱える今、小手先の延命策で理念の空洞化を取り繕うことに、どれほどの意味があるのか? 「今更やめられない」という当事者のメンツのために、高い理念を掲げたはずのイベントが迷走を続ける姿はもはや見苦しい。
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