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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (10/17)公営競技関係法人"改革"の行方
競馬を知らない人が競馬改革を論じると何が起きるか――。昨年の競馬法改正の露払いを務めた農水大臣の私的懇談会、「我が国の競馬のあり方に係る有識者懇談会」は、冒頭の設問に対する回答を実物で提示した。今また、似たようなことが繰り返されている。橋本龍太郎内閣の時代に掲げられた特殊法人改革で、最後に残った公営競技関係5団体の組織形態問題を巡る議論が、やっと本格的に動き出した。特殊法人等改革推進本部の「参与会議」は10月3日、5団体の組織形態や改革の方向性に関する質疑を行った。この問題は2000年末の閣議決定で「05年度内に結論を得る」と、期限を切られている。閣議決定を年末と想定しても、残された時間は極めて少ない。参与会議は11月末に再度、質疑を行い、政府・与党との調整の上、最終的な方向が固まる見通しだ。いずれにしても、数少ない公式の議論の場である参与会議の質疑の内容は重みがあるはずだが、中身を見ると、競馬法改正時と似た低調な議論に終始している。

 ここで言う公営競技関係5団体とは、JRA、地方競馬全国協会(NAR)のほか、日本自転車振興会(日自振=競輪)、日本小型自動車振興会(日動振=オート)、日本船舶振興会(日本財団=競艇)である。5団体のあり方は特殊法人改革の文脈で議論されてきたが、競艇は略称が示す通り財団法人である。3日の質疑で最も関心を集めたのは、日自振について経済産業省がいかなる方向性を示し、各参与がどう反応するかだった。折しも6月に、同省キャリアの幹部が、日自振から同省の研究機関に“還流”した資金を流用してカネボウ株を取引するという不祥事が発覚したためである。

 もともと、公営競技5団体と言っても、JRAと他の4団体の性格は著しく異なる。残りの4つは「主催者からカネを吸い上げて、どこかに配る」団体であるのに対し、言うまでもなくJRAは自ら競馬を主催している。経産省の不祥事で浮上したのは、「日自振マネーが、監督官庁に私物化されている」との疑義である。補助事業を行うことで、各種公営競技は刑法の賭博罪の適用を免れており、開催の担保とも言えるが、それが「関係省庁の利権と化しているのでは」という積年の疑義を、今回の不祥事は裏付けたのである。当然、補助事業や団体自体の必要性が、鋭く問われざるを得ない。

 だが、経産省側の提出した資料(全11枚)のうち9枚は現況説明に充てられ、同省が所管する日自振、日動振の統合は「困難」としつつ、補助金不正流用などの再発防止策は「検討中」と述べるにとどまった。さすがの各参与も不満だったようで、「交付金決定のプロセスが不透明」「交付金に余裕があるから不必要なところに交付される。交付率を下げるべきだ」「国の補助事業との役割分担が不明確」などの意見が相次いだ。また、2団体統合についても「困難とする理由が不明確。スリム化を図るべき」との意見があった。

 不祥事絡みの競輪関係では存在感を示した各参与も、競艇については甘いコメントに終始した。日本財団は今年、笹川陽平氏が会長に就任。10年越しの世襲を実現させた。この一事からも、他種競技との扱いの差は歴然としているが、“創業者”笹川良一氏(故人)以来のファミリー支配の問題には踏み込んでいない。競技の運営を担う全国モーターボート競走会連合会(全モ連)は社団法人で、「特殊法人改革」という問題設定のラチ外に逃れてしまう。一方で、JRAは関連企業、団体への発注のあり方を、過去の質疑でしつこく問われており、この扱いには不公平感を募らせているに違いない。

 では、JRA、NARの質疑はどうだったか? 対処の緊急性から言えば、NARの方が優先順位は高い。他種競技も危機的には違いないが、日自振の不祥事は団体側にまだ余裕があることを示している。だが、NARが昨年度支出した畜産振興事業費補助金は、18億2865万2000円。地方競馬が刑法の適用除外を受ける根拠=開催の担保は同補助金であり、これがわずか18億円。05年度は10億円前後に縮小する見通しという。これでは、資金力のある民間企業が「10億円出すから、ギャンブルをやらせてくれ」と言い出しかねない。今後、補助事業の継続が困難になった場合、「違法性阻却事由がない」ことが、地方競馬の存立がさらに危うくする可能性もある。

 今回、農水省が参与への説明資料で、「地方競馬の改革の方向」として挙げたのは、(1)JRAを上回る人馬資源の有効、効率的な活用(2)供給過剰の是正、主催者間の競合の回避(3)競馬の専門家による民間的手法の導入などによる興行性の向上――の3点。01年の「地方競馬のあり方に係る研究会」、「有識者懇談会」の報告で繰り返し言及され、関係者は耳にタコができるほど聞かされている。問題は、3つとも主催者が自主的に取り組むべき課題で、NARの改革論議とは微妙にズレていることだ。参与会議翌日、「(1)―(3)の方向で地方競馬の改革が進められる」と伝えたメディアがあったが、これは「地方競馬改革」と「NAR改革」を混同した記事である。

 前記の資料はNARについて、「地方主催者の意思と責任で運営され、競馬事業の改善に資する業務を行う組織とする」と打ち出した。簡単に言えば、(1)―(3)の方向を推し進める組織に改めるということで、資料説明後には「地方共同法人化が必要」との参与発言もあった。「有識者懇談会」の報告にも、「地方主催者間の全国的統括・調整を行う機関が必要」「(NARは)主催者の意見を十分に反映させうる組織形態に」という記述があった。地方共同法人化はいわば焼き直しで、農水省の想定する落としどころと思われる。

 主催者間の「統括」はしないが、「調整」するだけの組織なら今もある。全国公営競馬主催者協議会(全主協)である。従来も複数主催者にまたがる問題の調整は、全主協を舞台に行われてきたが、この団体は法人格もなく、「議論のためのテーブルとイスを並べるだけ」という性格付け。一方、NARは今年の組織改革で競馬振興策を立案する部門の強化に乗り出したものの、本質的には裁決委員などの派遣や登録・免許、騎手育成など、競馬の“現業”以外は担って来なかった。農水省の説明に則した形で改組が行われれば、NARと全主協の一本化という流れが見えてくる。しかし、新組織が「主催者間の全国的統括・調整」を行い得るかは極めて疑問だ。

 地方共同法人は、現時点で日本に2つしか存在しない。「地方公務員災害補償基金」と「日本下水道事業団」である。01年の特殊法人等整理合理化計画で、「自治体が主体的に担うべき事業で、国の政策実施機関が実施するまでの必要性が認められないもの」の受け皿として設定された。自治体が共同で設立、運営するという性格から、国の関与の度合いは大幅に薄まる。その意味で、NARの地方共同法人化は、農水省が地方競馬から手を引く意味も含まれる。

 では、設立の前提となる「各主催者の意思」の統一は図り得るか? 最大の問題はそこにある。連携事業についてのコラムでも触れた通り、各主催者はあらゆる問題で異なる台所事情を抱え、利害関係を異にする。共同で何かを進めると、必ずコストと見返りの不均衡が生じる。現在のNARにも「スポンサー=南関東、受益者=他の小規模主催者」という構図がある。地方共同法人化となれば、NARを解散して資産を承継すると見られるが、その後のコスト負担を巡って主催者間の折り合いがつくか。「主催者の意思を反映させた」結果、「ない方がマシ」という結論が出ても不思議はない。

 各主催者によほど強い意志がなければ、番組や格付けまで踏み込んだ全国調整は実現不可能だが、法改正後の動向を見ても、そんな意思は感じられない。何より、「馬資源の共有化」のメリット自体が今では疑わしい。主催者の多くは、輸送費を負担してまで交流レースを行うより、開催日数を削って他場の場外発売に徹した方が効率的と考えているだろう。地方の馬資源の劣化は、そういう発想を頭から否定しにくい状況を生んでいる。結局、農水省の示した方向は、内部に深い矛盾を抱える。「全国的統括・調整」を望んでいない主催者が、主体的にそのための組織設立を目指すだろうか?

 ただ、とりあえずNARの承継組織を置くという要請だけは残っている。「要請」とは、連携事業と生産振興事業の受け皿である。昨年の法改正で「競馬連携勘定」と「競走馬生産振興勘定」を、わざわざNAR側に設定したことが、ここで利いてくる。連携事業はともかく、地方競馬を抱える自治体が「自らの意思で」設置した団体が、生産振興事業を行うことには深い疑義がある。しかし、生産界や背後の政治の圧力で動き出したという経緯を考えれば、新組織が生産振興事業を引き継ぐことは間違いない。空の財布がNARから新団体にバトンタッチされ、少なくとも2009年までは、JRAが年1回、財布の中身を補てんするという状況は続きそうである。

 このまま行くと、新組織は「主催者間の全国的調整・統括」を看板に掲げながら、NARの本体業務と04年改正法の後始末に終始する奇妙な存在に成り果てる可能性が高い。各主催者にまず問うべきは、「あと何年、競馬を続ける気ですか」である。続ける気のある主催者だけが、競馬施行のための最小限の要素を自力で確保するという観点から、ポストNARの組織を模索すべきである。蛇足ながら付け加えれば、200億円の累積赤字を抱えつつ、「当面の存続」に動いている北海道・道営のような主催者を「続ける気がある組」に含めることの是非は、別な次元で厳しく問う必要があるが…。



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