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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (8/29)改正競馬法は機能するか? 連携事業を巡って
 降ってわいたような衆院の解散・総選挙で、本来は予算編成作業が佳境のはずの霞が関は、いつもと違う夏を迎えている。幸か不幸か、日本の競馬界は「国から予算を引き出す側」にはいないが、それでも懸案があれば、動きが止まるのは同じ。今思えば、競馬法改正が昨年で片付いたことは、当事者にとっては幸運だったのかも知れない。郵政民営化関連法案のような厄介な案件の処理が、もし昨年だったら…。BSE(牛海綿状脳症)ショックのあおりで2年遅れた法改正が、さらに遅れた可能性もある。ただし、言うまでもないが、法改正は手段であって目的ではない。では、最大の目的である「地方競馬の立て直し」に、どの程度、寄与するだろうか?

 改正法の地方競馬関連部分は、(1)JRAとの相互受委託や私人、公益法人への委託解禁(2)JRAの拠出による各主催者の連携事業への助成事業創設(3)単独で収支改善を目指す主催者に対する地方競馬全国協会(NAR)1号交付金猶予――の3点である。各項目の現状に簡単に触れると、私人への委託は、岩手県競馬組合が安代、宮古、釜石の3カ所のテレトラック(場外発売所)の運営管理を6月から、地元の別々な民間企業に委託。愛知県競馬組合は4月から本場と場外の発売業務を、地元のビル維持管理会社に委託した。昨年限りで競馬事業から撤退した群馬・高崎の跡地に設置された「BAOO高崎」では、南関東4場などの発売元がNARの関連企業である日本レーシングサービス(NRS)に、業務を委託している。ただ、地方主催者の期待が強かったJRAとの相互受委託は、手数料率を巡るJRAとの対立から、昨秋に協議が打ち切られている。

 委託の解禁には、民間委託による経費削減と、JRAとの相互発売による増収という両面があったが、一方は立ち消え状態。残った民間委託も、動き出した3つの案件の効果のほどは未知数だが、一部主催者には、新設するミニ場外の運営を民間に委託する動きがあり、それなりの意味はあったと言えなくもない。問題は今回の本題の「連携」で、当初の想定とは大きく異なる事業が進行中である。具体的に言えば、主催者間の連携(=ブロック化)が全く進展しない一方、すきを縫う形で地方競馬全体のインフラ整備が、競馬の将来像に関する十分な議論を欠いたまま、なし崩しに動いている。

 連携事業として実現、または進行中なのは、現時点で以下の4つである。まず、南関東の電話投票のネットバンキング導入が、5月から始動した。ただし、この件は法改正以前から進行していた事業で経費もそうかからず、相対的に経営体力のある南関東は、「助成がなくても実現可能」と考えていた経緯がある。次いで、NRSの運営するD-netでも、10月からネットバンキングが運用開始の見通しとなっている。以前のコラムでも触れた通り、ネットバンキングは情報量の少ない主催者ほど、増収が期待しにくい面がある。それでも動き出したのは、助成の枠組みと関係している。連携事業では実施主体(各主催者)も50%以上の費用負担が求められるが、ネットバンキングの場合、費用が相対的に低く、売り上げ増で回収する道もあるからだ。だが、売り上げに直結しないインフラ整備事業では、費用負担の問題が壁となって、進展が難しくなってくる。

 ネットバンキング以外で、現在進行中の連携事業は、「RINCS」(地方競馬情報処理システム)の更新と、映像ネットワークの構築の二つである。RINCSは老朽化が進んでおり、成績などのデータベースの更新がレース翌日と遅いこともあり、更新が迫っている。だが、情報システム整備は、主催者が自力で行うのが当然の話。JRAの助成金で更新するのは、いかにも筋違いと言わざるを得ない。連携事業は元来、各主催者が共同で進める場外発売所の整備やトータリゼータの共通化などの投資が助成対象とされており、RINCSを投資と扱うのは、無理があると言わざるを得ない。

 さらに問題なのは映像ネットワークである。各主催者の抱える事情が大きく異なり、それが費用負担の格差につながるとあって、現時点で既に波乱含みだ。現在は大井や北海道・道営などが自前でCS放送を行っている一方、広域発売レースが少ない主催者は、必要に応じて中継車を出し、衛星で他場にレース映像を送っている。各主催者とNARは地上光ケーブルを全部または一部に導入する方向を探っているが、実行した場合、多くの場外施設を抱える大井や道営の費用負担が大きくなる。大井の場合、広域発売では「送り手」の立場にいるのが常で、他場のレースの「受け手」となる場面は、ダートグレードなど、極めて限られている。一方、道営や高知、福山など、恒常的に南関東を発売している主催者では、南関東以外の映像へのニーズは余り高くない。新たなシステムは、各主催者が他場の全レースをのべつまくなしに発売するような非現実的な想定に立っており、横並び的な費用負担が反発の的になるのは必至だ。

 費用負担に関するもう一つの問題は、岐阜・笠松のケースで表面化した。笠松は他場との連携ではなく、単独での収支改善を目指して、NARへの1号交付金支払い猶予を申請、7月に認められた。「連携」と「交付金猶予」は二者択一とされ、笠松が連携事業に参加しても助成金を受けることは出来ない。D-netのネットバンキング導入の際も、同じ問題が生じたが、ここでは「特例」で助成抜きの参加となった。当初の想定と異なる一連の事態は、改正法の“設計思想”が崩れつつあることを物語る。「連携」と「交付金猶予」が二者択一とされたのは、各主催者に「他場との連携による生き残り」か「撤退への地ならし」かの選択を迫る意味だった。だが、肝心の主催者間連携が全く進まなかったことで、連携事業の意味は変質し、主催者に選択を迫る意味合いも薄れた。交付金猶予を受けたのは、現時点で笠松1カ所だが、存廃問題を抱える他の主催者の中には、連携事業の費用負担についても「競馬存続の保証がない状況で、将来の費用負担までは…」と二の足を踏むところさえある。

 日本で法律を制定したり改める際には、途方もないエネルギーが投じられる。だが、こと今回の改正競馬法に関する限り「労多くして…」の感が否めない。手を打つタイミングが遅れたことも大きな問題だったが、各主催者に染みついた「自場完結型」の体質は、容易には変わらなかった。改正前は「東海・北陸・近畿」や「岩手+九州」と言ったブロックの成立が想定されていたが、いずれも立ち消えとなった。法改正の目玉部分が機能しないとあっては体裁が悪い。やむなく浮上したのが、NAR主導のインフラ整備だった。

 主催者間の連携が進まない中、力ずくでブロック化を進めようという意見も一部にはある。北海道、岩手、東海(名古屋)、兵庫、九州を「上から」系列化し、開催日割の調整や番組、賞金の共通化を進めようと言うのである。だが、累積赤字の合計が400億円に迫る“弱者連合”に、一時的にカネをつぎ込んでも、何年持つかは疑わしい。また、赤字を抱える主催者は、自治体に「損切り」をしてもらうことが前提となる。何より、自発的な連携ができなかった当事者を束ねるには、相当な腕力が必要だが、NARを始め、現在の競馬サークルのどこにも、そんな腕力のある主体は存在しない。

 総選挙が終わると、公営競技関係法人の組織形態問題が再び動き出す。焦点化必至のNARに「力ずくで主催者間調整をさせる」考え方が浮上する可能性は高いが、財政基盤は細る一方で、こうした調整に取り組んできた実績も人材も乏しい。連携事業や、改正法のもう一つの重要項目である生産対策の受け皿になったことで、なし崩しに当面の存続が決まった感があるNAR。だが、資金的な裏付けを与えているのはJRAである。付け焼き刃の「調整機能」を与える前に議論すべきは、「NARが本当に必要か否か」だろう。



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